怪物はささやく

  • あすなろ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751522226

感想・レビュー・書評

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  • 2007年に惜しくも早世したシヴォーン・ダウドが遺したメモをもとに、パトリック・ネスが肉付けして完成させた作品。

    コナー・オマリーは13歳。
    母さんと二人暮らし。
    ある夜、怪物がやってきた。
    教会の墓地の真ん中にあるイチイの巨木が、裏庭までやってきたのだ。
    「コナー」と名を呼びながら。

    なぜかコナーは怖いと感じなかった。
    母さんが病気になって1年。途中からコナーは毎晩、恐ろしい夢を見るようになった。誰にもいえないその夢ほど、怖くは無かったから。

    学校では母の病気が知れ渡り、かわいそうな子として遠巻きにされている。
    だが優等生のハリーがなぜかコナーに目をつけ、子分二人といじめるようになっていた。
    幼馴染のリリーはコナーをかばおうとするが、みなに事情が知れたのはリリーがしゃべってしまったのが発端なので、リリーを許せないコナー。

    父は6年前に家を出て、アメリカで新しい家庭を持っている。
    治療のたびに母の具合が悪くなると、祖母が世話をしに家に来るのだが、まったく気が合わないため、気が重いコナー。

    たった13歳で感じやすいのに、つらすぎる状況で、心はがんじがらめ。
    イチイの木の怪物は、3つの物語を話して聞かせるという。
    4つ目はコナーが話すのだと。
    それは‥?

    イチイというのは非常に寿命が長くて数千年もあるほど。葉や種に毒があるのが薬としても有用で、ヨーロッパでは死と再生の象徴とされているそうです。

    一筋なわではいかないイチイの怪物が話す物語に、魅了されます。
    第一の物語は、この地に王国があった頃。
    王には4人の息子がいたが、戦争や病気で死に、跡取りは孫だけになった。王は後妻として新しい王妃を迎える。
    王がなくなったとき、孫息子が成人するまでの間、王妃が摂政として実質的に女王となった。
    孫の王子には恋人がいたが、殺されてしまう。そして‥?

    第二の物語は、150年前のこと。
    薬草に詳しい薬剤師のアポセカリーは強欲で気難しかった。教会の司祭は進んだ思想の持ち主で、思いやりのある人柄だった。
    アポセカリーがイチイの木を切らせてくれるように頼んだが、司祭は拒む。そして、アポセカリーの治療は時代遅れと村人に話したため、患者は医者にかかるようになる。ところが、司祭の娘達が病に倒れ、司祭はアポセカリーにすがった‥

    物語の意味がすぐにはわからないけれど‥
    矛盾を抱えた人の心。
    大事なのは行動なのだ。
    さまざまな苦しみを経て、コナーがたどりつくのは‥?
    ハッピーエンドとまでは行きませんが。
    葛藤を経て、コナーは素直な心で母のそばに‥
    救いのある結末です。

    大胆な筆致の黒っぽいイラストが多数挿入され、ホラーっぽいムードを盛り上げます。
    中学の課題図書だったそうですね。
    それにしては重いけれど、完成度は高い。考えさせる題材ですね。

    パトリック・ネスは1971年アメリカ生まれ、後に渡英。オクスフォード大学で創作を教えながら、さまざまな活動をしている。
    YA向け三部作の3作目でカーネギー賞を受賞している。

    シヴォーン・ダウドは、1960年ロンドン生まれ。オクスフォード大学卒業後、人権擁護に携わる。2006年にデビュー。
    死後に刊行された「ボグ・チャイルド」でカーネギー賞を受賞。5作目に構想していたのがこの作品。

  • 13歳の少年コナーの母は、重い病気で死期が近い。
    そんなある日の12時7分、コナーの前にイチイの木の姿をした怪物が現れる。怪物は、コナー自身が呼ばれて歩いてきたということ、そして、3つの物語を怪物が語ったのち、コナー自身が四つ目の物語を語らなくてはならないことを伝える。物語は、コナーが母の死を受け入れるまでの葛藤を、夢と現実が入り混じった、この怪物とのやりとりを通して描く。

    終始一貫して、怪物から語られる次の物語は、一体何なのか、コナーの語るべき四つ目の物語とは、一体何なのか、それが現実世界にもたらす影響は、そして、怪物の正体とは、といった謎が、残され続けることで、どんどん次のページをめくりたくなった。
    最後にコナー自身によって語られる四つ目の物語である「行っちゃだめだよ、母さん」「行っちゃいやだ」の二言がとても印象に残る。この物語の中では、繰り返し、コナーは、ちゃんと全部分かってることが、様々な登場人物のくちから語られ、コナー自身も、自分が知っていることを知っていた。ただ、それ、つまり、お母さんは死んでしまうのだということを、怖くて口にすることができない。お母さんが元気になると信じることは、お母さんが死んでしまうという現実から、逃げることである。だから、怪物は、コナー自身の口で、四つ目の物語=コナー自身の物語=母親の死を語らせようとする。
    知っていながら、受け入れられない。だから、何かを信じ続けることで、安心しようとする、その気持ちは分かるように思う。怪物のやり方は、かなり、荒療治でもあるような気もする。

