人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 659
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041952

感想・レビュー・書評

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  • 人質の朗読会というタイトルから想像していたのは、傷つき疲れきった人達の嘆きのような語りだった。
    なんてバカなことをことを考えていたんだろう。
    もっとずっとずっと素敵な物語だった。

    人質になった8人と朗読を聴いていた特殊部隊員が語ったのは、「自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。
    誰にも言わずにいた、お守りのような思い出だ。

    こんな物語を語れるなんてうらやましいなと思った。
    どの朗読もその特別な時間を一緒に過ごした人への思いやりが溢れていて、とても優しい。
    時が経ってから振り返ることで、自分にとってその時間がどんな意味を持っているかが明確になるのかもしれない。
    何気なく過ぎていく無数の瞬間の中に、時間が経てば経つほど鮮明になっていく一時が確かにあるように思う。

    特に素敵だなと感じたのは「杖」、「コンソメスープ名人」、「ハキリアリ」。
    共通点は幼少期の思い出だということ。
    9つの物語の中でも特に驚きと好奇心に満ちていて、一際キラキラしていた。
    すごくすごくキレイで、スペシャルな時間をお裾分けしてもらった気分。とても幸せな一時だった。

    • まろんさん
      この本、私もとても気になっていたのですが
      タイトルのイメージから、「救いのないお話だったらどうしよう。。。」と
      読むのを躊躇っていました。
      ...
      この本、私もとても気になっていたのですが
      タイトルのイメージから、「救いのないお話だったらどうしよう。。。」と
      読むのを躊躇っていました。

      「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」。。。とても素敵です♪

      takanatsuさんのこの感動に満ちたレビューのおかげで
      もう迷いなく、読むことができます♪ありがとうございます(*^_^*)
      2012/07/14
    • takanatsuさん
      そうですよね。私もタイトルで警戒していました。
      でも、心配する必要はなかったなと読み終わった今は思います。
      まろんさんのレビュ、楽しみに...
      そうですよね。私もタイトルで警戒していました。
      でも、心配する必要はなかったなと読み終わった今は思います。
      まろんさんのレビュ、楽しみにしてます!
      2012/07/14
  • どのお話も良い。
    いろんな世界に連れて行ってもらえて、一気に読んでしまった。

    最終章で語られる衝撃が、この本全体をさらに忘れにくくする。

  • 静かで厳かで、いっそ宗教的なにおいさえする話。
    それぞれが思い出を語るが、人質にされ死と隣り合っているからか、どの話にも生と死が濃厚に漂っていた。

    読み終わって、悲しくて寂しいのに、なぜか満ち足りた気持ちもする。
    たりなかったものが少し埋まったのだろうか。
    誰に対してかもわからないが、感謝の気持ちも溢れてくる。
    なんだろうな。
    強いて言えば、通りすがりの人に親切にしてもらった時の気持ちに似ている。


    追記 2022 12/13 2回目
    改めて読み直すと、この本はガーゼに似ている。
    絹や木綿の布ではなく、赤ちゃんや手当に使うガーゼ。
    みんなが授業中、遠くにグラウンドのざわめきが聞こえる中、白い保健室で保健の先生にそっとガーゼを当て包帯を巻いてもらっているような、そんなイメージが頭に浮かぶ。
    傷が見えなくなる安心感と、手際良く優しく手当てしてくれた人に対する感謝と尊敬の念。
    人質として死も間近に感じている人たちの話なのに、そこには不安ではなく安らぎを感じた。

    読んだはずの「槍投げの青年」と「花束」が読み始めてしばらく経つまで思い出せなかった。
    一方、一番記憶が鮮明なのは「死んだおばあさん」だ。
    生きている人ではなく、それぞれの既になくなっている人に似ているという話のインパクトが強いからだろうと思ったが、最後の一文に打ち抜かれた。
    「コンソメスープ名人」もよく覚えていた。
    美味しそうで崇高な、それでいてやっぱりいい匂いまで漂ってきそうな、一緒にそばで見ていたような臨場感があるからか。
    「冬眠中のヤマネ」は私がぬいぐるみが好きだからだと思う。
    改めて読み返すと、もちろん奇妙な人形たちが印象的なのだが、おじいさんの心境を考えると胸が苦しくなる。

