ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

  • ダイヤモンド社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478016381

感想・レビュー・書評

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  •  経営に優れたCEOというのはたくさんいるかもしれないが、エド・キャットムルは超一級の研究者でもあるという点で稀有な存在ではないだろうか。彼が開発したテクスチャマッピングやZバッファは、もはやあらゆるCGにおいて使われている技術である。そのせいもあってか、本書からはギラギラした野心的なビジネスの匂いは感じられず、温かみのある、優しさに溢れたピクサーへの愛が伝わってくる。
     ただ、優しさや愛だけではどうにも解決できない問題に対する苦悩やそれをいかに乗り越えてきたかが詳細に描かれており、一級のビジネス書になっている。

     第一部「はじまり」では、エドとピクサーの歴史が語られている。ユタ大学のアイヴァン・サザーランドの下でCGを学び、CGで映画を作るという大目標を持ったエドが、ニューヨーク市立大学、ルーカスフィルムと渡り歩き、スティーブジョブズの助けによってピクサーを立ち上げてついにトイストーリーを完成させる。トイストーリー成功後の彼の気持ちの述懐は本当に喜びにあふれている。
     自分自身で考えたアイデアの実現に向けて人を動かし、それを実現して周囲から認められる。こういう経験がほとんどない俺は、まずは目標を持つことが目標かもしれない。とても低レベルな話をしているようではあるが、俺みたいな人って、実はかなり多いと思う。

     第二部「新しいものを守る」では、新しいアイデアを育てるための仕組み、そしてその過程でマネージャが直面する問題について書かれている。「ブレイントラスト」はいわゆるレビューのようなものだが、そのレビューを反映させるかどうかはレビューを受ける人自身に一任されているという点が特徴的である。偉い人から言われて直すのではなく、それを基にして自分で直す、この2つには大きな違いがあると思う。前者はあくまでも受身であり、当事者意識がないのだ。会社で働くうえでこの「当事者意識」をいかにして持つか、あるいは持たせるか、というのは大変に大きな課題であると感じている。当事者意識がなくても100%のものは出来上がるかもしれないが、果たして120%になるか。120%を要求してくるマネージャがいれば話は別かもしれないが、自分で考えて良くしていく、という姿勢は絶対に持ち続けたい。
     また、変化や偶発性に対して建設的な姿勢で臨むことへの重要性も強調されている。これは言葉で言ってしまえばとても単純で当たり前だと思うのだが、いざ現実の場面になってみると誰もが変化を嫌がる。それに対する効果的な解決策が本書に書かれているわけではないが(おそらく存在しないと思うが)、やはりここでも変化に対して当事者意識を持って積極的に関わっていくことが重要なのではないか。だからこそ変化をもたらす側の人間には、説明責任と、皆が変化を受け入れやすくするような工夫をする義務があると思う。

     第三部「構築と持続」では、各人が自分のメンタルモデルに固執することで組織が硬直することを避けるための仕組みとして、①全員での問題解決、②現地調査、③制約、④テクノロジーとアートの融合、⑤短編による実験、⑥観察力の養成、⑦反省会、⑧ピクサー・ユニバーシティを挙げている。
     最も印象深かったのは「反省会」だ。もちろん反省会が重要なのは百も承知だが、実は反省会の準備することにも大いに意味があると本書には書かれている。反省会の準備に費やす時間は反省会と同じくらい価値があり、反省会の予定自体が自省を促すというのだ。アウトプットよりもそれを出すに至る過程が重要、と言い換えてしまえばまぁ当たり前のことを言っているような気もするが。

     第四部「検証」ではピクサーがピクサーらしさを失わないために開催された「ノーツ・デー」の話が出てくる。社員全員が丸一日、通常の仕事を行わずにピクサーをよくすることだけを考える日。事前にアイデアを集めるために設置された投書箱に集まったメールの数は四千通。そこから120の議題が選ばれ、最終的に138人のファシリテーターが仕切る171のセッションが開催された。例えば「働きがいのある職場づくりとそれを理解する方法」というセッションで出たアイデアは、「仕事を交換して互いの理解を深める」や「クジを引いて誰とランチを食べるか決める」などだ。こうしたアイデアは、実際に会社を良くするために実行されているようだが、ノーツ・デーの最も重要な成果は、社員が安心して自分の考えを言えるようにしたことだとエドは言っている。
     さて、これをうちの会社がやれるだろうか?おそらく、管理職を説得して開催すること自体はできるだろう。だが、たくさんの人が積極的に参加し、そこから本当に有効な策が一つでも見つかるかどうかは疑問だ。そもそも現状に課題意識を持ち、その解決方法を答えはないにしても継続的に考えている人ってどのくらいいるんだろう。普段から考えて意見を持っている人を集めないと、ブレストをやっても当たり前の事しか出てこない。とにかく普段から考えておく。これに尽きる。ノーツ・デーはそのアウトプットの日であるべきだ。

  • エド・キャットムルが、クリエイティブな組織をつくり維持するための取り組みが紹介される。クリエイティブな組織のマネージメントに関わる人にとっては、メンバーそれぞれのクリエイティビティをチーム全体に活かしていくためのヒントがいくつもでてくる。また同時にピクサーにはクリエイティブを高みに導いていくジョン・ラセターのような人物のリーダーシップがあってのマネージメントだとも思う。

