書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫 セ 1-1)

  • 早川書房
3.80
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本棚登録 : 1263
感想 : 111
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  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200939

作品紹介・あらすじ

島に一軒だけある書店の主フィクリー。偏屈な彼の人生は、ある日を境に鮮やかに色づきはじめる。すべての本を愛する人に贈る物語

感想・レビュー・書評

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  • 妻を亡くしたばかりの偏屈な書店主フィクリー(話の中ではA・Jと表記されている)が、店に捨てられていた小さな女の子を育てるうちに、少しずつ世界が広がっていく。
    あらすじを聞くと、ハートウォーミングな物語を連想するが、読後感は甘くはない。極力心のうちを描写せず、起こったできごとや行為を淡々と描く文体と、物語全体を通して「死」が身近に描かれていることがその理由ではないかと思う。

    物語はA・Jの後半生が描かれる。各章の始めには、A・Jが我が子として育てていくマヤに向けて書いたおすすめの短編とそのコメントが紹介され、その内容が章のストーリーに関連してくるしかけになっている。
    マヤの成長の様子や出版社営業のアメリアとの交流など、もっと掘り下げられそうなエピソードもあっさりと描かれていて、最初は物足りなさを感じるが、読み進めるうちにA・Jの歩んできた人生が頭の中でどんどん膨らみ、いつのまにか芳醇な物語となっていく。また、さらっと描かれたエピソードが後に重要な伏線となって物語を動かしており、よく練られたストーリーだと感じた。

    A・Jとその近しい人々の人生に訪れる出会いと別れ。そのきっかけとして本があり、伝えきれない思いを本を通して伝えていく。本を愛する人におすすめの一冊である。

  • 本を愛するすべての人たちに書かれた物語。
    自分が本好きで良かったと心から思える。
    書店主フィクリーと、彼をとりまく人たちがみんな本好きで、フィクリー自身も愛に溢れていて、ユーモアとウイットに富んでいて、物語の中でA・Jが紹介する本を含め、海外のものをたくさん読んでみたいと思った。
    本は、読んでみなければどんな感想を持つかもわからないし、生きていくこと自体もそういうものかもしれないなと思った。

  • 翻訳されたものは苦手で文体も私には合わなかったです。けれども最後まであまり時間をかけずに読み終えたので面白くないわけではないのかも。

  • フィクリー氏が偏屈な書店員のイメージそのままでちょっと感心した。章ごとの扉と、本文中にも実在の書籍に触れている箇所が多くて良かった。
    養女マリと妻アメリアと家族になれて、友人もできて…といい関係性が築けて、このままマリが成人するのか…と思っていたら…。
    本を読む幸せと、言葉に出来ることの大切さをしみじみ感じた。
    あと、盗まれたタマレーン、まさかの結果だった。

  • ニューイングランドのアリス島にあるアイランドブックスを訪れた出版社の営業担当のアメリアと、店に残された捨て子のマヤとの出会いが、妻を事故で失った店主A.J.フィクリーのスノビッシュな日常を一変させ、閉ざされていた島の人々との交流も開かれてゆく。様々な本を絆に、アメリアとの恋愛、マヤへの愛情、亡妻の姉イスメイ、警察署長ランビアーズとの親交が深まる日々に、マヤの母親の悲劇と父親、ポーの初版本の盗難の謎も織り込まれ物語が綴られる。各章の最初に記された本棚のレビューは物語の行方を暗示させるとともに、その本自体への興味を唆らせる。
    「小説というものは、人生のしかるべきときに出会わなければならないということを示唆している。覚えておくのだよ、マヤ、ぼくたちが二十のときに感じたことは、四十のときに感じるものと必ずしも同じではないということをね、逆もまたしかり。このことは本においても、人生においても真実なのだ。」

  • 素敵な物語。

    古き良き「北米文学」

    紙の本で、しかも文芸作品を読むという行為が既にノスタルジックになりつつある中でこの物語は古き良き北米(アメリカ合衆国とは言ってない)文学体験を思い出させてくれる。

    ポール・オースター、カポーティ、メルヴィル、フォークナー、ヘミングウェイ、ルーシー・モンゴメリ・・

    本を読むのが大好きだったし、書店が好きだったし、古本屋も好きだった。
    しかしいつからか読書から遠ざかり、お気に入りの書店は縮小され、或いは閉店し、気付けば電子書籍リーダーやらスマホやらで活字中毒の禁断症状を癒した事もあった。