  • 外国の地で誘拐され亡くなった8人が、監禁中に
    自分の事について朗読をし、それをラジオでながして
    という体の短編集。
    登場人物のそれぞれの半生の一部分が本人の口から語られ、聞き手がその名もなき人の一生を想像する。
    物語の聞き手と読み手が同じであり虚構と現実の差しか無い、ラグ?のなさがこの物語をかえって考えさせないようにしているように思える。
    会話で無く、朗読。しかも一度文章に書き出したものを自分の口から虚空に向けて語るのは、一つの祈りの形であるし、受け入れるための儀式のようにも思える。

  • 物語の構成が素晴らしかった。

    一度聞いただけでは覚えられないくらいの遠い異国の地で、日本人のツアー観光客8人が拉致され人質として囚われた。
    事件は膠着状態のまま月日が流れていき、いよいよ三ヶ月が過ぎた頃、軍と警察の特殊部隊が強行突入。激しい銃撃戦の後、犯人グループは全員射殺、人質は犯人の仕掛けたダイナマイトの爆発により全員死亡。
    ここで「えー!」って感じで口がポカン。軽いショックを受けながら読み進めると、2年後に人質が囚われていた小屋を盗聴していたテープが出てきた…。

    ここから人質たちの朗読会の様子が語られていく訳ですが、こんな冒頭で始まってしまったら興味と期待が膨らんでしまうでしょ。

    それぞれの話しは自分が体験した過去の話。心の奥底にしまわれていた記憶。

    8人の物語が綴られていく訳ですが、内容は小川洋子さんらしい優しくちょっと不思議で魅力的な物語。このままで終わっていたらただの短編集だったなと思う所を、最後はこの朗読会を盗聴していた特殊部隊のひとりの物語で締めてある。

    人質たちの過去を垣間見て、気持ちを共有できて、この人たちは最後どんな思いで亡くなっていったのかな、とかなり余韻に浸ってしまいました。

  • 私も朗読会に耳を傾ける一人となりました。人質の語る話はすべてどこかに死がまざっている。丁寧に語られた話はずいぶん昔の話で、それから大分時間がたってい、みなおじさんおばさんの年齢だが、今となってはその人たちもいない。2段階に時間が早送りされた感じだ。『やまびこビスケット』が心に残る。お話の最後の1行とプロフィールの1行の行間に詰まった年月に思いをはせる。今のところ今年1番。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「私も朗読会に耳を傾ける一人と」
      小川洋子には、いつも驚かされる、話の構成と表紙の装丁(今回は彫刻家の土屋仁応)に、、、
      しかし辛い話です。...
      「私も朗読会に耳を傾ける一人と」
      小川洋子には、いつも驚かされる、話の構成と表紙の装丁(今回は彫刻家の土屋仁応)に、、、
      しかし辛い話です。。。
      2013/02/26
  • テロ事件の人質という状況下で、たぶん心のどこかに死を意識しながら、8人それぞれが朗読する創作(あるいは実話?)を集めた短編集。この設定が秀逸。
    どのストーリーも決して明るくキラキラしたものではなく、どこかもの悲しい雰囲気が漂う中、でも彼らがしっかりと生きてきた証のような素敵なエピソードがちりばめられる。
    お気に入りは「花束」と「やまびこビスケット」。地味に毎日を生きる年配者が、やはり地味に生きる若者の心を静かに動かすところがいい。

  • 文庫版が出たので再読。

    印象深かったのは、やまびこビスケットと冬眠中のヤマネ。癖があり世に背かれてしまうような偏屈さをもつ老人と交流する若者の姿が好きだ。記憶からいつまでも消えない日常の中の些細な非日常を、自分を構成する大切な要素として語る、しかも命の危険に晒されているときに、というのは凄い発想力だと思う。さすが小川洋子。大好きです。

