ゆびぬき小路の秘密 (福音館文庫 物語)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834023329

作品紹介・あらすじ

1966年、イングランド。親の都合で友だちのいない町に引っ越してきてクサクサしている少年バートラムは、「ゆびぬき小路」の仕立屋のおばあさんが縫いつけたふしぎなボタンを手に入れたことから、時間をさかのぼれるようになる。大量生産の時代に、一仕立屋であることに誇りをもっていたおばあさんは、先祖伝来の五つのボタンを、これはと思った五着の服だけに縫いつけていたのだった。ボタンのむすびつける人と人との時間が、見事なタペストリーのようにつづれ織りにされていくタイム・ファンタジー。野間児童文芸新人賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • サウスウッドの町に越してきたバートラム。

    「最悪だ。転校生なんて」
    バードラムは、地面から突然引っこ抜かれた、そのへんの草にでもなった気分だった。

    そう言って部屋の片付けもほったらかして、外に出て言ってみると
    市庁舎のむこうにはとても素敵な図書館。少し歩くと石畳の道、ゆびぬき小路へ。

    母さんはこのゆびぬき小路の《マダム・ダンカルフの店》で、僕の制服をあつらえようとしている。そこで、とても不思議な仕立ての良い古着のコートを買ってもらう。
    それは、ゆびぬき小路の古い建物、《仕立屋ロザムンド・ウェブスター》の変わり者だが、腕は一級の、おばあさんが仕立てたものだったのだ。
    そのコートと、コートに付けられた不思議な5つ穴のボタンが、バードラムを不思議な時間の旅へ連れていく。。

    イギリスの小さな町の中を行き来する、タイムファンタジー。最初はまるで『トムは真夜中の庭で』じゃん!と思うんだけど…
    ボタンを追っていくところ、仕立て屋の美しいコートなど、物語のkeyになるアイテムが素敵で、また違うカタチ。
    トムへのオマージュ感も魅力ですけど!

  • 全然知らない作家、知らない作品でしたが、とても面白くて、すごく得した気分です。
    日本人作家の作品ですが、読んでいるとスーッとイギリスの児童文学の世界に入っていきます。

    私は小さい頃から日本の児童文学より、海外のものの方が好きでした。
    なぜかとつらつら考えるに、日本の作品に出てくる子どもって教科書的ないい子なんですよ。
    私自身教科書的ないい子だったので、それってとてもつまらないと思っていました。
    それに比べて外国の作品に出てくる子どもって、もちろんいい子もたくさんいますが、親と喧嘩したり、家出をしたり、大人と駆け引きをしたりと、なんともステキにたくましいではありませんか。

    そしてこの作品も、引っ越してきたばかりの街で、不思議なことに出合うバートラムが主人公。
    古着屋や古道具屋のあるゆびぬき小路の奥にある、偏屈な仕立屋のおばあさんと知りあったことから謎が始まります。

    仕立屋はなぜ、ひとつだけ違うボタンをつけるのか。
    ボタンはバートラムに何をさせたいのか。

    残りページがあとわずかになっても、作者がどう決着をつけたいのかがわかりませんでした。
    だからずっとドキドキ。

    正直言って、結末は地味です。
    大きく何かが変わるということはありません。

    ”着心地ってものは、仕立てにゆとりがなけりゃだめなんだ。(中略)そして仕事というのは、自分にとっていちばん大切なものを使うことなんだとね。(中略)仕立てに使うわたしの時間と、仕立屋として生きてきた、すべての時間のことさ。大切なものほど、手放さなければならないんだよ、バートラム。”

    機械化が進む世の中で、自分の技術で生きてきた仕立屋としての自負がバートラムに語られ、バートラムはそれに対して「仕立屋の時代はまだ終わっていないよ」と言います。
    そういうことを理解できたとき、バートラムは一歩大人になったのだと思いました。

    これからもゆびぬき小路は存在し、バートラムが訪れることもあるでしょう。
    でもきっと、バートラムは学校の友だちを増やし、少しずつゆびぬき小路から離れていくのでは?とも思うのでした。

  • 「灰色の五つ穴は、五個でひと組。仕立て屋ウェブスタ-に、代々伝わってきたボタンだよ。」仕立て屋のおばあさんはそう言った。

    汝これを五星形につけ、我を訪れよ
    されば我、五度路をゆずり、
    汝を我がもとへ呼びよせん
    汝再びそろえ、我を訪れよ
    されば我、あまねく道をゆずり、
    汝の前によみがえらん
    我、ここより永遠に旅立つ
    荒れたる丘より谷に降り、緑の森に憩うまで

  • 2023.11.14

  • 「1966年、イングランド。親の都合で友だちのいない町に引っ越してきてクサクサしている少年バートラムは、「ゆびぬき小路」の仕立屋のおばあさんが縫いつけたふしぎなボタンを手に入れたことから、時間をさかのぼれるようになる。大量生産の時代に、一仕立屋であることに誇りをもっていたおばあさんは、先祖伝来の五つのボタンを、これはと思った五着の服だけに縫いつけていたのだった。ボタンのむすびつける人と人との時間が、見事なタペストリーのようにつづれ織りにされていくタイム・ファンタジー。野間児童文芸新人賞受賞作。」

  • もし近所になぜか惹かれる小路があったなら、つい足を踏み入れてみたくなるだろう。そしてその小路で、なぜか過去に紛れ込んでしまったなら…少し不安に思いながらもワクワクドキドキするに違いない。 読み終わってから、あぁ、これ作者は日本の方なのかと思い出しました(笑)それくらい翻訳児童書っぽい雰囲気のあるお話でした。

  • 少年バートラムはいつのまにか時代を行ったり来たりしていることに気づく。そしてその秘密が古着屋で買ったコートのボタンにあることも。
    『トムは真夜中の庭で』を彷彿させる良質なファンタジー。
    あまりに描写がイギリス風なため、作者が日本人である方に驚いた。

  • 著者は日本人ですが、登場人物は全員イギリス人。まるで、昔の翻訳児童書を読んでいるような気分になりました。5つ穴のボタン、星の形のボタン糸。ちょっといいなぁ。

  • 作者も内容も判らず手にした本が面白かった時は、何とも言えない喜びがありますな。
    古着屋で5つ穴のふしぎなボタンを付けたコートを手に入れたバートラムは時をさかのぼるのだった。
    まるで翻訳児童書のような雰囲気を持った作品です。時と人によって紡ぎ出される物語が素敵です。昔気質の気難しいおばあさんとバートラムのやり取りも、何とも微笑ましく温かいですし。ボタンを巡る現在と過去の物語はあちこちに伏線が張られ、それが解きほぐされていく様に惹き付けられます。派手さはないが、じっくりと読み浸る作品でした。

  • モノを買うときに、
    五つ穴のボタンが混じっていないか、
    見るのがくせになってます。

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著者プロフィール

小風さち 1955年東京に生まれる。1977年から87年まで、イギリスで暮らした。絵本の著書に、『わにわにのおふろ』など「わにわに」シリーズ、『とべ! ちいさいプロペラき』『ぶーぶーぶー』『はしれ、きかんしゃ ちからあし』『よ・だ・れ』『あむ』(以上福音館書店刊)など、翻訳絵本に、『みっつのねがいごと』(岩波のこどもの本)、『ちいさなきしゃと おおきなおきゃくさん』『おおきな3びき ゆうえんちへいく』『ジェシカといっしょ』(以上徳間書店刊)などがある。長編ファンタジー『ゆびぬき小路の秘密』(福音館書店刊)で1994年野間児童文芸新人賞受賞。東京都在住。

「2023年 『ピクルスとともだち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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