- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087461053
作品紹介・あらすじ
ある日、突然にとなり町との戦争がはじまった。だが、銃声も聞こえず、目に見える流血もなく、人々は平穏な日常を送っていた。それでも、町の広報紙に発表される戦死者数は静かに増え続ける。そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、町役場から一通の任命書が届いた…。見えない戦争を描き、第17回小説すばる新人賞を受賞した傑作。文庫版だけの特別書き下ろしサイドストーリーを収録。
感想・レビュー・書評
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戦争と誰もがもつ日常の関係を主題に考えさせられる小説。
肌感覚を伴わないとなり町との戦争だが、だかららこそ見えない感じられない恐怖に無関心で無責任に日々暮らすことを問題視している。ザワザワと心が騒めく印象深い読書だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
話の本質に触れられるようで、触れられないような透明な薄い膜に覆われたような筆致。
わからないふりをして、現実を見ないようにしている?
そうかもしれない。今この時起きている戦争は、テレビを流しながらのんびり本を読んでいる私には他人事で無い事に等しい。
戦争だけじゃない、虐待・貧困・難病など本人ではどうしようもない現実の中でもがき苦しんでいる人はいるはずなのに。
それを知らなかった事にして生きていきたくないと物語の登場人物は言うが、自分にできる事は、なんなのか?自分の手で守れるものは何なのか?考え始めると、自分がちっぽけで無力な存在に感じてくる。せいぜい自分の手の届く範囲にいる家族と生活を守るくらい、か。
でも人の命を土台に発展してきた人類の歴史があったのだとしても、命ほど尊いものはない。
それが分かる今、戦争という人の血が流れる形で人類の発展などしてはならない。 -
となり町で目に見えない戦争がはじまる。
一企業の社員、北原はこの戦争にあたり、「偵察業務」を任命される。敵地への潜入のため便宜上の結婚をすることとなる。随分前に読んだ。私的には、今一つだった。いまだ図書館で見かけるし、息子の本棚にもあった。 -
「戦争」は「日常」の対極にあるのではなく、「日常」の延長戦にあるのだという意識をもつべきだと訴えられた。
「戦争」という言葉を聞くだけで、言い伝えられたイメージに固執していると、私たちは本当に、自分の歩んでいる道がどこへ続いているものなのかを見失ってしまう気がする。 -
別章まで読むと、戦争という明らかに無くなった方がよいとされているものだけでなく、人間がより高度な社会を形成する時には必ず良い面と悪い面の両方が出てくるのであって、私達はその中に生きているのだということについても改めて意識を向けさせられる "目に見えない戦争"とは、実際の戦争を指すと同時に、日常の中でははっきりと感じることのない社会の悪目のことを比喩してもいるのではないだろうか 作中で、ある種の明確な答えが示されるわけではないので、読後ももやもやした感じが残るのだが、色々と考えるきっかけになる本だと思う
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となり町との戦争って?
まずはその内容が知りたくてどんどん読めた。
なんとなく消化不良。きっとそれが筆者の意図でもある気がする。
読むごとに考えそのときの自分の考えを持てたらそれでたぶん正解。 -
昨日、歯医者と床屋をはしご。
歯医者は予約していても待たされるし、床屋は朝イチで行かなければ空いてるかも分からないので、この本を持って出る。
予想通り待ちが重なり、そこで半分ほど読んで、それから家に帰って「終章」まで読む。
今朝、文庫版のために書き加えられた「別章」まで読了。
う〜ん、ちょっと微妙。というかよく分かんない。。。
遠い外国で行われている戦争のニュースを見ても、気の毒にとは思っても、自分自身のことと受け止めていないことは確かですよね。
だから『戦争に反対できるかどうかの分岐点は、「戦争に関する底知れない恐怖」を自分のものとして肌で知り、それを自分の言葉として語ることが出来るかどうか』なんだろうなとは思う。
ただ僕らは戦争と切り離された日常で、『今の自分のこの一歩が、果たしてどちらに向かっているのか』については、それぞれ(意識しているかどうかは別として)考えながら生きていて、夢や希望やあるいは悩みや悲しみの中で、自分自身の思いを形作って生きている。
そこから戦争に対する考えや思いも、場合によれば出来てくるのではないかと思んだけど。それではダメかな? -
となり町と自治体の公共事業として戦争する舞坂町に住む主人公。戦況も報じられず、大義名分やそもそもの戦争の是非について論じられることなく、日常の延長線上に戦争が行われている。偵察任務を命じられた主人公ですら、となり町との戦争を実感することなく、いつも通り仕事に行き生活している。個人が実感できない事象は存在していないことと同義である怖さ。自覚がないままに戦争に加担し、間接的に誰かを殺しているかもしれない恐ろしさも感じる。香西さんが1番の犠牲者なのに市職員として感情を押し殺している様が切ない。文庫書き下ろしの別章も良かった。
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通常、戦争を描いた作品はその戦争の残酷さ、非日常さをまざまざと描くものが多い。
しかし、この作品は違う。主人公は戦争が行われているという実感をはっきりとは得ないまま、偵察業務を行い、そして戦争を終える。同じ戦争に対しても、仕方の無いものだと受け入れる者、憤りを感じながら正義のために参加しようとするもの、単に面白いものと笑うものなど様々な人の視点が見受けられる。そういう様々な人間がいて、巻き込んで、戦争という「2つの町の共同事業」が完遂された。
戦争と日常は違うものではなく、日常の延長線上に戦争があるという文が印象的だった。