    『いまやチェーンの大型書店もいたるところで姿を消しつつある。彼の見方では、チェーンの大型書店のある世界よりもっと悪いのは、チェーンの大型書店がまったくない世界だ。』(p.287)

    この物語は孤独、ひとりぼっちだった主人公たちが読書を通じて、書店を通じて、繋がりを得てゆく物語である。

    このプロセスはまるでモンゴメリの『赤毛のアン』よりもむしろ『可愛いエミリー』を読んだ時の体験に似ていたかもしれない。

    しかし、やがてAmazonや「電子書籍リーダー」の登場と加齢が迫ってくる。

    現代は、活字を、言葉を失いつつあるのだろうか。

    むしろ、我々はもう既に十分過ぎるほど言葉を失い、文芸を読むという行為を失い、豊かな感情体験をする機会を失い、共感する心もなくなりかけているのだろうか。

    読書は元来孤独な行為だったが、読書をする人はより一層孤独になってゆくのではないか。

    このようにも感じる事もある。

    そこで、『ぼくたちはひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから読むんだ。ぼくたちは読む、そしてぼくたちはひとりぼっちではない。』(p.327)というフィクリーの言葉が刺さる。

    そして、各表題代わりの短編の名前とフィクリーの名で書かれた読書リストが、最後の最後に活きてくる。

    この素晴らしくノスタルジックで素敵な物語体験は本が好きでよかった、としみじみと感じさせてくれる。

    古き良き北米文学だった。


  •  「人は、孤独だから本を読む」(ざっぱくな記憶)旨のポップに惹かれて手にとりました。
     ちょっと偏屈な書店主・フィクリーを中心に描かれるヒューマン・ドラマ。
     悲しいときも、うれしいときも、いつも傍らに本があり、本が人をつないでくれる。
     個人的には最終章が哀しすぎて。じゃあどんなラストならしっくりくるのか考えながら、やっぱりこのラストしかないのかな、と逡巡しています。

  • 面白かった。さくさくと読めた。物語の組み立てが素晴らしい。話中に出てくる作家や小説のタイトルが自分のお気に入りだったりして、思わずニヤリ。
    ただ、小説として高い評価がつけられないのは、登場人物の掘り下げが浅いから。職業や年齢、学歴、服装などの好みといった設定の中で、台詞や分かりやすい行動でしか描写されない登場人物たちには、それぞれの個性が際立っていない。そもそもフィクリーは偏屈か?こだわりは強いが、単純にいいいヤツではないか、だってマヤには最初からメロメロだし、アメリアにもストレートに恋してしまうし。偏屈な人間が愛に目覚めていくというような紹介があったような気がするが、そのような心の機微は全く表現されていない。
    作者の次回作であるところの「天国からはじまる物語」も同じことが言える。しかしながら、この作者は話の組み立てが上手いのだ。最後はまたしても、ぐっときてしまった。あたしもA・Jとアイランド・ブックスが好きだよ!と言いたかった。
    あとはほかの評価にも上がっているように、この作品には名言が多い。(~ひとりぼっちではないことを知るために読む~)それと、小さい頃の店でのマヤの様子はとてもとても微笑ましい。(お店は、横が十五マヤ、縦が二十マヤ)
    たぶん作者は本だけではなく、子どもも大好きなのでは?

  • 書店を舞台にした小説を見つけると、つい手にしてしまう。本書もそのひとつ。
    島にひとつしかない書店の店主フィクリーに、数々の悲劇が降りかかる。でも、悲壮感を感じないのが、本書の魅力。いい小説に出会った。

  • 最愛の妻を亡くして孤独に生きていた男が孤児を育てることになり、周りの人達を巻き込んでいく、やさしくて感動的な物語。一見、雑にみえるストーリー展開が良い味を出している。本好きな書店員さん達が選ぶ本屋大賞受賞(2016年度)に納得。
    ゼルダの新作(ゲーム)に心を奪われて、2ヶ月ぶりの読書です。書店でたまたま見かけて手に取りました。読み始めはよくあるストーリーかなと思いましたが、次第に引き込まれていきます。「ぼくたちは読む、そしてぼくたちはひとりぼっちではない」。

  • 第二部からぐんっ!と引き込まれるように読みました。
    ぼくたちは ひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。

  • 原題 THE STORIED LIFE OF A. J. FIKRY

    本屋さんで読みたい本を探すのは、
    浜辺できれいな貝殻を探すのに似ている。
    気がつくと1時間くらい経ってる笑

    どちらも自分一人で過ごすのが好きだけど、
    フィクリーの言うように、本は、
    「ひとりぼっちではないことを知るために」
    読むのであれば、
    ここに書いてるのもまた、そうなのかも。

