新装版 最後の将軍 徳川慶喜 (文春文庫) (文春文庫 し 1-65)
- 文藝春秋 (1997年7月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167105655
作品紹介・あらすじ
すぐれた行動力と明晰な頭脳を持ち、敵味方から怖れと期待を一身に集めながら、ついに自ら幕府を葬り去らなければならなかった最後の将軍徳川慶喜の悲劇の一生。(向井敏)
感想・レビュー・書評
-
日本史上の劇的な革命であった明治維新を題材とした小説は多いがほとんどが維新側から見た歴史ばかりで、維新側の視線で当初劣勢であった薩長側が、どのように情勢をひっくり返し維新を成立させたかに焦点が当てられていて、いかに幕府側が腰砕けの政権であったかが強調されている。
本小説は、多勢の幕府側がなぜ劣勢の薩長に破れていったのか、そして世界史の中ではほとんど見られない流血を伴わない革命がなぜ成立したのかが、敗軍の将である慶喜側の目線で理路整然と書かれている。慶喜は頭脳明晰という評価がありながら、長州征伐や鳥羽伏見の敗戦、その後の敗戦処理など政治的評価が低くその矛盾を不思議に感じていたが、慶喜がなぜそのように振る舞ったのかが掘り下げられており、幕末期の理解が深まる小説であった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いろんな描き方をされる徳川慶喜。
聡明で、先見の明があって、多趣味で。
何を考えているのかわからなくて、変わり者。
でも好きなんだよなあ。いつも合理的で。『しめしがつかない』や『筋が通っていない』とか、そういうんじゃなくて、今どうすべきか、を考えているのだよ。周りは大変だっただろうけど、好感。いつもながらに容保さまは可哀想だけど。個人的に幕末四賢候のほうが信用ならん。晴天なんちゃらみてみようかなあ。
司馬遼太郎入門編で、短いこの本を手にとったけど、読みやすかったです。つぎは明治のやつかな。 -
徳川慶喜に対する認識がガラリと変わった。
知識のない私は江戸から明治に移り行く時節にたまたま将軍であって、薩長がお膳立てした大政奉還に抵抗できずに言いなりになった人物と思っていた。
けれどこの作品から感じたのは、慶喜その人が将軍であったからこそ明治維新が成ったのではないかと言う事でした。
そしてもし彼がむしろ将軍を補佐する立場でいたならその能力を最大限に活かせたのではないかと言う事。
新撰組に例えるのが適切か否かはともかく、近藤勇よりも土方歳三の位置にあるべき人材だったのではないかという事。
ただしそうだった場合、日本という国が現在のような先進国たり得たかどうかは別の事ですが。 -
すごい人だと思います。
絶対恭順を貫いて、謹慎隠退。
家系を絶やさないことが目的である武人らしいし、
朝廷に矛をむけないのは水戸人らしいので、
不思議ではないんですが。
かといってなかなかできることではないので、
彼が最後の将軍を引き受けてくれたのは日本にとって計り知れない幸運だったとしみじみ思います。
相変わらずの小ネタをはさみつつ、幕末を慶喜視点で端的に追える本です。
満足です。 -
すでに行われた事をみて賢いだの馬鹿だというのは簡単です。
その時その時の一瞬には誰もが考えを持って行動していることです。
何度も書きますが、全く日本史を勉強しなかった私は、今小説を読んで知っていっています。
竜馬がゆくと合わせて読むとさらに面白い、
というか読んだから言うのだけどね。
大君の通貨と合わせて読むとさらに面白い、
というか読んだから言うのだけどね。
一冊ではわからんよね。
一冊で面白くなくても、何冊か重ねることで見えてくるものってあるものです。
私は単純に登場人物をいいとおもっちゃうので、
立場が違っても両方面白いわけですが。
江戸の歴史と違って、
自分の歴史を振り返ってみても
今だとばかばかしいことや間違っていると思うこともたくさんあるわけです。
でもそれは歴史をifでみるのと同じこと、
ifで楽しむ方法も大好きです。
でも結局それは楽しむだけであって、それだけのことなのかと。
その楽しみをもって過去を批判するというのはちょっと短絡なのかなと思うわけです。
自分自身の過去の記憶なんてあやふやものです、
どちらかといえば忘れていることばかりです。
後悔するようなこともたくさんあるのですが、
それほど後悔することもないのかな。
そのときそのときの判断があったのだと思うだけです。
で、今は何を判断するのか
次は何を判断するのか
それが大切なことです。
決して悔むだけが良いことではありません。
と、思いました。(笑
ん、思うようにしようとおもいました。(笑 -
読了はNHK大河ドラマ「徳川慶喜」放映の前年だったように思います。同ドラマの原作。
本書は小説としては会話が少なく、切れ味のよい文体でたんたんと歴史の流れが進んではいるのだが、司馬作品としては少々物足りない気がした。本当は大政奉還後の方が慶喜の人生としては長いのだが、明治からの物語はほんの少しで、慶喜視点の幕末を軽く描いたという感じ。むしろ、「何もなかった」後半生を描くことが本来小説家の腕の見せ所のはずなのですが・・・。思うに司馬さんは慶喜がそんなに好きではなかったのではないか。多才多芸な割には踏ん張りがなく、消極的な貢献での評価が大きいためでしょうか。小説としてはコンパクトにきれいにまとめられていると思いました。
余談だが(←司馬さんが好きなフレーズ(笑))、現在、CSの時代劇専門チャンネルで「徳川慶喜」が放映中でこの原作も懐かしく思い、「レビュー」を書いてみました。さらに余談だが(笑)、大河ドラマ「獅子の時代」も放送中で、毎日録画したものを連続して観ているのですが、両方に菅原文太と大原麗子が登場していて少し混乱気味です。(笑) -
歴史も少しは勉強しないとな、と思って手に取りましたが難しすぎました。ただ、慶喜の人となりはよく分かりました。
-
歴史には、それぞれの側からみた歴史がある。
将軍になることを望まず、朝敵になり史上に名を汚すのが嫌だった慶喜。
保身に走り、部下を騙し、捨て去り、己れだけが己を肯定すればよしを貫いた。
大政奉還、江戸城無血開城。歴史的にみれば、慶喜のこの偉業なくして明治維新は開かれなかったであろう。
時勢によって望まざる方へと流されたのはわかる。けれど、私はやっぱり、不器用なれど誇らしく生きた新撰組の側からみてしまう。
貴人、情を知らず
これに尽きる。 -
珍しくくどくない司馬遼太郎の作品。
終始周囲の人々に持ち上げられ続けた徳川慶喜だったが、維新後は生来の器用さを活かして趣味に生きた。
松平春嶽や山内容堂といった幕臣を結局は信じることができなかった彼の立場の壮絶さを感じさせられた。
孤独な中持ち前の才で生き延びた俊才の話。