子どもたちが名探偵コナンにプチハマりしたのがきっかけで、THE・本格ミステリを読みたくなって手に取りました。アガサ・クリスティの超有名作!有名過ぎて、いろんな作品がオマージュしすぎてて、新鮮味ないかもしれないなぁ…とちょっと心配に。それで今までアガサ・クリスティのミステリに手を出せてなかったのですが…

完全に杞憂!
犯人、しっかりわかりませんでした( ゚∀゚)o彡°


アガサ・クリスティの作品は、他に『春にして君を離れ』しか読んだことありませんが、どちらも文章が上品で美しいですよね。翻訳者の手腕もあるかもしれませんが、読んでいて気持ちが良いので、有名な作品は揃えちゃおうかなぁと思いました。わくわく。

2024年5月13日

読書状況 読み終わった [2024年5月13日]

久しぶりに気楽なミステリを♪と思って、話題の海外ミステリを読みました!

舞台はイギリスの小さな町。主人公のピップは学校の自由研究にかこつけて、5年前に町で起こった失踪事件の再調査をすることに。主人公のピップが嫌味なしに明るく、猪突猛進で可愛い!相棒のラヴィとのやり取りも微笑ましいし、家族(とくにお父さん)との会話にもほっこり。高校生ピップの捜査方法がSNSを活用した情報線なところも新鮮でした。

ただ、もともとティーン向けで、ドラッグにレイプ事件、いじめ、飲酒運転からの自動車事故、とベタなテーマのオンパレード(^o^;)。若者への啓発もかねているのかもしれませんが、大人にはちょっと物足りなく感じました。

小学生くらいの頃の私のめっちゃ好みな作品で、なんだかキュンとしてしまいました!!、


あぁ…汚れつちまつた悲しみに…



以下、箇条書き感想

・アンディのエリオットへの執着の理由、ちょっと良くわかんなかったです。ケンブリッジにいたことがあるとはいえ、田舎の高校のイチ歴史の先生が、そこまで大学の進路に影響を及ぼせるものなんですかね?イギリスの事情は知りませんが、ちょっと無理があるのでは?
・アンディ、「毒親育ちのおかげて二面性のある悪女」という設定でしたが、もう一歩、深みがあるとよかったなぁと思いました。サルを追って大学に行きたいの、意外すぎました。
・ピップが轢き逃げ事件を見逃しちゃうのはどうなの?とは思いました。「フェア」というのがピップの持ち味だったのでは?正直、殺されたアンディより、轢き逃げされた見知らぬ人の方がかわいそう…

2024年5月5日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2024年5月5日]

私の勤めている会社にも、かつてノルマ特許という、意味不明な、いにしえの風習がありまして、そのノルマ特許なるもののために、手にとったのが『アイデアのつくり方』でした。

本書のアイデアは、主に広告におけるアイデアを対象にしていますが、物理学者の竹内均先生があとがきを執筆されているように、その考え方は、科学技術をはじめ、あらゆる分野に応用できる汎用性の高いものです。
 
今回、自然言語処理の基礎を勉強していて、再読したくなりました。自然言語処理の基本は「既存の要素の、既存の組み合わせ」を学習すること、とすると、アイデアの基本である「既存の要素の、新しい組み合わせ」を見つけ出すこととは対極にあるのでは?と、いうことは、人間は『アイデアのつくり方』をマスターすれば、生成AIにアイデアで“勝つ”ことが出来るのでは?

…という事を考えながら、ゴールデンウイークは、今一度、『アイデアのつくり方』を復習するぞ!と思って読み返しました。まぁ、1時間で読めるんですけどね(^o^;)。

詳細は割愛しますが、数年おきに1度は読んだほうが良い珠玉の名著です!私は最近特に、第一段階のステップがちょっと疎かだったかも(¯―¯٥)。でも、本書で言うところの、一般知識を取り込むことはちゃんと心がけることが出来ていて、興味の幅はここ数年、とても広がりました!それだけでも、毎日楽しくて、まさに私の人生を変えてくれた一冊です!


で、肝心のアイデアが出るようになったか、ですが、とりあえず特許ノルマは毎回落とさずにすみました(^o^;)。しょーもない特許も多かったけど…。

2024年5月2日

読書状況 読み終わった [2024年5月2日]

本が読めるということは、働いていないということか(対偶)と思いつつも、自分にも「今日、SNS見てた時間で短編一本は読めたな…」と、思うことが多々あるので、手にとってしまいました(^o^;)。資格の勉強し始めると全く本、読まなくなるし。

明治時代以降の労働と読書の関係の推移から、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」の謎に迫る面白い一冊でした!