    「きみは、ある人物のすべてを知るための質問を知ってるね。あなたのいちばん好きな本はなんですか?」

  • A・J・フィクリー アリス島唯一の本屋アイランド・ブックスの書店主
    ニコル・フィクリー 事故死したA・J の妻
    マヤ 小さな女の子
    アメリア・エイミー・ローマン 編集者
    ランビアーズ アリス島警察署長
    イズメイ ニコルの姉
    ダニエル・パニッシュ 作家、イズメイの夫
    マリアン・ウォレス ハーバード大学の学生、アリス島で入水自殺をする

    フィクリーの言葉
    『ぼくたちはひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから読むんだ。ぼくたちは読む。そしてぼくたちはひとりぼっちではない』

  • 話の筋はわかりやすいので、まあ悪くない話ではある。2016年の翻訳部門の本屋大賞らしい。

     島で唯一の書店の店主・フィクリー。若くして妻を亡くし、寂しさから酒に溺れ、わざわざ島までやってきた出版社の営業の女性に難癖をつける。初登場はとても偏屈な印象だけを残す。

     で、突然、幼子が書店に捨てられたので育てることになる。

     で、よくわからないが、難癖をつけたはずのその女性に恋をする。

     で、結婚して、捨て子とともに生活しだす。

     で、最後に病気になって死ぬ。

     ま、その間に周辺を含めていろいろなことがあるけど、なんか全てが、エピソードの切り貼りみたいだった。ひとつひとつがぶつ切りって感じ。読んでてイライラした。

     シナリオライターあがりが小説を書くと、こういう雑な文章になるよなぁ、って思いながら最後まで読み、巻末の解説を読んだら、やっぱりシナリオライターあがりだった。

     映画にしたら安心して観てられる内容だとは思うけど、小説家の文章ではない。

     前々から感じていたことだが、どうも本屋大賞というのは信用できない。

  • ある意味ハイジ

  • 本屋大賞翻訳小説部門2016年1位。映画の古典の名作のような静かな感動を受ける小説。昔の小説の名作をも彷彿させる。最近、特に翻訳もので、難解な文章を悶絶しながら読み進めるようなものが多かったので、これは対極。とても読みやすい自然な文章だけど、気を衒うことなく、いろいろ仕掛けもあって小説の授業で模範となるような小説。抑えた文体でユーモアに富んでおり、ストーリー展開も意外性もあって面白いし、全体的になんだか暖かくて心が静かにゆさぶられる。読んでるのがすごく心地よい。善人ばかりだけど、厳しい現実と真摯に対峙している様が甘すぎることなく締まった感じがある。すごくバランスが良いのです。最近小説があまり楽しめくなってきたのだけど、久しぶりに一気読みしたほど良かったのです。お勧め。

  • アリス島の唯一の本屋"アイランドブックス"、その偏屈な店主A・J・フィクリーと彼を取り巻く人たちの生活がつづられる。
    フィクリーの偏屈さは尋常じゃないレベルのものだが、彼の身にふりかかる様々な出来事――なかでも特に子供を拾ったこと――によって角がとれていく。
    悲喜こもごもなストーリーが展開される。
    文学作品についてのレビューも作中にはたくさん載っていて、興味を刺激する。ロアルド・ダールという作家に興味が湧いたので今度読んでみようと思う。
    全体的にすごくレイモンド・カーヴァーっぽい雰囲気が出ている。
    作中にも『愛について語るときに我々の語ること』が出てくるし、主人公は短編小説が好きだという設定だし、著者はカーヴァーのフォロワーなのかもしれない。
    中篇の小説でよくまとまっている。好きな類の本だった。

  • これはラブストーリーなのだな。
    序盤でノックスが引用されてたのがちゃんと伏線になってたりとか、著者のユーモアと愛情を感じる。
    自分が一番好きな本は何かって考えながら読んで『大きな森の小さな家』かなぁと思ってたのですが、なんとあとがきにでてきてキュンとしたので、忘れないように書いておきます。

  • もっともっと本を読みたくなった。
    本屋さんで本を買おうと思った。

  • 「好きな本はなぁに?」と自分に問いかけた。

    翻訳のせいか、原文はどうかわからないが、クセのあるリズムの文章が読み進むにつれてクセになった。
    いろいろな衝撃的な事件はあるものの底辺にあるのは温かさ。応援したくなる。
    各章の前にあるA・J・Fがあげる短編は読んだことがないものばかり。それらを読んでいたならもっとこの本が楽しめただろう。

