半暮刻

著者 :
  • 双葉社
4.04
  • (76)
  • (119)
  • (47)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 1292
感想 : 109
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575246810

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本当のクズとは、どんな人間をいうのか?
    広告業界を舞台にした、人間性とは何かを問う社会派小説。

    第一部で「下級国民」として反社会的勢力、第二部で「上級国民」を描く(嫌な言葉だが)。

    その第二部の舞台が広告業界だ。
    広告代理店最大手「電●」。作品内での社名は「アドルーラー」。社員の自称は「電●マン」ならぬ「アドルーマン」。
    adruler(広告を統べる者=広告王)なら、そのままアドルーラーでええやん(と思った)。
    呪いや洗脳のように何度も連呼され、あまりのゴロの悪さに苦笑する。お前それでもアドルーマンか!

    ストーリーは昨今、社会問題化した実際の事件、報道を基にしている(てんこ盛りだ)。読みながら、皆さん「ああ、あれか」と思うはず。

    それを批判したいわけではない。
    しかし、フィクションとしての物語的飛躍に乏しく、すべてが想定の範疇におさまったのが残念だった。

    章立てのタイトルは、ドストエフスキーの『罪と罰』からと思われ、おそらく翔太と海斗の人格は、その主人公ラスコーリニコフを二分して造られたのだろう。
    ならばこそ、クライマックスのどこまでも噛み合わない情景も納得できる。

    改めて「人間性」について考えるきっかけになった。
    偉いから。貧しいから。学歴が高いから。前科があるから。
    あなたは人を人として見ていますか?

  • 鬼★5 若き二人の犯罪を通して、現代の薄暗い社会問題が浮き彫りになる… 社会派犯罪小説 #半暮刻

    ■あらすじ
    子どものころから恵まれなかった翔太と有名大学に通う海斗は、会員制のバーで働いていた。そこは利益追求のため、女性を風俗に陥れるマニュアルが用意されている残忍で狡猾な店であった。
    彼ら二人は自らの研鑽と利益のため、次々と女性たちを罠にかける。しかしついに警察の手入れが入り、翔太だけ逮捕されることになったのだが… 果たして彼らはどんな人生を歩んでゆくのか。

    ■きっと読みたくなるレビュー
    鬼★5 いま読むべき犯罪小説。まさに現代の社会問題を切り取った作品です。

    本書に書かれている物語はあくまでフィクション、でも本当にありそうな社会の闇がそこにある。というか、現実に同じような事件がありましたよね。被害にあわれた皆さんには、お祈りを申し上げたい。

    犠牲者になった人々へは残念な気持ちしかないんですが、なぜか加害者に対しても同じ気持ちになるんです。読めば読むほど本当に悪い奴は誰もいないような気がしてきて、ただやるせなくなりました。

    経済や環境に恵まれなかった者たちと、一度社会からはみ出したものへの扱い。そして上級国民や大企業との格差があまりにも酷すぎる…

    会員制バーの現実も酷すぎる。
    よくある話なのかもしれませんが、詳細まで知るとクラクラしてくる。組織も人も環境も全てに反吐がでますね。シンプルに女性を傷つけるのはよくない!

    大企業の現実も酷すぎる。
    私も聞きかじったこともあり、きっと中らずと雖も遠からずなんでしょう。ただ本書後半で語られる内容はとてもじゃないけど受け入れない。利益追求、成功だけの理屈から、どれほど人を傷つければ気が済むのか。

    酷い酷いと書き過ぎのレビューになりましたが、これが現代のリアルなんだと受け止めるしかない。刮目して読ませていただきました。

    ■ぜっさん推しポイント
    ここに書かれていることは決して他人ごとではない。ネットに情報を書いてる私もその可能性があるし、読んでいるあなたもその可能性がある。

    中途半端な正義感や聞きかじった合理性を妄信し、好き勝手に主張する。なんの利害関係もなく、しかも安全な場所からしか発言しない。そして「損」「失敗」「不道徳」という言葉には圧倒的に拒絶する。不景気という現代の日本において、こんな価値観を持った社会がいきつく先は、どうなってしまうんでしょう。

