彼方の友へ

著者 :
  • 実業之日本社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408537160

感想・レビュー・書評

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  • 「友よ、最上のものを」
    戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――

    老人ホームでひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が届く。「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」それは大切な想い出の品。
    フローラ・ゲームを私に届けてくださったのはどなた…
    波津子は思い出す、あの愛する人たちと生きた熱い激動の時代を。

    戦時中に雑誌を作るという事はどれだけ大変だったのだろう。書きたいことが書けず、描きたいものが描けず、さらには紙までなくなっていく…
    それでも、有賀も純司もいつでも心はひとつ「友へ、最上のものを」。今こそ必要な記事や作品、そして素敵な付録を。彼らの情熱が伝わってきてグッとくる。

    戦後、みんなどうなったのか不安でどんどん読み進める。みんな生きていて、戻ってきて!と祈りながらページを捲る。

    エピローグ。70年後に語られる真実、届いたもの、そしてそこに書かれた想い。嬉しくて切なくて…。いい読書ができました。

    言霊の話は、前も何かの本で読んだけどやっぱりいいなぁ。言葉の持つ力、五十の音色、日本語の美しさを感じた。
    「ま幸くありこそ」

    私も乙女に戻って『乙女の友』を読んでみたい。そして純司先生におしたいしておりますとお手紙を送りたい。

    しかし、波津子さん、乙女が鼻毛は…(笑)

    • nejidonさん
      けいたんさん、こんにちは♪
      とっても面白そうな本ですね!
      滅多に小説は読まないのですが、読んでみたくなりました。
      これって、フィクショ...
      けいたんさん、こんにちは♪
      とっても面白そうな本ですね!
      滅多に小説は読まないのですが、読んでみたくなりました。
      これって、フィクションですか?もしやまさかのノンフィクション?
      実話だったら本当に素敵なお話ですね。
      ごめんなさいね、基本情報さえ知らなくてコメントしてます。
      70年後に何が明らかにされたのでしょう?
      ああ、とっても興味があります!
      2018/01/25
    • あいさん
      nejidonさんへ♪

      いつもありがとうございます(^-^)/
      最近感想がなかなか書けずムムムになっていたのでこんな風にコメントも...
      nejidonさんへ♪

      いつもありがとうございます(^-^)/
      最近感想がなかなか書けずムムムになっていたのでこんな風にコメントもらえて励みになります!
      nejidonさんはいつも素敵な文章を書いていて尊敬です(⁎˃ᴗ˂⁎)
      たくさんの思いが込められている文章ですよね。

      この作品はフィクションだと思います。
      「少女の友」という雑誌がモデルではあるらしいですけど。
      「少女の友」ネットで調べたら懐かしい雰囲気の表紙でした(*≧艸≦)
      きっと戦時中は苦労して作られたのでしょうね。
      何も知らないことを教えあうのがコメントのいいところですよ♪とても楽しいですよ。
      70年後に誰が訪ねてきたのかが明らかになった時色んな思いが胸によぎりました。
      いつか機会があったらぜひ読んでみてください。
      2018/01/27
  • 戦前から戦後にかけて、少女雑誌にすべてをかけてきた人たちの物語。朝ドラにすべきな充実した内容。実際にあった「少女の友」がモチーフ。読後、検索して中原淳一作の表紙や挿絵をみると、余韻に浸れます。

  • ☆5だよね。
    すごく良かった。

    面白いんかな?と思ったら、
    とりあえず読んでみてほしい。
    ブクログしてなかったら、読んでなかったであろう作品。

  • 素晴らしかった、とにかく素晴らしくて素晴らしくてしばらくは言葉にならなかったです。
    溢れる涙をぬぐいもせず、ひたすら読みました。
    読み終わった後、この涙の意味はなんだろう、と考えてました。悲しいとかうれしいとか感動したとか悔しいとか。そういう「ことば」を全て超えた、これは多分、命の涙なんだと、そう思いました。
    たとえば、人は本がなくても生きてはいけます。でも、人生に、自分のそばに本があればその人生は何倍も何十倍も豊かになります。言葉を読み、絵を眺めるだけでなく、それを手に取り胸に抱きその世界に浸る時間、その全てが私たちの命の源となるのですね。あぁ、生きるって素晴らしい。

    有賀主筆は私の祖父より少し年上で、波津子は祖母より少し年下。つまりこれは私の祖父母が懸命に生き抜いた時代の物語でした。
    美しいものにうっとりとする乙女たち。雑誌の小さなイラストを切り抜き丁寧に紙に貼り自分だけのノートを作る。その時間と心の豊かさ。
    父親の外套をほどいて娘たちのコートを作る。カーテンをリボンにし、毛布をスカートにする。そういう生活の(今とはちがう)豊かさ。
    言葉を丁寧に話すこと。気に入らない上司であってもウイットに富んだニックネームに様をつけて呼ぶ品の良さ。
    そんな豊かで美しい時代が、戦争という狂気によって踏みにじられていく。悲しい。悲しくて苦しくて悔しくて。
    美しいものを美しいと言えること、好きなものを好きだと言えること、そんな当たり前の幸せを私たちはもう少し大切にしなければならないのでは。
    もう二度とこんな哀しい思いをする乙女を生まないために考えなければならないのでは。
    有賀主筆の孤高の信念、純司様の優しさと美意識、波津子の泥臭いけれど地に足着いた豊かさ、そんなたくさんの宝を私たちは守っていかねばならぬのですね。
    この世に生きる全ての友へ、私も一冊の本を届けて生きたい。元乙女として、いや、今も心に乙女を抱いて生きる一人の書店員として。
    あぁ、もどかしい。この想いをどう伝えればいいのか。うまい言葉が浮かびませんワ。
    ただ、一言言えるのは、この物語は宝です。この世界の光となり人を導く宝デス。