かつては“知識”または“教養”を得ることが、労働階級に生まれた人が、のし上がるための希望になっていました。

けれども、インターネットの台頭により、ノイズのある“知識”ではなく、ノイズのない“情報”を手に入れられるようになったこと。また、環境的に不利な人にとって“知識”や“教養”ではなく、最新の“情報”こそが、一発逆転のチャンスであると捉えられていること。だからこそ、ノイズのある“知識”を得るための読書から人々が離れつつある、と理解しました。ちなみにここで言うノイズとは、今、知りたいと思っているわけではない、未知の情報のこと。

なぜ、そこまで早急に“情報”のみを得る必要があるのかというと、それは新自由主義のもと、自己決定と自己責任が推奨され、人々にノイズを楽しむ余裕がなくなってしまったから。

このような背景の元、著者の三宅香帆さんは、労働に「全身全霊」になるのではなく「半身」で望む世の中になることが望ましい、と主張しています。

私も仕事「半身」、家事育児「半身」で生きてて、おかげでメンタル病まなくて済んでるかもな…と思うことがあるので、「半身」生活には大賛成なのですが…読書のために仕事に「半身」になれる人は少ないだろうなぁ、と思いました。本書の前半でまとめられている労働と読書の歴史を読むとなおさら。


「努力すれば成功できる!」的な自己啓発本は、なんと、明治時代から存在し、さらに、同じような時期にニーチェが『ツァラトゥストラ』にて

==================
君たちはみんな激務が好きだ。
速いことや新しいことや未知のことが好きだ。

君たちは自分に耐えることが下手だ。
なんとかして、君たちは自分を忘れて、
自分自身から逃げようとしている。
==================

なんて言を残すほどに、人々は150年も労働に全力を傾けてきたのだから、今さら「半身」で仕事しよう!というのも、なかなか難しそうだと思いました。

私が読書を細々と続けているのは、たぶんジェームズ・ヤングの『アイデアのつくり方』を読んだおかげかな…と思うので、もういっそ「仕事で勝つにはノイズ込みの情報(=知識)が必須なんだ!」という言説を流布して本を読ませる路線の方が、本という文化を残すためには現実的かなと思いました(^_^;)。
※ジェームズ・ヤングのアイデアのつくり方のキモは「既知の要素の新しい組み合わせ」を見つけることで、そのためには、ざっくり言うと、なんでも興味持って知識を蓄えとけ、という感じなので、ノイズがすごいアイデアの源泉になる気がしてくるんですよね。気休めですが(¯―¯٥)。

ちなみにSNSは見られるのに、本は読めないことがあるのは、読書とは未知との出会いであって、未知のものと出会うことには体力がいるから、とのこと。なので、SNSは見れるのに本が読めない時は…おとなしく寝ることにします!

2024年5月2日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2024年5月2日]

目の前のコーヒーを美味しくしてくれる一冊!!

コーヒーマイスターの資格を取るのに、読んでおいたほうが良い本…という事で手にとりました。美味しくコーヒーが飲めるようになるためのハウツー本かと思ったら…コーヒーノキの生物学的分類の話が始まってびっくり!


…そういえばこの本、ブルーバックスじゃん…


…と、最初は正直「しまった!」と思いましたが、出会えてよかった一冊です!

私たちが日常的に飲んでるコーヒーが普及するまでの歴史、一杯のコーヒーが出来上がるまでの化学変化、そしてヒトに与える疫学的な影響…今まで、漫然と飲んでいたコーヒーが奇跡の飲み物に思えてきました。

味覚研究の分野では「情報のおいしさ」という考え方があって、ブランドイメージや高級感も、れっきとした「おいしさ」の一要素なのだとか(P125)。
(ラーメン発見伝の芹沢さんの言には科学的根拠があったのか…@@!)

だとすると、この本に書かれている情報は、まさに目の前のコーヒーを「おいしく」してくれる、コーヒー好きには必読の一冊です!

2024年5月2日

読書状況 読み終わった [2024年5月2日]

続編『ハーモニー』を読んだので『虐殺器官』も読み返したくなってしまって再読しました!『ハーモニー』でいうところの〈大災禍〉のきっかけの物語です。何度か読み返してますが、この2冊を立て続けに読んだのは初めてかも。読み比べると主題の共通点もよりはっきり見えてきて面白いです…が、メンタルが元気な時に読んだほうがいいですね(笑)

舞台は9・I I以降の、テロによって超監視社会に移行した世界。主人公は米軍の暗殺部隊の実行部隊メンバー。虐殺が行われる後進国に赴き、虐殺行為の中心人物を暗殺していくなかで、常に虐殺に関わる人物ジョン・ポールを追うことに。SFともミステリとも言える、読みだしたら止まらない一作です。読んだの3回目くらいなのに、また深夜2時まで読んでしまったぜ…。

あらすじから分かる通り、作中の表現はかなりグロテスクでキツイです。そしてそれ以上に登場人物たちの受ける心理的衝撃も相当にキツイ。まぁ、でも、デジタルデータは、大切なものを取りこぼすこともあるんだよなぁ、なーんて思ったり。