    しかし大切な人と出会い、様々な仕事や情報に出会えれば人々は成長していける。薄暗い未来でなく、明るい未来になって欲しいですね。

  •  月村了衛さん初読みでしたが、とても面白く読み応えがあり、物語にのめり込んでしまいました。月村さんの他作品に興味をもち、読書の幅が広がる体験ができました。

     物語は2部構成。1部が、女性を騙し、金のために風俗へ転落させるホストクラブの話。2部はガラリと変わり、利益追求のためには何の犠牲も厭わない大手広告代理店の話です。
     主人公は翔太と海斗。この2人の出会いと別れ、そして最後の最後に再会する物語でもあります。

     章立てタイトルである「翔太の罪」「海斗の罰」のネーミングが本作の内容の的を射ており、不条理さや罪と罰の奥深さを感じます。
     2部の共通点は、人をモノとみなす所業、人間の邪悪さでしょう。半グレや大手企業の裏ドキュメンタリーを観ているくらいにディティールがリアルで、現代社会の闇を描き切っています。実際の事件報道と重ねてしまうほど引き込まれます。

     主人公を2人置いたプロットも見事で、全くタイプの違う翔太と海斗の対比、金の亡者と厳しい境遇の者の対比と扱いの筆致が素晴らしく、絶妙です。
     日常のすぐ隣にある闇に足元をすくわれる怖さ、やるせなさが湧き出てきますし、読んでいてずーっと気分が悪いのですが、決して目を背けられない、という感じです。
     世の中に蔓延る胸糞悪くなる個人や社会構造を炙り出し、著者の怒りと鉄槌が表れた渾身作であり、社会派小説の傑作と受け止めました。

     翔太と沙希(=有紀)を救い、繋いだ「本」の存在と扱いが印象的でした。確かに本を読むことで、何かが変わったり救われたりします。(目的不要で)「ただ楽しいから読む」というくだりに、読書は万人のためのものだと、共感しかありませんでした。

    • ひまわりめろんさん
      本とコさんこんちは!

      これ良かったですよね!
      『脂肪の塊』も良かったですよん!既読でしたら失礼
      本とコさんこんちは!

      これ良かったですよね!
      『脂肪の塊』も良かったですよん!既読でしたら失礼
      2024/02/24
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      ひまわりめろんさん、コメントありがとうございます♪
      あー『脂肪の塊』ですよね。読みながら気になりました。
      未読です。機会を見つけて読んでみた...
      ひまわりめろんさん、コメントありがとうございます♪
      あー『脂肪の塊』ですよね。読みながら気になりました。
      未読です。機会を見つけて読んでみたい!

      若かりし頃『女の一生』を読んだ気がしますが、全く
      記憶がありません‥(笑)
      最近、外文はモーバッサリで(モーパッサンだけに)(汗)
      2024/02/24
    • ひまわりめろんさん
      『脂肪の塊』は短編なので、それだけ読むってのもありかもですね
      モーなんちゃらのくだりに関しては特にコメントありませんw
      『脂肪の塊』は短編なので、それだけ読むってのもありかもですね
      モーなんちゃらのくだりに関しては特にコメントありませんw
      2024/02/25
  • いや『半暮刻』ってなんやねん!ってとこですよ
    まずそっからですよ
    まずそっから始めないとですよ

    「はんぐれどき」と読ませたいらしい
    はは〜ん半グレと掛かってるな(名探偵現る)

    半分暮れかかった時間、夕暮れ時みたいな時間帯を指してるんでしょうね
    夜の闇に包まれる前の灰色の時間
    黒でもない白でもない灰色の存在である半グレと掛かってるんでしょうね(発見したのがどんどん嬉しくなってより詳しく説明したっぽい)

    いや〜それにしても読ませる
    ぐいぐい読ませる

    なんで?

    ストーリーとしては実際の社会問題をツギハギしただけの全く新鮮味がなく、次々と山場が訪れることもなく平坦で、先が見えるからハラハラもしない
    なのに掴まれる
    がっつり掴まれて離してくれない

    なんで?

