希望が死んだ夜に (文春文庫 あ 78-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913649

感想・レビュー・書評

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  • 大人の責任って一体何だろうか、と思う。
    子どもたちが生きていく「社会」の、その構造を作っているのは大人で、その大人の都合で作られた社会の中で、子どもはただただ必死に生きる。
    大人が、大人の都合で生きることは、大人としての責任を果たすことになるだろうか。
    子どもたちの直向きさと、大人の身勝手さの対比が強烈だった。

  • 神奈川県で中学生の春日井のぞみが首をつられた状態で見つかり、その場にいた同級生の冬野ネガが捕まる。ネガは自分が殺したと主張するがその理由は頑なに喋らない。

    謎を突き止めるために捜査一課の真壁と生活安全課の仲田は協力することになる。

    テーマは「貧困」、以前生活保護をテーマにした柚月裕子「パレートの誤算」を読んだが今作は貧困家庭に育った子供がどのような思考回路になるんだろう、とか生活保護に対しての思考とかが描かれており大変興味深かった。僕の思考回路からは生まれないであろう発想、結論などがあった。

    冬野ネガは貧困家庭に育った子、一方春日井のぞみは吹奏楽でフルートも上手なお嬢様。ネガの妬みがのぞみを殺したのか!? ストーリーが進むにつれてどんどん明るみになっていく事実。

    最初から最後までテーマが貫かれており、よくできていた。真相には涙が出そうになった。

  • 女子中学生のネガが、同級生の少女を殺したという。だが動機は黙秘、半落ち状態である。
    若者ミステリーのような感じで読み始めるが、この作品のテーマは、貧困と生活保護だった。
    こういう作品を若者が読んで、考えたり想像したりしてくれたら良いなと思う。

    でも個人的には、一番印象に残ったのは、虐待の連鎖だった。自分が育った環境の中で、自分の常識は作られていく。
    ネガが、全く希望のない毎日を当然のように受け入れていることが、寒気がするほど怖く悲しい。
    「希望が死んだ夜」は確かに絶望的に辛いのだが、希望を知らないままのネガよりは、生きている人間のように感じてしまった…。

  • ブクログにアクセスするのは久しぶり。このブランクに読んだ作品はいくつかあるので、私自身の性格から順番に整理したかったが、この作品はそんな私の甘え?を許さないものだった。
    シングルペアレント、子供、若年女性の貧困…昨今、ニュースの隙間に必ず取り上げられる話題だった。この問題を描いた作品をノンフィクションも含めて複数読んできたが、今回読んだ「希望が死んだ夜に」ほど絶望感、そしてなんとかしなければいけないという焦燥感を覚えさせられた作品はなかったように思う。自己責任…私は今まで肯定的な意味で捉えていたように思う。しかしこの作品を読んで自己責任という言葉を口に出すことさえ恥ずかしく思う。
    苦労して刑事になった主人公の一人真壁の「母に楽をさせたいと勉強しかしてこなかった」ということは「母にだけ苦労をかけて自分は努力する余裕があったということか」という自問自答…もう一人の主人公というか当事者冬野ネガの担任教師三浦の「世界にはもっと恵まれていない人が大勢いる。例えばアフリカの子どもをテレビで観たことがあるだろう。…あの子たちのようになりそうだったら、いつでも相談しなさい」という一見真っ当なセリフ…これらの偽善性を私自身も持っていたことに気づかされ恥ずかしくて仕方がない。
    「貧困」の深刻さを思い知らされる社会派の側面はもちろんありながらミステリーとしても最上級…素晴らしい作品だった。

  • 14歳の女子中学生冬野ネガが同級生春日井のぞみを殺したことを自供したが、動機については黙秘する。
    なぜ同級生を殺したのか。
    なぜ動機を黙秘するのか。
    その真相を解明する捜査に、神奈川県警捜査一課の真藤が、生活安全課仲田蛍と、コンビを組まされる。
    この仲田がユニークなキャラで、捜査が行き詰まると彼女の「想像」が、局面の打開を図る。
    捜査状況の合間に挿入されるネガの独白的な語り。同級生や大人たちに翻弄されるネガとのぞみの状況は、読者にやるせない思いを抱かせる。
    やがて明らかになるのは、貧困問題であり、生活保護に対する困窮者の思い出ある。
    テーマと事件の真相が見事にマッチした作品は、終盤は予想を超えたどんでん返し的なミステリーで、読者を圧倒する。

  • つまらなかった訳ではないけれど、勝手に期待しすぎたのかもしれない。
    本格的な推理小説なのか、貧困問題をシリアスに描きたいのか、コミカルな会話を取り入れたいのか。
    全部混ざっていても良いとは思うけど、特にネガの回想で、冗談なのか苦しんでいるのか分かりにくい場面があった。それがちょっと惜しい。
    それにネガの回想と、真壁達が得た証言が食い違っている場面が何度か出てくるけれど、結局どちらが正しかったのか、例えば「水際作成」を役所が行っていたのか、冬野映子の訴えが弱いのか、あまりはっきりしない。だから誰にも感情移入できないまま読み進んでしまった。

    長谷部の家で写真にロープが写っていたから引っかかっていて、友輔が真犯人なのかもしれないとずっと思っていたら、母親の方だった。
    息子のためにしては行き過ぎた考えだなと思うし、口論の理由も少し弱い。捨てたコートを偶然ホームレスが着ているのも不自然だし。
    だから真相に関しては、気になっていた分期待外れだった。