    2016本屋大賞 翻訳部門受賞。本屋大賞に翻訳部門があることを知らなかった。

  • 読み終わったあと心が温かく、けどちょっぴり寂しくなる作品。
    常に温かく楽しいだけの話ではなく作中には不幸なことも結構起こるけど、文章が良い意味で軽やかだからか悲しすぎない。
    かといって軽い作品なのかというとそうではなく、文中には沢山の本の知識が散りばめられてるし本を通じて人が良い方向に変わっていったり、色々な人が繋がっていくことが読んでいて嬉しかった。
    存在しないはずの島の風景が目に浮かぶよう。
    主人公A.Jが作中の最後の方に言った言葉は本が好きなら刺さる人が多いんじゃないかな。
    本屋さんって最高!やはり街にひとつは本屋さんが必要だ。

  • やっぱり本屋さんっていいな〜
    この小説を電子書籍で読んだのは読書人生最大のミス。本屋さんへ紙の本を買いに行きます。

  • 中盤から物語に引き込まれていく。
    登場人物のディテールに少しリアリティが欠けるように思える。

    読んでいるとなぜかジュンパ・ラヒリを思い出した。

  • 最初はなんか思ってた雰囲気と違うなと感じながらも読み進めた結果、最後には読んで良かったと思えた。
    特に第二部後半の「古本屋」に全てが詰まっている。
    ブックガイド的な役割かつ各章冒頭の本にまつわるマヤへのメッセージも、読み進めるほどに胸にくる。
    本好きに刺さる意味も分かる。

    ぼくたちは短篇集なんだ。
    ぼくらはひとりぼっちじゃない。

  • 妻を亡くし偏屈になった書店主フィクリーさんとその本屋に置き去りにされた女の子の話。
    本好きの為の物語。ここに出て来る本をもっと知ってたらもっと面白かったやろうと思う。
    伏線が最終的に回収されてスッキリ。

  • 小説の分野でいろんな賞がある中、この作品が全国の書店員がいちばん売りたい本として「本屋大賞」を受賞した、というのはとても大きな意味を持っているように感じます。

    本を書く人、売る人、作る人、読む人…本を取り巻くあらゆる人や物事を、丸ごと物語として形にしたような「本好き讃歌」といえる作品だな、と。

    個人的には、全く本を読まない人間だった警察署長のランビアーズが、主人公のA・Jの影響で読書に目覚めてからの以下のセリフに共感を覚えました。

    「おれは、本のことを話すのが好きな人間と本について話すのが好きだ。おれは紙が好きだ。紙の感触が好きだ、ズボンの尻ポケットに入ってる本の感触が好きだ。新しい本の匂いも好きなんだ」

  • 本が好きな人にぜひ読んでほしい!偏屈な書店主フィクリーが、本を介して人と出会い、少しずつ変わっていく。各章のタイトルには、様々な著者の短編のタイトルが書かれ、フィクリーがマヤに向けてコメントを書いている。その意味と理由がわかった途端に、胸に熱いものが込み上げてきた。
    翻訳物は苦手だけれど、これは読んでよかった!

  • 記録

  • 少し捻くれた主人公が不器用なりに幸せをつかんでいくストーリー。
    前半は特徴的な性格にみんなが合わせていく(周りの人に恵まれてると思った)感じ、後半になるにつれて主人公も寄り添っていく部分が見えてくるというか。
    最後は駆け足気味にまとめていくようにも思ったけど面白かったです。

    本が人と人とを結ぶというか、主人公にとっての言語が「本」っていう感じの進行がすごく気に入りました。

  • ほんとに最初から最後まで『書店主フィクリーのものがたり』だった。
    頑固なおじさんが子どもにほだされて子煩悩おやじになっていく…ってよくある話なのかと思ったら、いや確かにそれもあるし面白いのだけど、それだけじゃない。
    登場人物のひとりひとりが光ってる。
    「ああいい話だなー」で終わる物語ではないけれど、いい話でしたよ。
    署長さんはとにかく良い人ですよ、ほんと。
    こんな署長さんがいる地域はそりゃ平和だろうなと思うぐらい。
    署をあげてみんなで読書会できるぐらいだから、そりゃ平和なんだろうなあ。
    地域の本屋さん、大事ですよ。
    うちの町にも本屋さんほしいなあ。

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