    今まで自分が読んできた大好きな月村了衛さんの作風とは違うのに掴まれる
    そこまでたくさん読んでるわけでないので実は他にも似たような作風の作品はあるのかもしれんけど
    これはなんか月村了衛さんのターニングポイントとなる作品だったねと言われるようになる気がします
    後になってあの作品でさらに一段階上の作家さんになったよねって作品な気がする

    10年後の月村了衛さんが楽しみや!

    そうそうラストも良かった!

    • 1Q84O1さん
      ひま師匠が言うなら間違いないでしょ!w
      ひま師匠が言うなら間違いないでしょ!w
      2023/11/23
    • ゆーき本さん
      造語だったのか! 黄昏時とか逢魔が時みたいに ホントにある言葉かと思って調べようとしちゃった!
      造語だったのか! 黄昏時とか逢魔が時みたいに ホントにある言葉かと思って調べようとしちゃった!
      2023/11/23
    • ひまわりめろんさん
      地味に役立つひまめろレビュー( ̄ー ̄)ニヤリ
      地味に役立つひまめろレビュー( ̄ー ̄)ニヤリ
      2023/11/23
  • 人間の卑しい部分とかダークな部分が凝縮されているような小説でしたが、特に第2部は、まるで綱渡りをしているようなハラハラ感があって、たまりませんでした。

    主人公は翔太と海斗の2人の青年で、翔太は孤児院育ち、海斗は裕福な家庭で育った境遇を持つ。そんな2人が風俗斡旋をするクラブ「カタラ」で手を組み、次々と女性を毒牙にかけ、クラブでもトップクラスになる成績を収める。そして、2人はどんどんと深い闇へと潜り込んでいくというお話。

    こういうダブル主人公で重要な対比がとても素晴らしかったです。詳細を書くとネタバレになってしまうので、どっちがどのようになったかは書きませんが、「悪」にも色々種類があるんだなぁと。暴力や弱者からの搾取といった目に見えた悪意に対し、無自覚な悪というものの恐ろしさが描かれており、真綿で締められるようなジワジワとした恐怖や胸糞悪さがあり、それが本作の魅力なのかなと。

    内容はとてもセンシティブですし、胸糞悪い描写もあって心が痛む方もいらっしゃると思いますが、色んな方に読んでほしい作品です。

  • 児童養護施設育ちの翔太と有名私大に通う海斗は、半グレの経営する会員制バーで働き、二人で組むことによって楽に女性を騙してトップにまでになるが…。
    やがて警察に捕まることになるのは、翔太だけで。
    それから2人がどのような道を歩んでいくのか…。

    息をつく間もないほど、のめり込んでいく。

    どんな状況になったとしても、海斗の心根がわからないままなのが悔しいと感じた。


    現代社会にありがちな…と言ってもいいほどの場面が、これでもかと次々に出てくる。
    まるで社会の暗部を…悪を…抉るほどで。
    なんとも言えない感情が湧き起こり、心の中がいつまでも鎮まらない状態だった。



  • 施設育ちの元不良の翔太と有名私大に通うエリートの海斗
    同じ半グレのもとで出会い犯罪を犯すふたり
    やがて、警察の手が入り逮捕されたのは翔太だけ…


    そこからそれぞれの道を歩みだすことになる


    過去の罪を悔い、大切な人と出会い、辛い過去の記憶と向き合い、苦しみながらも真っ当な人生を歩んでいこうとする翔太

    一方、大手企業の若手ホープとなった海斗は一大プロジェクトの主要メンバーとして手腕を発揮する
    利権、裏金、賄賂、中抜きと闇の道を突き進む

    出発点は同じだが明暗をくっきり分けるふたりの生き方は読み応えあり
    もし、あなたならこの対照的なふたりの生き方どちらを選びます?


    いやぁ〜、これは凄い作品を読ませてもらいました!