    もう一つのテーマとして、怒りがあったように思う。三つ目の物語を聞き、いじめっ子のハリーを殴り倒したのち、コナーは、母親のお見舞いに行き、もはや、何も治療法がないことを知らされる。その時、お母さんがコナーに言うのが、「怒っていいのよ、コナー。思い切り怒っていいの」という話だった。
    コナーは、いじめっ子にいじめられようが、無視されようが、怒らない。そして、自分が罰せられることを望む。コナーが「破壊行為」をするのは、いつも怪物がいるときだったことを思うと、怪物は、コナーの怒りそのものだったようにも思う。

    そうした意味で、この物語は、母の死を受け入れることで、自らの心を癒すために、少年が自分の怒りを呼んだ物語だった。

  • どんなに大切でも、いつか大切な人の手を離さなければならない日が来るし、その事実をしっかりと受け止めなければならない。
    世界で一番怖いものも、受け入れることで、味方に変えることができる。

  • 装丁も挿絵もホラーっぽいけど、ダークファンタジー小説です。恐々と読み進めていたのに、気付けば本の世界に引きずられ、最後は胸をギュッとつかまれた。
    毎晩現れる怪物は何者なのか、なぜ少年の前に現れるのか。その真実が明らかになった時「誰かこの少年を救ってあげてくれ」と願わずにはいられなかった。

  • イチイの木の姿をした怪物。現実と向き合うのは怖い。自分の心の中と向き合いのは怖い。闇を認めたら壊れてしまうかもしれない。絶望してしまうかもしれない。でもなかったことにはできない。しんどいけど闘わないといけない時があるし、負けを認めないといけない時はあるんだなと思う。自分の中にも怪物はいるし。

  • コナー・オマリー、13歳の少年。
    母さんが病気になってしまったことで、コナーの生活が変わってしまった。
    学校では可哀想な子として見られるようになり、イジメられ、友人や先生は腫れ物に触るようになり、孤立してしまう。
    離婚してしまった父さんには、アメリカに新しい家族がある。祖母とはどうも合わず、一緒に暮らすなんて考えられない。。

    母さんの病気をおそれ、毎晩恐ろしい夢にうなされるうち、
    家の裏にある、イチイの木の姿をした怪物があらわれる。いつも夜中の12:07きっかりに。。

    その怪物は、コナー自らが呼び、物語を語りに来たという。でも怪物に聞かされる物語は、とても理不尽な話ばかり。。
    コナーは怪物を否定しながらも、どこか頼りにして行くようになる。


    怪物はコナーの怒り、
    怪物が語る物語はそのままコナーのメタファーとして存在するように感じられました。

    _いや、あったはずだ。
    怪物はいった。
    しかし同時に、
    なかった。_

    これ って、上手くことばにできないけれど
    どこかで聞いたり読んだりしてきたなぁ。
    もしかしたら児童文学の中にはいつもどこかに
    これ があるのかなぁ。。

    コナーの物語はとても現代的だけど、怪物の存在は詩のようなものや、
    グリムのネズの木や
    灰かぶり姫のハシバミの木のような
    たましいも感じます。

    不思議な素敵な、ちょっと怖い本でした。哲学をちゃんと勉強していたら、これを的確な言葉にできるんだろうなぁと、悔しいきもち。

  • 「何をどう考えるかは重要ではないのだよ。大切なのはどう行動するかだ。」と言う、怪物の言葉が刺さりました。矛盾した考えがある事が問題では無く、その矛盾の中からどれを選んで行動するかが大事ってことかな?
    1年に1回くらい再読して、自分の成長を確かめたい本だなと思いました。

  • 母親と暮らす少年のもとに現れる「怪物」
    「怪物」が毎夜語る物語は怖ろしいが、本当に恐ろしいのは少年の心の底に隠された「秘密」だ。
    目をそらそうとしても、そこに巣食っている「秘密」
    それは最後の夜、少年が物語る番になって明らかになる。
    母親が少しづつ死んでいくということに耐えられず、いっそ今死んでしまってほしいという心の声。
    そう考えることの疾しさに少年は怯える。
    しかし、最後の時、本当の本当の、心のもっと奥に秘められた言葉を少年は叫ぶ。
    「死なないで」

    人の心の、本人でもよく理解できない多面性を、巧妙にとらえた作品。

  • 読み時を逃したままずっと積んでいたのだけど、映画が公開されたのでこんどこそと思って読んだ。

    誰の心にもひそむ自己中心性や弱さを、怪物との対決――いや、対話?――を通じて、真正面から見つめることを余儀なくされる13歳のコナー。

    でも、その気持ちは、ほんとうに誰にでもあるよといいたくなる。絶対的な善とか悪なんてなくて、すべての人間の心のなかでその両面が複雑にからみあっているんだよな。

    だけど、それを見ぬ振りをしてふたをしておくと、とんでもない暴力となって爆発するのかもしれない。そこらへんも、コナーの年齢とあいまってとてもリアル。

    あと、このイラスト(ジム・ケイ)がほんとうにすばらしい。この怪物の造形。悪夢からそのまま抜け出してきたみたいで、ほんとうに夢に出そうだ。

  • 手術の後、体力的になかなか読めなかったけど
    この本で久々に本が読めた。
    映画化すると聞いたので
    事前に読めてよかったと思う。
    絵本のようにイラストがあって
    独特の雰囲気がある。
    中学校の読書感想文課題図書になってたみたいだけど今の私が読んでも色々考えさせられる
    難しい本だなぁと思った。
    筋書きはシンプルだけど、
    考えることがたくさんある。
    怪物のお話は3つ目のお話が好きでした。
    オチはなんとなく予想がつくだけに、ちょっと勿体無い。

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