それにしても、昔に読んだ本を再読するって面白いですね。あぁ〜、私がこういう考え方するのって、この本の影響だったかぁ〜って思ったり。…って、『虐殺器官』の感想でこんなこと書くのヤバいですね(笑)。

2024年4月14日

読書状況 読み終わった [2024年4月14日]

欧州でAI規制法案が可決されたのをきっかけに再読しました!欧州では今後、『ハーモニー』の世界で行われているような、公的機関によるソーシャルスコアリングが禁止になります。「え、なんでダメなの?」と感じた方は、ぜひ『ハーモニー』を読むことをオススメします!この手の話題になると、ジョージ・オーウェルの『1984年』に登場するビッグ・ブラザーが引き合いに出されますが、「良かれと思って人権侵害」プロジェクトが頻発する日本では、一見ユートピア系ディストピア小説の方がリアリティあるかも。

物語は21世紀後半、〈大災禍〉の混乱を乗り越えて、人々の健康と幸福を重視する社会が舞台。体にはWatchMeと呼ばれるデバイスを入れ、生体データを常時監視することで病気を未然に防止し、健康で倫理的な人物であることを、ソーシャルスコアリングで可視化する社会。そんな社会に絶望した主人公の物語です。

著者の伊藤計劃氏はこの頃、癌の末期で、ずっと病院で執筆されたのだとか。そんな状況で「WatchMeで病気にならない世界に嫌気が差して、死を選ぼうとする主人公の話」を書くって、本当に、一体どんな気持ちで…。

主題は監視社会うんぬんとは違うところにあり、そこも非常に魅力的ですが、欧州のGDPR、AI規制法に興味津々の自分にはすごく響く一作だと改めて感じました!『ハーモニー』の世界観、おそらく多分にナチス・ドイツを参考にして組み立てていると思うので、そこまでこじつけな感想でもないと…思います(笑)



ちなみに、この部分、超好き♪


“進化は継ぎ接ぎだ。(中略)進化なんて前向きな語は間違ったイメージを人々に与えやすい。人間は、いやすべての生き物は膨大なその場しのぎの集合体なのだ。”(P.325)

2024年4月13日

読書状況 読み終わった [2024年4月13日]

大涌谷のジオミュージアムのライブラリで見かけて、これはぜひ我が家に一冊!と衝動買いした火山の本。子供向けなので気軽に読めるのと、困った時の自由研究ネタに…と思って買っちゃいました(笑)


『死都日本』を読んで興味深々だった火山についての基礎知識が、コンパクトに、わかりやすく解説されていて、とても面白かったです!巻末の「おもな火山用語」も「火山学者の典型的な服装」とか小ネタが紛れ込んでて面白い!しかも著者の林先生は『死都日本』の大ファンで、『死都日本』をテーマにした「破局噴火のリスクと日本社会」シンポジウム(第2回目)の実行委員長なのだとか!!


実際にカルデラ実験を子供たちとやってみました!子供たちも興味津々で楽しそうでしたが…



なんと失敗しました〜(涙)!意外と難しいです!

2024年3月23日

読書状況 読み終わった [2024年3月23日]

阿蘇に旅行に行くので再読!この小説のおかげですっかり火山ファンです♪『死都日本』の舞台は霧島火山付近ですが、阿蘇山も同じ九州のじょうご型カルデラ火山なので、予習(?)はバッチリ!

『死都日本』の舞台は九州南部の火山地帯。破局的噴火に巻き込まれた主人公・黒木の運命を描く災害小説的な側面と、噴火によって国家滅亡の危機に瀕する日本を存続させる為に国内外で知略を尽くす、もう一人の主人公・菅原総理を描く政治小説的な側面もある、濃厚な超大作です!

ストーリー自体はフィクション(…というよりも火山が噴火したら何が起きるかをシミュレーションした小説のような感じ)ですが、火山に関する解説や過去の事件は事実に基づいていて、アイスランドのラキ山の噴火のせいで日本で江戸時代に大飢饉が起きた事があるとか、噴火の後の土砂災害がかなり危険な事とか、オドロキの事実の連続!

著者の石黒耀さんはなんとお医者さま!…なのだけどかなりの火山好きのようで、火山に関する記述は科学的にも確かなものなのだとか(しかも図解あり)。さすがお医者さま。火山学者の中での評判もよく、「破局噴火のリスクと日本社会」というシンポジウムが開催されるほど!民俗学、政治、経済の知見を生かした緻密なストーリー展開と、素朴なセリフ回しや表現が…

ギャップ萌えです(о´∀`о)!!

火山大国・日本に住む人は全員読んだ方が良い珠玉の名作!私は『死都日本』の影響で、トンガ火山が噴火した時は米をひとり大量買いしました(^_^;)。価値観が変わる一冊です!