  • 「卒寿を越えて新しい記憶はすぐに薄れていくのに、必死で生きてきたあの頃の記憶だけは薄れることはない」で始まる本作。

    主人公の佐倉波津子、ハッちゃんは母と近い年齢。遠住みの母とは残念ながらしみじみと語ったことはない。母の過ごした時代に想いを馳せる。

    地味で無垢なハッちゃんにすっかり魅せられてしまった。こんな人が身近に居たら百人力だろう。学歴がないのをコンプレックスに感じているハツが「乙女の友」編集部の中で迷い悩み苦しみながら、自らの才能を開花させていく。傍らで彼女に編集のノウハウを教える有賀主筆、純司先生、上里さん、美蘭さん、史絵里さん。登場人物がそれぞれに魅力的だった。

    美しいものや遊び感覚が抑圧されるとは大きな危険をはらんでいると気づかされた。

    『子供から大人になるわずかな期間、美しい夢や理想の世界に心を遊ばせる。やがて清濁併せ呑まねばならぬ大人になったとき、その美しい想い出はどれほど心をなぐさめ、気持ちを支えることになるだろうか』。美しさを必要としているのは少女ばかりではない。そして雑誌も小説も詩も音楽も、生活というものさえも、美しさを求めることは悪ではない。

    戦時色が濃くなり価値感は強要されていくが、それでも、彼女たちは「乙女の友」を待つ全国の少女たちに向け、「最上のもの」を届けるという使命を守り続けた。


    万葉集にある柿本人麻呂の一首を引いてあった。 

    磯城島(しきしま)の大和の国は言霊の助くる国ぞま幸(さき)くありこそ(日本の国は言葉の力が人を助ける国だ。だから私はあなたに申し上げます。どうかご無事でありますように)

    「言葉には魂が宿る。良きにせよ、悪気にせよ、口に出した言葉には力があり、物事はその通りになるという考え方だ。だから縁起の悪い言葉は言わない方が良いと僕らの先達は考えた」と有賀が語った言葉も、この時代だからこそ光る。

    美蘭のような愛し方もあって良いのだ。だからこそ命は繋がれたのだから・・・。


    疑問は有賀主筆の任務は何だったのか?たぶん憲兵隊のような仕事をさせられたのだろう。

    終章で明かされるハツの五線譜の暗号による告白と彼が亡くなり届いた有賀からの短い手紙。

    泣けるモノと喧伝される作品には手を出さない私が素直に泣かされました。

    読んでる間彼らと過ごせる時間がたまらなく愛おしく感じられた本作です!

  • 『 友へ最上のものを』という思いで、昭和・戦中・戦後
    発行され続けた少女向け雑誌があった。その名も
    「乙女の友」 
    全国の少女に煌めくばかりのときめきと明日への希望を与えた雑誌
    雑誌の附録も単なるおまけとは言い難い素晴らしいものだった 

    日本全土が戦争一色になっていき、軍部や政府の圧力が強くなり、多くの雑誌が消えていく中、この編集部は、余儀なく方向転換しながらも、生き残り、未来へつなげることを選択した

    なぜならこの雑誌は少女、乙女の友達だから。たとえ荒廃した大地に置かれようと、女性はそれに絶望して死にはしない。一縷の希望、僅かな光でもある限り・・・

    小学校しか出ていない佐倉ハツは、有賀主筆のともした灯を消さず、次へと繋ぐことに全力を注ぐ
    こんなにも一冊の少女雑誌に命をかけた人々があったのだと感動した

    70年もの年月を経て、施設に届けられた日章旗にくるまれた小さな箱とそこに入れられたメモ
    五線譜の音符に託された符帳

    「かなたのともからありがさまへ
        いつまでもおしたいしております」

    「親愛なる波津子
        私は永遠にあなたのもの」
    戦争によって引き裂かれたかのように見えた二人の愛は、ちゃんと繋がっていたのだ

    全くのフィクションだと思い読んでいたが、ブク友さんのレビューを読んで、モデルになった本があったのだと知った。昭和13年の1月号についた小箱に入った『フローラルゲーム』も実在したことに余計に感動した