    • かなさん
      この作品気になってました!
      読んでみようかな…
      でも「脱北航路」も気になってるんですよね(^^;)
      もう、読みたい作品ばかりで困っちゃ...
      この作品気になってました!
      読んでみようかな…
      でも「脱北航路」も気になってるんですよね(^^;)
      もう、読みたい作品ばかりで困っちゃいます…。
      2024/04/04
    • 1Q84O1さん
      かなさん
      読んじゃいましょう!
      この際、両方読んじゃいましょう!
      けど、ほんと読みたい本がどんどん出てきて困りますね〜(^_^;)
      かなさん
      読んじゃいましょう!
      この際、両方読んじゃいましょう!
      けど、ほんと読みたい本がどんどん出てきて困りますね〜(^_^;)
      2024/04/04
    • 1Q84O1さん
      ユッキーさん
      近々、裁判になると思うので頑張って!
      応援はしません!w

      表紙カッコいいですよね!
      そこは同感です(≧∇≦)b
      ユッキーさん
      近々、裁判になると思うので頑張って!
      応援はしません!w

      表紙カッコいいですよね!
      そこは同感です(≧∇≦)b
      2024/04/04
  • うわ〜。すごいの読んじゃったかな。体にズシっときた。
    最初は翔太が裏切った奴らに復讐するような単純な展開になるのかなと思ったけどそんな底の浅いものではなかった。
    翔太は大きな罪を背負ったけど償うということもせずに(償い方がわからない?)漫然と生きているだけだったけど有紀と出会い、そして本と出会うことによって本当に罪と向き合うことができて良かったんじゃないかな。にしても、幼少期を含めてかなり地獄を見ているが、、、途中からはもうこれ以上落ちるな〜とドキドキしながら読み続けてしまったよ。

    それに比べて海斗は全てにおいて恵まれているにも関わらずホントに表面だけで物事を上か下、損得でしか判断しないし、本質的に間違いを犯したと心から思わないヤツで、翔太が『邪悪』と表現するのも頷けてしまう。
    ただ個人的には虚構という言葉がずっと海斗に対して当てはまり、中身のない薄ら寒さを感じずにはいられなかった。
    海斗にカレーを作ってくれる人が現れたら少しは変わるのかな?
    アドルーラーに対しても虚構という2文字が当てはまり、逆に倫理という2文字はない。
    モデルとなったであろうあの企業もこんな感じなのかな?もしそうなら上辺だけ取り繕って今も変わってないんだろうな。

  • 月村了衛さん「半暮刻」
    読み終わったあとも心がじんじんしている。

    警察小説でもガンアクションでもない。
    ハードボイルドでもミステリーでもない。
    罪を犯した2人の男の人生を深く追体験しているような感覚で読んだ。

    主人公の翔太と海斗
    2人は同じ時期に軽い気持ちで半グレの世界に入る。
    翔太は児童養護施設で育ち不良で学歴もお金もなく、半グレになる道しかなかったから。
    反対に、裕福で恵まれた環境に育った海斗は自身の成長と勉強のため自ら選んで半グレの道に。
    正反対の2人は「カタラ」というバーでタッグを組み次々と女性を騙し貢がせ利用しおわった後は風俗に送り更に搾り取る。

    罪を犯した2人の対照的な人生を通して日本社会のグレーな部分に焦点をあて、本当の邪悪とは何かを書き上げている気がした。

    読んでいる間ずっと苦しかった。苦しいけれど読む事をやめられない。目を背ける事ができない。最後の1ページを読んでやっと息ができた。そんな読書体験でした。

  • 個人的に当たりとハズレの差が大きく感じる月村作品。
    今作は大当たり!でした。
    主人公ふたりの過去からの歩み。暗くて重いムードがしっかりと伝わってきます。
    ラストの交わらない会話にグッときました。

全109件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1963年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。2010年『機龍警察』で小説家デビュー。12年『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、13年『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、15年『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞、『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞、19年『欺す衆生』で第10回山田風太郎賞を受賞。近著に『暗鬼夜行』『奈落で踊れ』『白日』『非弁護人』『機龍警察 白骨街道』などがある。

「2021年 『ビタートラップ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

月村了衛の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×