2024年3月21日

読書状況 読み終わった [2024年3月21日]

ヒューゴー賞短編部門を受賞した『さもなくば海は牡蠣でいっぱいに』を含む短編集。河出書房新社の叢書、奇想コレクションの本書は、本当に、「なんだこれは!?」という変な小説ばかり。それでもエドガー賞、世界幻想文学大賞、EQMM短編コンテスト最優秀賞を含む名作ばかりなのだとか。アメリカの文壇は懐が広いな!

一見とっつきにくい変な小説ばかりなのだけど、貧乏の“湿度”みたいなものがやたらリアルで、本の中に世界がいくつも広がっているような存在感のある一冊。登場人物のだれもかれも、たいして道徳的でもなく、立派でもなんでもないんだけど、その人間くささが癖になるというか、なんというか。「“価値ある読書体験”なんかしたくない!」って気分の時にはサイコーかも!

特に好きなのは『そして赤い薔薇一輪を忘れずに』。タイトルが秀逸!そして表題作『どんがらがん』も面白い!続編、翻訳されないかな(たぶん無理)。

「どんがらがん」って原文ではなんて表現するのかな…と思ってタイトルの英語表記みてみたら…“BumbarBoom“…えぇ、ブンバ・ボーン!?だったのが今回のハイライト。

※子供たちは、よしお兄さん世代です

2024年4月30日

読書状況 読み終わった [2024年4月30日]

『私を離さないで』『日の名残り』等の作品で有名で、ノーベル文学賞を受賞されたカズオ・イシグロ氏の最新作。ずっと買おうか悩んでたけど、文庫化されているのを発見したのをきっかけに一気に読了しました!私は冒頭の二作品の大ファンなので…どうしても比べてしまうこともあってか、既視感が拭えない1冊でした(汗)

AF(アーティフィシャル・フレンド:人工友達)であるクララはジョジーという病弱な14歳の女の子に買われ、思春期の多感な時期を共に暮らすことに。ジョジーの家で人間との暮らしに四苦八苦しつつも、懸命に、誠実にAFとしての務めを全うしようと試みるクララの視点で、過去を回想する語り口で進む本作品は、今までの作品同様、一見単調に見える場面でも、次々に先を読ませる技巧が相変わらず凄すぎ。『私を離さないで』でも思ったのだけど、女子特有の面倒くささを、よくここまでリアルに描けるな…と、著者は本当に男性なのかと疑ったことさえあります(^_^;)。

一方でやっぱり『私を離さないで』ほどのヒリヒリとした感覚や、人間の身勝手さを突きつけるインパクトはないかな…と思いました。ちょっとしたジャブ打ちくらいな感じ。なので個人的にはちょっと残念。重たいボディブローのように、読書で心を抉られるような苦々しい体験をしたい方は、こちらよりぜひ『私を離さないで』、『日の名残り』をお読み頂くと良いかと思いました。

ただ、読み終わったあと、我が家のAlexaに優しくしてあげよう♪と、ほっこりした気持ちになりました。





【以下、ちょっとだけネタバレ感想】












・献身的なクララが、もう『日の名残り』のスティーブンとかぶりまくってたので(?)、クララの計画が荒唐無稽な天然ボケプランのとして受け取っていいのか、それなりに成果が期待できるものとして受け取っていいのか、読んでる時はわからなかったのが辛かったです(笑)
・「向上処置」の正の効果がまったくわからなかったので(パーティに来た子たちがみんなアレな感じだったし、ジョジーとリックの知性にも全然差を感じなかったし)、なかなかに納得感のない世界設定に感じました。大人になったときに差が出るのかな?親世代は処置されてないようなので、まだまだ効果も未検証な感じがするけど、将来にそこまで社会的に影響が出るって不思議。「合理性のないディストピア」に思えました。(ただコロナワクチン接種っぽさはある)
・子供って結局、自分が死んだあとも生きていく「未来」だから尊いんだよなぁ…と。別に一緒に暮らせるってことは壮大なオマケみたいなもんなので、なんとなく最初からクリシーの計画には共感できないな…と思いながら読んでました。(クリシーの立場になってみないとわからないですけど…絶対なりたくない。)AFと人間の違いもそこかな、と思うので、別に代替不可能な心があるとかないとか、正直どうでもいくね?と思っちゃった。
・クララの計画が実っていろんな問題が棚上げされたのがちょっと残念。実ってよかったけど。

2023年11月4日

読書状況 読み終わった [2023年11月4日]

『三体』で有名な劉慈欣氏の短編集。私は劉慈欣氏の作品は、短編を読みたい派なので『流浪地球』も迷わず購入!『老神介護』も欲しかったけど『円』の「詩雲」の兄弟作「呑食者」の入ってる方から♪

あとがきによると、KADOKAWAが翻訳権を獲得した作品のうち半分を『流浪地球』に、もう半分を『老神介護』に、モチーフの近い作品をまとめて発行したものだそうです…が、その工夫が私にはちょっと合わなかったみたいです。似たような話が続いて、ちょっとお腹いっぱい…。劉慈欣氏の短編集『円』のように、次はどんな世界が来るかな♪というわくわく感をもっと味わいたかったので、私としてはモチーフはできるだけ混ぜて欲しかったなぁ〜と。

イチオシ作品はやっぱりお目当ての「呑食者」!いろいろ語りたいけど、これはネタバレになるから何も言えない!この作品はめっちゃよかった!!