  • 8編を読む間、朗読会を盗聴していた特殊部隊の兵士が、あるいはラジオの前の人々が、人質の聴衆が、きっとそうしただろうように、そっと息を詰めて全神経を以って耳を傾けているような心地がした。

    面白みのない8編が、暫しの後に死亡することを知らぬ人質による朗読会の様相を呈して初めて、またそれを特殊部隊のある兵士が聴衆となって耳を傾けていた事実を加味して初めて、緊張感を持って耳を傾けるものとなる。

    息遣いの音も響かせてはならないような小さな緊張感がこの小説の本質のような気がしてならない。読後は、暗がりから躊躇いがちな拍手を聞くような心地がする。

    -----------------------
    内容

    地球の裏側でゲリラに襲撃され誘拐された遺跡観光ツアー参加者7人と添乗員。救出作戦の手抜かりがあったか、人質は全て死亡した。
    ゲリラグループを盗聴していた兵士の自己判断から遺族の元にわたったテープが、2年を経て、ラジオ電波に乗った。
    人質たちが退屈な時間を紛らわすために、一人ずつなにか一つ思い出を書いて朗読し合おうと始めた、朗読会がラジオから流れ出す。

    面白みも、ヤマもオチもない、感動できず、何の感想も覚えない。人質たちがかつて経験し、彼等を構成する元となった、それでもただの思い出話。
    それが人質にとってはどんなに大切な思い出であろうと目の前で語られたとしたら、つまらなくその場を去ってしまうような、ただの小さなドラマ。

    最後に付け足されたのは盗聴していた兵士の思い出話。
    ふっと優しく現実世界に揺り戻される。

    第1夜 「杖」
    第2夜 「やまびこビスケット」
    第3夜 「B談話室」
    第4夜 「冬眠中のヤマネ」
    第6夜 「槍投げの青年」
    第7夜 「死んだおばあさん」
    第8夜 「花束」
    第9夜 「ハキリアリ」 

  • 面白かった。ぬいぐるみは、縫い包みと書くようです。平凡で目立たぬ様に暮らしたい気持ちにわかりみが深かった。

     表紙に使われた子鹿は木像で、国内外で評価されている彫刻家土屋仁応(よしまさ)氏の作品だ。東京芸術大学大学院で仏教美術の古典技法と修復を学んだ土屋氏の作品は、伝統的な仏像彫刻の技法で動物やユニコーンなどの幻獣をモチーフとしている。

     一見して木彫りとは思えない滑らかな表面と独特な色合いによって幻想的な雰囲気を醸し出している。水晶やガラスを玉眼に用いた作品は、見る角度によってまなざしが変わり、まるで生きているかの如く神秘的だ。

  • とある事件に巻き込まれた8人の人質が拘束されている間に犯人の動向を知る為の盗聴器から聞こえてきたのは、それぞれの物語を語り合う人質の声。緊迫している現場とは不釣り合いにも思えるその朗読会で語られる物語は一つ一つが温かくその人の人となりを感じられるような話ばかりで、人質の朗読会という一冊の本の中に何篇もの物語が楽しめて面白いと思った。繰り返し読みたい本の一冊。

  • 詳しくは言えないけれど、いろんな人が語るお話が集められてます。
    私は第一夜と第二夜と第五夜のお話が好きです。
    本当にあったような、あったらいいなというエピソードです。
    本の結末としては悲しい出来事がありますが、各お話では普通の人が普通の生活のなかで色んな面白いことがあるんだなぁと思わせるものばかりです。

  • 大好きな本を再読。
    遠くから響く一人ひとりの語りに、誰かと一緒に静かに耳を傾けているような気持ちになる。失われた声が時を経て響いてくる、という構造が素敵。
    「やまびこビスケット」「花束」「ハキリアリ」が特に好き。

