前作『七つの海を照らす星』を読み、すぐに読みたい欲望を図書館予約に託したのですが、それほどの待ち人数ではないにもかかわらずずいぶん手元に届くまで時間がかかってしまいました。
一気に読み終えてそのトリックの破壊力に思わず叫んでいました「何ぃーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
噂に違わぬ傑作であり、このトリックは自分の知るところかつてどんな作品にもなかったであろうと思われます。
以下かなりのネタバレになります、未読の方は決してこの先へは進まれないようご注進申し上げます。
前作七つの~は日常の謎をベースにしているものの、舞台背景を「七海学園」という児童擁護施設に設え、心に傷を持つ少年少女達の闇を真っ向から立ち向かう保育士である主人公「北沢春菜」視点で描くことにより社会性を押し出したことがとても革新的でした。容易に想像できる哀しみは感情移入に容易く、それぞれのエピソードにおけるトリックも真新しいものではないにせよ、少年少女たちと彼等を見守る大人たちとのドラマが読者を(自分を)惹きつけたのです。そしてその第2弾がこのアルバトロス~です。
事前情報としてどんでん返しが!というのは知るところでしたので読み始めはそのあたりにも注力してたのです、なるほどなるほど現在と過去が交互に語られる構成、なんらかの誤認を誘うんだろうな?と進めていくのですが、春菜の悩み迷い、それを振り切って前に進もうとする勇気、そして子供達との絆、とミステリの前にドラマの部分でもうどっぷり物語に入り込んでいかざるを得なくなっていました。
冒頭から事件が起こります、晩秋の頃七海の子たちが通う高校の文化祭においての転落事件、事件か?事故か?主人公は真相を究明するために奔走します。そして真相を解く鍵は春先から春菜の周辺で起こった数々の事件の中にヒントがあったのです。
前作で探偵役として絶対的な存在感を持っていた児童相談所の海王さんは、その役割を縮小されてはいるものの春菜の信頼は厚く、時折重要な示唆を与えてくれます、また気になる男性、高村クン(高校の同級生で同じバトミントン部に所属)も登場しロマンスの波まで来たのか!?とワクワク感も高まります。しかしながら転落事件の真相が煮詰まってくるにつれ胸に迫りくる何かが、これらの微笑ましい数々の出来事を奈落へと突き落とすのでした。
このトリックの秀逸なところは、探偵は真相を求め数々の可能性を推理検討し真実に辿り着く、というミステリの定石を完全に逆手に取ったことであると思います。そして読み返していくと数々のミスディレクションが、読者を誤った方向へ誘います。それと同等の真実を告げる叙述が散りばめてあるのです。海王さんを頼ることなく自分自身の力で問題解決に向けて奔走する春菜の姿は、その成長の物語でもあるのですが、そこが鮮明に描かれればそれだけ読者は裏切られていた。作家の手腕にただただ脱帽です。
前作においても回文が大きなヒントになっていたせいもあって注目した人物がいたのですが、これも大きな的外れでした。まったく自分はまだまだ甘ちゃんでした。
破壊力の大きさに比例して哀しみ深い結末でした…
どうか七河先生、続篇を描いてください!ミステリでなくてもなんでもいいです!どうか○○の目を覚まさせて欲しいです!