    でも、貧困家庭の視点や考えは垣間見れた。助けが必要なのに相談できない。本当は生活保護をとても必要としているのに、人間としての最低限のプライドがそうさせない。
    分からなくもない。
    日本人は特に、普通じゃないもの、突出した存在を嫌うし、皆同じであることを重視する。他人も、自分にも、「人と違う」「多数派から外れる」ことを許さない。「自分だけ普通にできない」ことを恥じる、そのプライドが邪魔をするのでは。

    担任教師が、ネガの状況がアフリカの子供よりましだと伝える場面がある。苦しい事を、度合いを、人と比べる意味は何?それだけじゃなく、幸せも不幸も、人と比べるものじゃない。それに気付かない。幸せに上限なんてないから、人と比べる人は、無い物ねだりで一生不幸ということになる。自ら不幸に飛び込んでいって、気付かない。


    世の中は巡り巡って、悪いことも良いことも、したこと、しなかったことがその分自分に返ってくるものだから、見てみぬふりをしたり、助けられる人を助けなかったりした分、何倍にも厄介な事になって降りかかってくるもの。
    だから余裕があるなら、無い人に少しでも分けてあげたい。自分のためにも。
    ネガものぞみも、事件が起こったから大人達がやっと事情を調べ出したけれど、それじゃあ遅い。
    周りの人間が、関心を持って話しかけられたはず。そうすれば結果は変わっていたはずなのに。

    今の日本は、若者が貧しい。昔のように大家族で住むことが減った為、家賃や生活費は全額自分で払い、給料は少ない上に昇給もない。昔のように高卒で有名企業に就職なんてまずできないし、大卒で非正規も珍しくない。それでも学歴でしか人を測れない。
    税金は上がる一方だし、その分物価も上がる。結婚や子供だけじゃなく、あらゆることを諦めざるを得ない。
    自分1人が生きていく分のお金を稼ぐのでさえ難しいのに、親が離婚したり、亡くなったりした途端、貧しくなるのも当然だ。

    のぞみが言うように、日本は教育にお金がかかるし、お金に困ったこともないお金持ちが政治を牛耳っているのは事実。1人1人に合った教育どころか、ついてこられない子供は置いていく方針だし、教え方も上手くない。それを分かっているのかいないのか、政治家は方針を変えようとしない。
    バブル崩壊までは不景気の影響を受けたことがないからか、就職氷河期世代は現在も救済されずずっと放置……

    どうしてこうなったのか。どうすれば。
    これでは子供が生まれても、そう遠くない内に日本の未来はなくなる。日本を保つことができなくなる。つまり子孫が絶滅する。冗談じゃなく。
    それが何も考えなかった、何もしなかった人達に返ってくる結果だ。

    自分さえ良ければ、という人間には、そういう人生が返ってくる。周りに冷たい人しかいなくなる。
    自分の為に人に優しくしよう、でも良い。
    無関心よりはだいぶマシだ。
    無関心はそれほど罪なことだ。

    20210603

  • ネガとのぞみが仲良くなっていく場面はすごく微笑ましくて読んでいて楽しかったけど、ラストにかけて辛くて苦しかったです。
    ネガとのぞみがお互いのことをすごく大切にしているのが伝わってきました。

    ミステリーのような感じだけど、物語と一緒に読者に貧困問題についても考えさせる凄い作品でした。
    タイトルの意味が最後にわかりました。

  • 重い。とても重い。
    けれど、今まで読んできた貧困や生活保護の作品の中で1番しっくりきたかもしれない。

    ネガちゃんの叫びが、耳元で聞こえた気がした。

  • 仕事帰りに立ち寄った書店で、
    棚に面だしで陳列されていた一冊。

    制服の女の子の表紙と
    「希望が死んだ夜に」というタイトル。

    手に取り裏返してみると、
    -------------------------
    神奈川県川崎市で、14歳女子中学生・冬野ネガが、
    同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。
    少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。
    何故、のぞみは殺されたのか?
    二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって——。
    現代社会が抱える病みを描いた、社会は青春ミステリー。
    -------------------------
    ミステリーを読みたいなと思って手に取りましたが。

    読後は、少し放心状態でした。

    こんなことってあるの、
    誰が悪いの、何が悪いの、
    これが許されてしまうのと。

    残酷、という言葉が残りました。

    必死に生きて、
    自分の人生を切り拓こうとしただけなのに。

    私自身も、貧しさでは人のこと言えない。
    いつもお金ないですし。苦笑
    スタートは関係ない、挽回できる、って成功者は言うけど、それって全体の何パーセントの話なのかと思わされます。

    政治家の人とかに読んでほしいな、と思いました。
    現実にあるかもしれない本書を。
    私自身にも言えることだけど、
    想像力の欠如が致命傷になることがあると思うので。

  • 【探したけど、希望はどこにも無い。あったのは儚い幻】

    中学生ののぞみが殺害された容疑で捕まった同級生·ネガの動機を調べる事になった刑事達はその背景の社会の闇に気付く物語。

    深夜に起きた首吊り自殺。
    捕まった少女に動機を聞いても黙秘を貫くのみで、その不可解さが解決の糸口となる。
    そこにあったのは中学生を働かされる圧倒的貧困。
    しかし、アフリカなどの飢餓や苦しみがある訳では無い。不幸を比べる事自体が歪だ。
    当事者にしか分からないそれぞれの地獄がある。

    信頼出来る大人に搾取される子供達の痛みを想像するしか救いは無いのだ。

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著者プロフィール

1978年生まれ。メフィスト賞を受賞し、2010年『キョウカンカク』で講談社ノベルスからデビュー。近年は『希望が死んだ夜に』(文春文庫)、『あの子の殺人計画』(文藝春秋)と本格ミステリ的なトリックを駆使し社会的なテーマに取り組む作品を繰り出し、活躍の幅を広げている。

「2021年 『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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