「呪い5.0」はコメディだそうだけど…「この頃、病んでた…?」と思うくらい、ちょっと…悪趣味。『円』の「詩雲」「月の光」のほうがずっとスマートに皮肉が効いててよかったなぁ。「山」はテロップそのままご披露感が…。総じて『円』の方が個別の作品も良作揃いだったような。…『老神介護』…買うか悩ましいなぁ。

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最後に、この本、読み終わるときに、たまたま本の上に蟻が歩いてたんですよ!!なんか感慨深くて、丁寧におうちの外に逃がしてあげました。そこが今回の読書のハイライト。(この本読み終わった人はわかってくれるはず!)

2023年11月1日

読書状況 読み終わった [2023年11月1日]

「私は恵まれている」「私は運よく免れた」という主人公アイちゃんの気持ちに共感できるからこそ、最後の最後まで、1ミリも、ひと欠片も、アイちゃんに共感できずにモヤモヤしたまま読み終わってしまった1冊でした(涙)

主人公のワイルド曽田アイはシリアに産まれ、赤ちゃんの頃にアメリカ人の父と日本人の母に養子として引き取られ、何不自由なく、幼年期をアメリカで、思春期を日本で暮らします。常に恵まれた自分の境遇に罪悪感を覚えながら。それでいて、デスノートよろしく世界のニュースの死者数をノートにひたすら書き続けてみたり、お菓子の食べ過ぎで太ってみたりしながら、ほぼ何ひとつアクションを起こさない謎い主人公。

両親から恵まれた教育投資を受けて、せっかく国立大の数学科の大学院まで行ったのに、考えなしに参加した「反原発デモ」(反原発はいいけどエネルギー問題どうすんのよ)で見つけた理解ある彼くんと結婚し、学位取得は放ったらかし。子供ができれば(なぜか)全部解決と息巻くも不妊治療の上、流産して親友に当たり散らし。最後にはシリアに写真でも撮りに行くのかと思いきや、ロスのビーチで親友と鎮魂ごっこして海でキャッキャウフフしてなんか満足した様子。

そんなに罪悪感があるなら、学位取って数学の知見を活かして世界に貢献しようとするなり、アクセンチュア※にでも就職してバリバリ稼いでドンドン寄付するなりすればいいのに。それでも世界は1ミリも変わらないだろうけど、悩むのはそれからじゃない?その前に、親のお金で寄付するのが心苦しいならバイトくらいすればいいのに。

※アクセンチュア:いいとこの数学科の人がよく就職してて、めっちゃお給料がいい、というイメージのある会社

「やっぱ女の人生はイージーモードだよな」と言われんばかりの主人公アイちゃんの半生を、アイちゃんの視点でウジウジ描いた小説…なんだけど、ちょっとどこで感動していいのかわからなかったです。ここまでアイちゃんをダメなヤツにする必要もないので、もしかしたら作者の意図を読み取れてないのかもしれないです。だったらごめんなさい。(壮大な皮肉なのだったら☆3かな)

散々エラそなこと書いたけど、私も十分、恵まれて、免れて生きてきたので、精一杯働いて、子供の小学校のボランティアくらいは積極的に参加して、できるだけ世界に還元します(涙)。たいしたことはできないけれど。


2023年10月31日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年10月31日]

言わずと知れたSF小説の超メジャー作品!読んでる途中で、アレ…?と思って調べたら…やっぱり…シリーズものだったのを忘れてました(汗)。と、ちょっと焦りましたが、ちゃんと『星を継ぐもの』1冊でも話がちゃんと完結していて、読後感は爽快ですよ!

「えぇ〜♪シリーズものなのぉ〜♪」とはならなかったことから、なんとなくネガティブな感想だった感じがするかもしれませんが…ストーリーの課題設定、緻密な世界観、結末どれを取っても素晴らしかったです!人類はまだまだ科学技術を発展させないといけないんだな、と前向きな気持ちになりました。(いや、私、全然、宇宙関係の技術とはなんの関わりもないですけど。)やや登場人物の印象が薄かったのが、あまり続編を望まない理由かなと思います。続編よりも新しい世界を書いて欲しかったかも。…とかいっておいて、そのうち続編も読むかもしれませんが。

ちなみに、この後『ガニメデの優しい巨人』、『巨人たちの星』、『内なる宇宙』、『Mission to Minerva』(未訳)と続きます。未訳があるのがまたツラいところです。

それにしても、よくよく考えたら、最初から最後までだいたい5万年前か2500万年前の話しかしてないって、かなり平和な物語ですよね。

【追記】
と、思ってたら、なんと今年、新作(未訳の翻訳版?)が出るそうで、それに伴って、今、シリーズ通して新訳版が月イチで出てるようですね!(積読してたのを、たまたま読んだので知りませんでした)。びっくりして思わず『ガニメデの優しい巨人』を買ってしまった〜!