  • 読み終えるのに10日ほどかかってしまったけど、映画を観ているような面白さだった。

  • ・「見えてないものがたくさんある」ということを認識することが大事

  • 人、人、人。

    美術的な技工を凝らそうと、物語がきちんとさえしていれば、視覚的に洗練されているかどうかなど問題にならないのだ。

    日本人が生産を、作業者を巻き込んだ創造的活動にする方法を見いだしたことを知った。

    確率過程のの自己相似性。フラクタル

    『一つの体験からすべての知恵を引き出さないように注意すべきだ」マーク・トウェイン

    次回もやろうと思っていることトップ5、二度とやらないと思っていることトップ5

    会議での議論のポイントをアイデアのソースではなく、アイデアそのものに向けさせること。

    スティーブ・ジョブズ>ジーンズの穴。くるぶしの真上に2つ。

  • ピクサーの考え方の礎、変遷が具体的に書かれていて大変勉強になる本だと思う。
    やっぱり組織を成長させるのに大切なのは「人」なんだと認識できる本だとも思う。

    とはいえ、ちょっとしか読んでないけど。
    ボリュームありすぎて、体力ないので気が向いたら読もう。良い本の匂いはする。笑

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784478016381

  • 創造的な組織を創り維持するためのマネジメント論。
    すごい!

    読み応えありすぎで時間がかかりましたが、これ一冊でピクサーが好きになると同時に、ディズニーアニメの復活の秘密も知ることができ、かつ、創造性を発揮する組織のマネジメント、リーダシップについて理解できる本です。

    社員をいかに大事にしているか。
    良いアイデアよりもよいスタッフ。
    ブレイントラストによるレビュー、そしてそれを成り立たせるためのマネジメント。
    失敗に対する考え方。
    リーダのメンタルモデル。
    ノーツデー。

    などなど、映画製作のエピソードを交えながら、語られる話は、腹落ちするものばかりです。

    巻末の付録としてピクサーの原則がまとめられています。
    その中からいくつかご紹介(耳が痛い)
    ・職場で社員が率直に意見を交わさないのは多くの理由がある。その理由を見つけて対処するのがマネージャの仕事
    ・自分に同意しない人は理由がある。マネージャはその理由を理解しなければならない
    ・組織の中に不安や恐れが生じている場合も理由がある。マネージャは原因を突き止め、理解し、根絶に勤めなければならない
    ・リスクを回避することはマネージャの仕事ではない、リスクを冒しても大丈夫にすることがマネージャの仕事
    ・5%の社員をコントロールする目的で規則をつくってはならない

    訳者のあとがきにもありましたが、それぞれの作品のメイキングを見たくなりました!!

    お勧め!!
    でもちょっと読むのが大変(笑)

  • 久々にこんな回りくどい本を読んだ。
    決して要約を許さない著者の姿勢はまさしく
    ピクサーの経営で日々取り組んでいるハードな航海から
    学び続け、実践し続けているからこそ。

    なぜピクサーがここまでの会社に育ち、
    なにより毎年のように当代一の長編アニメーションを公開できるのか。

    私はずっとそれを知りたいと思っていたのだが本書を読んで1つの答えを思いついた。
    それは1つには本書の著者にしてCEOキャットムルが
    徹底的に情熱と科学を融合させた経営を体得し、
    進めてきたこと。
    もう1つにはその考えが文化としてピクサーの隅々まで届き、
    それをアップデートし続けていることである。

    しかしここまで正直に話しちゃって大丈夫なのかと思ったりしたが、
    組織についていくら情報を増やしても実際に創出する価値は増えてこない。
    だいたい知識を得ることと実行すること、実行し続けて価値を出し続けることは
    これもまた天地の差があると言わざるをえない。

    ピクサーのすごさの本質は、そこの実行し続ける「体質」だと思う。

    経営は終わりない道だ。
    著者は、自分がいなくなったずっと先でもピクサーが
    優れた作品を作って世の中に感動を与える組織であることを
    一番に考えている。

    目先のことにぶれない。
    人心をとにかく大切にする。

    「日本的経営」はもはや死語かもしれないが、
    そのコンセプトを地で行っているのがピクサーなのかなと思う。

  • デスマーチすなわちプロジェクトが暗礁に乗り上げた時にそれを乗り越えて結果を出す。信じることの大切さを再認識させてくれる。ファンタジーでヒットを産み続けるのは血と汗と涙があったのだ。
    映画がヒットするとは、多くの人の深いところの共感は不可欠だ。浅い検討無しではではマンネリに陥りやすい。映画の二作目がよく陥るはなしであり、これを避ける革新をし続ける必要がある。この点に成功している企業の一つがピクサーであり、その成功の秘密の一端を明らかにするのか本書である。
    ピクサーとアッブルは全く成功の分野が異なるが、スティーブ・ジョブズに救われたという共通の要素があるのも偶然ではない。また、数々の作品の主人公たちが陥るよりも凄惨な状況をスタッフがくぐり抜けている。産みの苦しみがなく上手くいくことも無いという当たり前に改めて気づかされる。
    ビジネス書の多くはシンプルにその成功要因を示すが、この本は泥臭い。それ故の説得力は計り知れない。ビジネス書のナンバーワンとも言われる本書の破壊力は半端ない。

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