  • しみじみと胸を打つ静かで優しい話がつまっています。

  • 八名の人質が拍手をもって互いの朗読を迎える、その画のもつ異様な魅力。なにげない記憶をこれほどまでに切実で静謐な祈りとして描きだせるのだということに驚かされる。
    第一夜の「子供の頃、」とはじまる語り口によって、地球の裏側での出来事が、急激な親近感とそれゆえの悲哀を伴なって迫ってくる。かれらの語りはそれぞれ独立しているようでいながら、幾つかの共通する感覚によってゆるやかに連帯する。それはたとえば身体の延長や、不在に潜む息遣い、言語を超えた運動、などというもので、それらはラジオを通して朗読を届ける営みへと結びつく。
    第八夜に至り、語り手の受け取った花束は労いと未来への祝福を示しながら、同時に死に向かって暗い影をおとす。その両義性が全篇にわたる愛おしさと悲哀をそのままあらわすようだった。

  • 亡くなった人たちが語った、その人たちが経験した日常・非日常を切り取った短編集。
    爆弾により死亡した人質たち、という前提のせいか、どの話も読後に少し切なくなりました。

  • 静かに進んで行く「誰かの人生」を追体験していくうち、読書会に参加しているような気分になった。夜寝る前に一章ずつ読んでいきたい、「噛みしめる」本。

  • あの出来事が自分にとってどんな意味も持っていたのか、価値があったのか。
    よくわからない。
    でも、思い出深い。
    たぶん、大切な出来事。

    …そういう感じの。
    そういう感じの出来事が、人生にひとつあるって、
    切ないけど素敵なことだな。

    一番最後に収録されている「ハキリアリ」という作品は
    人質ではなく、救助に携わった存命の人が書いた回想録なのだけれど
    これが、ぐっときた。
    この作品は、動きのある物語になっているし、
    そこはかとなく生命力や希望を感じさせる。
    「ハキリアリ」を読むと、突然、人質たちの作品とのコントラストが明確になり
    「この人は生きている」「あの物語の人々はもういない」ということを実感した。

  • 冒頭から、ショッキングな結末を提示されます。
    でも、そんな中で静かに語られる一人一人の人生の一場面が、とても心に沁みてきます。

    それは、幼い頃の場面であったり、数年前の場面であったり様々ですが、語られるすべての物語に宝物の時間を感じました。

    中でも、『やり投げの青年』が好きでした。
    黙々と投擲をする青年とただ見続けている私。
    言葉が交わされるわけではなく、青年の動きだけが静謐な雰囲気を醸し出しています。
    静かな時間の流れの中に、脈打つ鼓動の強さが響いてくるようです。

  • 何かの雑誌で見たんだよな。すごく良かった。小川洋子の最高傑作じゃないか。表紙の子鹿も素敵。地球の裏側の村で、反政府ゲリラにより拉致された日本人8名。長期間の拘束の中、一人ずつ朗読を行う。自分の経験を物語にして。プラスして、それを聞いていた現地の特殊部隊の人の物語も入れ、9話の短編集。何か、物語っていいなぁ、って改めて思う。その朗読が流れたラジオを私も聞いてみたい。もしかして、ほんとにラジオ番組として実現しているんじゃなかろうか。自分がこの人質だったら、何を語るだろうか。9話どれも良かった。何か。ほんと静かな、淡々とした感じというか、この表紙のイメージとほんとぴったりなんだよな。すごく、何度も何度も読み返したくなる感じ。

    2013.3.16
    再読。この静かな、淡々とした感じがたまらない。私だったらどんな物語を選ぶだろうか、と思う。犯人による爆発で人質全員が死んでしまうというのも切ない。最後に現地の人の話が入ってるのもいい。この表紙とすごく合うんだよな。と、今前の感想を読み返して、全く同じことを書いてると思う。まぁ1年経ってないしね。

著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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