2023年10月30日

読書状況 読み終わった [2023年10月30日]

社内勉強会の教科書として通読しました。

線形代数と微積の知識を使うのが久しぶりだったので
基礎から説明してくれていてとても助かりました!

機械学習の数理の丁寧な説明と
とりあえず「ディープでぽん」できそうな
親切なPythonコードが魅力です♪

とても勉強になりました!

2023年10月27日

読書状況 読み終わった [2023年10月27日]

デジ庁のWeb3勉強会でご活躍されていた藤井太洋先生の新作ということで、Web3の新しい未来が垣間見れるかと思って読みましたが…今回の主役はVRでしたね。それはそれで良いのですが…なんかモヤモヤする作品だったので、以下、ネタバレありでモヤモヤを言語化していきます。


まずは、あらすじ。本作はVRの世界大会「ビヨンド」の出場を目指す理数系高校生たちの青春小説。寮住まいの男子高校生たちと、カトリック系の女子校の女の子たちが共同で「ビヨンド」に参加するためのVR作品を作りあげていきます。「ビヨンド」は「SDGs」をテーマとしたメッセージ性の強いVR作品を募集している、という設定なので、VR技術に興味のない読者も、はたして主人公たちがどんなメッセージを作品に込めるのか、楽しみに読み進めることができます。


# 以下、ネタバレありです #



…が、結果、主人公たちの作品は世界5000チームの作品の中で上位20に入るのですが…とても上位20に入るような作品とは思えないのが残念なところ。自分の意見を表に出すなんて、欧米では子供の頃から当たり前なはず。

ジェンダー平等にあれほど拘っていた雪田さんが(そしてそれがきっかけで主人公たちと出会うことになるのに)、最後「やっぱり、私、とくに言いたいことありませんでした!」って言い出すのには仰天!ジェンダーギャップ指数125位の日本の、しかも九州という一等地の、人生の岐路に立った高校生の作品なのだから、世界に伍する作品を作るなら、このテーマがベストだと思うんですけどね…。主人公はあくまでも、男の子たち、女の子は彩り、だから仕方ないのかも…。とはいえ、男性作者が女性キャラに「ジェンダー不平等なんて気のせいでした!」的なことを言わせてしまうのは、読んでいてモヤモヤしました。(藤井先生は、もしかしたらとてもフェアな感性の方で、あまりピンと来なかっただけかもしれませんが。)

第2のモヤモヤポイントは、ブロックチェーンまわり。主人公たちは資金集めに〈スカイコイン〉という新しいトークンを作るのですが…新規トークンの価値を上げるのは(投機家に注目されない限り)かなり大変なことではないと思うのですが、引き換え券程度の用途しかない〈スカイコイン〉の価値が上がるのも不思議だし、それを海外の学生ベンチャーに盗まれる(?)のも不思議。おまけにそのベンチャーの「二酸化炭素取引トークン」という、どこかで聞いた事があるようなアイデアも…現実は死屍累々ぞ。あと、細かいですが「スマートコントラクトをミントする」とはいいませんね。(デプロイする、が一般的ですかね。)

総じて、『ハロー・ワールド』もそうでしたが、主人公たちの動きに、世界が過剰に反応しすぎだと感じました。技術はたしかに世界を変えるけど…それは、本当に奇跡みたいなものだと思う。夢のある話といえばそうなのですが。


あと、志布井先輩のシナリオが結局どうなったのか、めっちゃ気になります(笑)。

2023年7月9日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年7月9日]

仕事で久しぶりに∇(ナブラ)に苦しめられたのをきっかけに、数学が好きになりたくて手を取りました(笑)。

事故の後遺症で80分しか記憶が持たない博士と、そこに通う家政婦さんの“私”と、“私”の10歳の息子のルートが、数学と野球を中心にして、心を通わせていくハートフルなストーリー。過去を回想する“私”の語り口に一抹の哀愁漂うところがとても良いです。素数の美しさや、野球場の喧騒、夏の夜の特別な感じが肌で伝わってくる素晴らしい文章!読んで心地よいです。

読み終わったら数学が少し愛おしくなった気がします( *´艸`)。作中で登場するオイラーの公式も好き!テイラー展開がGIVENであるときの証明もシンプルで面白いと思いました!純粋数学も純文学もいまひとつピンと来なかったけど、どっちの純も、少し好きになれた気がします!