    Amazonで復刻版が高額ではあるが出品されていた
    想像通りの女性ならいくつになっても胸がときめく素晴らしいものだった
     

  • 卒寿を越えて新しい記憶はすぐに薄れていくのに、必死で生きてきたあの頃の記憶だけは薄れることはない。

    戦中の東京、『乙女の友』編集部で少女雑誌をつくる波津子は、給仕から始まり編集者見習い、編集者兼執筆者と徐々に雑誌づくりにのめり込んでいく。
    敬愛するあの人の斜め後ろに立ち雑誌づくりのイロハを教わる。
    あの人が掲げた標語「友へ、最上のものを」を胸に。
    戦中どんなに過酷な状況にあろうとも、そこに読み物や絵があれば虚しい気持ちもなぐさめられる。
    だから次号の発行を待つ「彼方の友」へ向けて最上のものを届ける!
    固い絆で結ばれた仲間達の奮闘ぶりに涙が出た。
    どんな時でもプロ意識を捨てない彼らを誇りに思う。
    単なる娯楽ではない、「読み物」の存在の有り難さが身に染みる。
    そして波津子の願いが叶って本当に良かった。
    あの時代の「友」が築き上げた情熱は、更に大きくなって今の時代の「友」へとしっかり伝えられた。

    是非とも映画化してほしい。
    それにしても、何故この作品が本屋大賞候補にノミネートされなかったのか不思議…。

  • 知らなかった時代、世界を知る楽しさ。
    レトロな感じを想像するのも楽しい。
    簡単に手に入らないことへの憧憬、渇望。
    それでも卑屈にならず、純粋にひたむきに目の前のことに一生懸命取り組む。
    そんな主人公を応援しながら読み進められた。
    朝ドラになりそうだなあ…






  •  素敵なお話で、その世界観にどっぷり浸りながら堪能できた。
     時代は昭和の初め頃。当時の人々はなんて奥ゆかしいのだろう。古き良き時代というが、まさにそんな感じ。ただし、それも戦争が始まるまで。戦争は全てを壊してしまう。大切な人も物も。でも、壊せないものもある。

     さて、主人公の佐倉ハツは、現在は老人施設で昔と現実の世界を行き来しながらまどろんでいる卒寿を迎えた女性。
     物語はハツが当時を思い出すような形で進んでいく。
     ハツは、憧れの雑誌『乙女の友』の出版社で働くようになる。そこで働いているのはハツが気遅れしてしまうような学歴や経歴を持つ洗練された人たちばかり。そんな中、ハツの孤軍奮闘ぶりがいきいきと描かれている。一生懸命で、何よりハツの『乙女の友』への情熱がみんなを引き寄せ始める。ハツは雑用係から作家、そして主筆となり、やがて日本は戦争に飲み込まれていく・・・。

     「友へ、最上のものを」。読者を友と呼び、友に最上のものを届けることをテーマに、雑誌作りをする人たち。戦時中、貴重な紙は制限され、また、様々な検閲を乗り越えながら常に最上のものを友のために届けようとする姿に目頭が熱くなる。

    また、この小説にはたくさんの恋がある。あまりにも切ない恋ばかり。その人のことばかり考えてしまい、好きだということさえわからない恋。好きという、たった一言も伝えることのできない恋。なんて不器用な人たちばかりなんだろう。でも、だからこそ胸に熱くこみ上げるものがある。

    世界で一番短いラブレター。2人にしかわからない暗号を乗せて時代を超えて伝わった瞬間、全身に鳥肌が立った。ハッちゃん、良かったね!有賀さん、きちんと伝わりましたよ。

    • breadandbookさん
      いくつかの本の紹介ありがとうございます、長めのものもあるようなので、一つ一つ落ち着いて見ていきたいと思ってます。『彼方の友へ』は、ラブレター...
      いくつかの本の紹介ありがとうございます、長めのものもあるようなので、一つ一つ落ち着いて見ていきたいと思ってます。『彼方の友へ』は、ラブレターに私もやられました。二人しかわからないなんてね。ハードボイルドとか警察物とか好きだけれど、こういった時の重みを感じるのも好きです。…『凶犬の眼』は近々読む予定です、楽しみ。こちらは三部作であともう一つあるようですね、楽しみ楽しみ。
      2018/05/21
    • あいさん
      こんばんは(^-^)/

      たくさんの恋がありましたね。
      私は恋愛ものはあまり得意じゃないのですが、この作品の恋愛はどれもよかったです...
      こんばんは(^-^)/

      たくさんの恋がありましたね。
      私は恋愛ものはあまり得意じゃないのですが、この作品の恋愛はどれもよかったです。
      とても心に残る作品でした。
      2018/05/29
  • 男の私が言うのもなんですが、これはオススメの本ですね! 一世を風靡した少女向け雑誌が好きな不器用な女の子が はからずも発行する会社に勤めるようになり更には主筆にまでなってしまう。今は卒寿を迎えた彼女 ハツさんだが彼女を育てた前主筆こそ密かに想い続けた人で、戦時 消息が不明になったまま。昭和12年から20年のハツさんの暮らしが走馬灯のように流れて、大空襲から終戦で全てが無に帰す部分は「この世界の片隅に」や「流れる星は生きている」などが連想された。
    そして最後に 老いた彼女に面談を申し入れた若者とのやりとりでハツさんにも読者にも全てが明らかになる仕掛け!「彼方の友へ」は「かなたの ともへ」なのでした。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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