一億三千万人のための 小説教室 (岩波新書 新赤版 786)

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  • / ISBN・EAN: 9784004307860

感想・レビュー・書評

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  • 著者は「教壇」という高所から小説書きの未経験者という下の者(読者)に教えるのでなく、読者を著者と同じく文学と小説を愛する者という、同等の目線におき語りかける。とりたてて腰が低いからというわけでなく、文学の無限の可能性、文学への愛が彼を謙虚にしている。 
     「少し長いまえがき」を読むのに時間がかかった。会話調のとっつきやすさとは裏腹に、そこに書かれていることは髄の髄といいたくなるほど本質をついていて、なおかつ他の小説家や文学評論家が指摘したことのない「新しい」ものだと思わされた。舗装されていない、誰も歩いたことのない道を歩くように、私はゆっくりと注意しながら読み進んだし、そうするべきだと感じた。例えば「一ついえることは、わたしぐらい小説が好きな小説家は滅多にいないのではないかということです(えへん)。もちろん小説が嫌いな小説家はないはずです(たぶん)」この(たぶん)が重い。「小説のようなもの」を書いている小説家へ向けられた反語的疑問では?小説を書かずに「小説のようなもの」を書いているのは本当に小説を好きじゃないからでは?という。
     著者はまた、「読者は保守的」だといい、「読者の楽しみのほとんどは『再演』のたのしみである」こと、「作者はそんな王様のいうことを聞く家来である」が、それはいまの小説の「悲しい実態」だともいっている。そして「傑作」や「芸術」と呼ばれるものがどのように生まれるのかもキチンと説明している。
     この「少し長いまえがき」だけでも十分700円の価値がある。
     レッスン6の「小説家になるためのブックガイド」も貴重で、ありがたく活用させてもらおうと思う。甚大な読書量の著者が「小説家になるための」リストとして作ったのだから時間がかかったにちがいないし、親切丁寧なコメントは短いが、ビシビシの迫力がある。プロの小説家もこっそり買って自らを叱咤激励するのに読むのではと思う。

  • 楽しく読みました。
    本当に何かを知るいちばんいいやり方はいつだって
    「その何かを、わからないまま、やってみる」

    やってみればいいんです。

  • p.43 鏡に映った、そのアホ面は、だれなのか。
       あっ、わたしか。

    と、まぁ何度ニシシと笑わせていただいたことだろう! 
    独特の小気味よいリズムが刻まれる文章と、ユーモア。それでいて、届いたものに、どしんと胸を突かれた。重い。深い。
    こんなに深い物事が、平易、かつ、少し軽薄にも捉えられる文章で、胸に響き、こころを捕まれるなんて!!

    この本の中では、二度不快な想いをした。二度、読むのをやめた。そうして、打ちのめされた。著者が「ほら、ごらん」と過去ほくそ笑んだに違いない。
    不快な想いは、一時的に怒りを伴ったし、紹介された文章を、社会的道徳を振りかざして弾劾し始めた。そこでハタと気がついた。読むのをやめたのは事実。私は目を背けた。人生の関わりも全く持とうとしていない。つかまえていない!

    目の前がすっと広がっていくのがわかる。この本は、文章の書き方や技巧は全く教えていないが、こころを教えてくれた。

  • 保坂和志が、世にある小説の書き方入門の中で、役に立つのはこの本だけ、というお墨付きがあったので、読んでみたら、この著者は保坂と違って、かなり謙虚。かつ分かりやすくて、「小説を書く」ことの本質を突いている。

    何より小説が大好きで大好きで、小説家になってしまったくらいだから、小説への愛情をひしひしと感じる。

    なんでもかんでも合理性、成果、スピード、効率、などが叫ばれる中にあって、小説に限らず、「物事」に対する、最も大事なことは何か、を思い出させてくれる一冊。

  • 小説を書くつもりもなく読んでみてもじゅうぶんおもしろい。ことばや言語を使った表現について考えさせられる。

  • 高橋源一郎さんのことだから一般的なハウツー本とは一線を画すんだろうと思って読んだらそのとおり。
    なにもシステマティックな理屈やテクニックなど語っていない。
    彼なりのユーモアいっぱいに書かれた名著です。

  • 「名文講義」からこっちも読んでみた。
    が、いまいち…。

    ただ、以下の話は面白いと思った。
    +++
    人は何かを考えて言葉を口にするのではない。
    まず口真似があって、外の世界から教えられることばの意味が、結びつけられる。

    だから、いろんな文章のなかから、好きなものを見つけたら、何度も読み、何度も書き写して、次にその文章で、つまり文章の作者の目線で世界を見る。
    その目線、感覚があなたに必要なものであれば、それはあなたの中へ根付くでしょう。

    2/14読了

  • これを読んだからって確実に小説を書けるようにはならないと思いますが、そんなことはどーでもよくて、小説っておもしろいなーと思わせてくれます。この人の読んでみよー。

    わたしは、人間という、この宇宙に偶然に生まれた、不思議な、けれども取るに足らない存在に取り付いている本能、その中でも、もしかしたらその点によってだけ、他の存在と区別されているかも知れない本能、「ここではないどこかへ行きたい」「目の前のその壁の向こうに行きたい」という本能が、小説を生んだと思っています。ならば、それは、人間の存在とともに古いものです。
    p.17

    ではなぜ教育とか、学校というものがあるのでしょうか。
    それは「一日六時間、みんなで同じ机に向かい、先生が書いていることを書き写す」というような無意味なことを、我慢できるような人間を作るためです。
    p.8

    あかんぼうは、何かをまず考えてから、ことばにするでしょうか。あかんぼうは、まず、言葉を口にするのです。何度も言葉をしているうちに、そのことばと、ははおやから、あるいは外の世界から教えられる、言葉の意味とが結びつくようになるのです。
    p.119

  • 何より読みやすく分かり易く好感が持てる、

  •   今までネットでシロートさんが書いている「小説の書き方入門」サイトはいくつか覗いてきました。
    でも、こうやってプロの作家が書いてる本は初めてです。
    夫から何冊か紹介してもらったうちの一冊。
    早稲田の文芸で授業をしていた三田誠広さんの本と迷ったけど、まずはこちらから。

    小説の書き方というより、言葉が持つ力を紹介してるような本でした。
    テクニックの指導を期待してたけど、ちょっと違ったみたい。

    でも、印象的だったことがあります。
    それは
    「好きな作家の真似をしろ」
    というもの。
    その人の作品を読んで読んで、次は真似をして書く。
    それを続けていると、いつかその人(好きな作家)の視点で物を見たり考えたりできるようになる。
    そうすると、作家の真似ごとだったのが、自分の言葉になる、というもの。

    小説じゃなくて、音楽でも絵でも応用できそうですね。
    今までこの手のことはよく言われてきていたけど、改めて読んでみると深い言葉だなと思ったので書いておきます。

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著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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