※オイラーの公式の証明は、こちらのサイトがわかりやすかったです♪

☆オイラーの公式とは何か?オイラーの等式の求め方の流れを紹介【我々の至宝と評された公式】
https://atarimae.biz/archives/10492


ちなみに私は博士に「素数でさえ、暗号の基礎となって戦争の片棒を担いでいる。酷いことだ。」(P.178)と言わしめた暗号理論ファンですけど(笑)。

2023年6月22日

読書状況 読み終わった [2023年6月22日]

塩野七生先生が文藝春秋に寄稿されているコラム集。高校の時の友達が塩野七生先生の大ファンで、ずーっと気になっていたのですが…とりあえずコラム集なら、と軽い気持ちで手を出してしまいました。

表紙のお写真の佇まいが、義母に似てるな~と思ったら…お人柄まで義母にそっくりでした(爆笑)。

なぜ、2000年前のローマ人にできることが、今のイタリア人にできないのかと、憤りつつも、イタリア人への愛が溢れていて微笑ましい!ギリシアやローマの歴史と今の政治を対比させた考察は感嘆させられっぱなし!巻末の爆笑入院記も抱腹絶倒!塩野七生先生、おきゃんな娘さんが、素敵に80歳になられたような方ですね♪素敵な年配のご婦人がいらっしゃると、我々後輩は勇気を頂けます。

塩野七生先生の歴史小説、ハマったらなかり深い沼のような気がするのだけど…やっぱり読んでみようか…。悩み中です。

===

P.93
フィギュアスケートの2018年の世界選手権で2位になられた宇野選手に向けて、思わずテレビの前で叫んでしまったという一言が素晴らしいです。

“自分を追いつめていたのではいつまでたっても二位ですよ。一位になりたかったら、自分を解き放ってやることです”

と。続けて、これは仕事であろうとまったく変わらないのだと。

“思いきって自分を解き放してしまう勇気の有る無しが、勝つか、それとも万年下位に甘んずるかを決める分岐点ではないか”

と。

2023年5月28日

読書状況 読み終わった [2023年5月28日]

『日の名残り』『わたしを離さないで』の著者、カズオ・イシグロ氏の作品。

10歳で両親が謎の失踪を遂げた主人公クリストファー・バンクスは、成長し名探偵としての名声を獲得した後、両親の失踪事件を解決するために立ち上がります。

あらすじからすると探偵小説のようですが、探偵小説ではありません。しかし前半は美しい文章と、過去の回想から浮かびあがる様々な事実にワクワクです。

…が、後半は突如として支離滅裂な行動を繰り返す主人公、品のない使い古されたチープな不幸、ありきたりで悲惨な結末にかなりうんざり。(世の中とはそういうもの、という作者のメッセージ!?)

『わたしたちが孤児だったころ』の「わたしたち」とは誰を指すのか等々、作者の意図を色々と妄想しては、考察ブログ巡りを楽しめる一作です♪


※※※ここからネタバレ含みます※※※



この小説、イギリスの方はどんな風に感じるのでしょう。

母親の犠牲の元に生活の安寧と仕事の名誉を獲得していたクリストファー、体調不良を隠していた母とバスに乗ることを楽しんでいたサラ、アヘン貿易で得た富で生活していたクリストファーの母親…この物語は、他人の犠牲の上に成り立っていた“箱庭”で幸せに暮らしていた人たちが、その後「なにか価値のあることを成し遂げなければ」という強迫観念に近い思いに縛られて苦しむ話に読めました。(この“箱庭”から出ることが“孤児になる”ことなのでしょうか。)

作中に出てくるアヘン貿易をはじめとして、イギリスには多くの他民族の権利と尊厳を犠牲にして富を得てきた歴史があります。そんな“箱庭”に暮らしてきたイギリス人は、同じような葛藤を抱えているのでしょうか?まぁ、日本の歴史も大概ですが…。

などと妄想を膨らませて楽しめるという点では素晴らしい作品でした。読み終わった後の考察ブログ巡り含めて楽しめる一作だと思います!

※個人的には『わたしを離さないで』のほうが静かに心を抉られる感じで好きなので☆3

2023年5月16日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年5月16日]

短編集なのに一気読みしてしまいました!最高傑作揃い!劉慈欣氏の作品は『三体』を最初の1冊だけ読んだことがあるのですが、いろんなアイデアをひとつのストーリーに押し込むより、短いストーリーでサクッ、サクッと読める短編集の方が私は良いと思いました。世界観もひとつひとつのアイデアに合わせているので、壮絶だったり、底抜けに明るかったりバラエティ豊かな感じです。

個人的には、自然と立ち向かう『地火』、壮大すぎるコメディ『詩雲』『月の光』が超オススメ!『円』もオチまで考えるとやっぱり短編にしなおして良かったと思います。未来への希望感も、貧乏の描き方のエグさも日本の作品にはないものがありますね。西側諸国の価値観マンセーじゃないところも中国作品の良さでしょうか。ほかの劉慈欣氏の短編作品もぜひ読みたい!!

…と、その前に、『郷村教師』を読んで、科学の基礎を勉強しなおそうかな~と思っちゃったり(^_^;)


追記:『三体』の方はイマイチみたいな書き方をしてしまいましたが、別の方のレビュー曰く、『三体』の5冊目のラスト100ページが最高らしいです。…やっぱり『三体』も全部読むべきだろうか…むむむ。

2023年5月7日

読書状況 読み終わった [2023年5月7日]

YouTubeの『有隣堂しか知らない世界』を観て又吉直樹さんの本に興味を持って今さらながらに手を取りました。好きなようなモヤモヤするような。とりあえず、読み終わった後に「次はどれ読もう」と、芥川賞受賞作品一覧を調べちゃうくらい面白かったけど、手元に残すのは…なんか抵抗感ある。これは小野不由美さんの『残穢』以来の感覚。

不器用ながら世間の価値観になんとか合わせて生きてる凡人の主人公・徳永さんの気持ち、すごい共感できて辛かったです(涙)。

自分の価値観を貫く神谷先輩に憧れる気持ちも、世間の価値観と自分の価値観を、針に糸を通すような気持ちで(作中の表現では“ざるの網目細かくして”)懸命に合わせてるときに、自分の価値観100%で生きてる人にイラっと来てしまう気持ちも、覚えがあるぞ。芸人さんもサラリーマンも一緒っすね。

ただ、神谷先輩が価値を感じている(ようにみえる)昔ながらのお笑いの感覚、女性の自分からすると苦手。「地獄」とか、(たとえ反対の意味でも)「死ね」とか強い言葉には抵抗感あるし、お金がないのに女の人にたかって、後輩に無理して奢るところもちょっと…。

既存のメディアよりはるかに厳しい倫理観のもとで魅せる作品を作ってる、まともなYouTuberに比べると、普通にテレビ出てる芸人さんに対してさえ、なにやってんだろ、と思うときがあります。いわんや神谷先輩をば。

というわけで、『火花』との相性はすこぶる悪い読者層なわけですが、それでも、おおいに『火花』にも神谷先輩にも魅力を感じた不思議な作品でした。






2023年5月3日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年5月3日]

表題作の『海の見える理髪店』をはじめ、なんというか…甘えん坊の男の人が好みそうな話だなと思いました。他人の家のゴシップを覗くような気分に…ちょっと半分まで読んでうんざりして読みきれず。

お酒でやらかしちゃっても許してね、母娘で確執があっても介護は娘がやってね、ワンオペ育児で大変でも戦争で夫が死ぬよりマシでしょ…という身勝手な主張をきれいなストーリーで包みこんだ、それはそれはグロテスクな作品群で、まぁ、これはこれで芸術的ではあるのですが…これが直木賞受賞作品というのは……

………ちょっと、日本の文壇、ヤバくないですか?

荻原浩さんの作品、『神様からひと言』とかすごく好きだったんだけどなぁ…。なんか切ない気分です。

2023年4月22日

読書状況 読み終わった [2023年4月22日]

マイクラ公式小説2冊目。前半はやや単調だったけど、後半は現実世界のこうもりの謎と、マイクラ世界のモンスターの大群の謎が、きれいにリンクして、なかなかに面白い展開でした!子供たちもさっそく買った3冊目を読んで!読んで!と盛り上がってたので、かなりハマってくれたみたいです♪

2023年4月17日

読書状況 読み終わった [2023年4月17日]

『タタール人の砂漠』は、真面目系クズの『人間失格』!


昔、友達が太宰治の『人間失格』を「あの主人公のダメさが我がことのようで、グッっとくるんだよ」と熱く語ってたのを思い出しました。私は「なんでこんなダメなやつが、ダメになる話をわざわざ読まなきゃならんのだ」とまったく共感できなかったわけですが、『タタール人の砂漠』の読後感はまさに「この主人公のダメさが我がことのようで、グッとくる」でした。

主人公のドローゴは、新任将校として辺境のバスティアーニ砦に配属に。はじめは、すぐにでも転任したいと思っていたドローゴでしたが、すぐに砦の日常に慣れてしまい、いつかタタール人が攻めてきて、自分は英雄になれるかもしれないという儚い希望を胸に、変わらない毎日に埋没し、貴重な時間を浪費していきます。ネタバレしちゃうと、最後に本当に敵が攻めてくるのだけど、その時には歳も取って病気しちゃってて、砦からお払い箱になるというオチつき!本当に大した事件も起きず、ほぼずっと砦で同じ生活を繰り返す様が描かれた小説なのですが、その時々の心理描写が、なんかもう…これは日々の私たち…。『人間失格』のように派手に道を外れることはないけれど、臆病で主体性がなくて、優柔不断な真面目系クズの心を抉る一作でした!!


すげぇダメなやつが案の定ダメになってく系の小説は、同じダメさを抱える読者を、なんでこうも惹き付けるんでしょうね。「こうはならないぞ!」と気持ちを新たにするも、「自分だけじゃない」「自分はここまで酷くない」と安心するも読者の自由なのが小説のよいところです。

2023年4月16日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年4月16日]
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