- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480804488
感想・レビュー・書評
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オーストラリアを舞台にアフリカ難民サリマと日本人ハリネズミ、2人の女性の日常で綴られる物語。
職場・語学学校・家・・そのぐらいの限られた空間で淡々と展開される決して明るくない日常。なのに、こんなにも温かく深く広がっていくんだ、ということに静かに感動。
帯に『異郷で言葉が伝わることーそれは生きる術を獲得すること。人間としての尊厳を取り戻すこと。』とあった。オーストラリア在住の岩城けいさんだからこその世界観なのかな・・・。
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夫の赴任先オーストラリアで赤ん坊を抱え英語学校に通う「ハリネズミ」日本人。アフリカ難民で自分の国がどこにあるか、受け入れられた先のオーストラリアが地球のどこかもわからず生きるために同じく英語学校に通っている「サリマ」。ハリネズミは自分の「書く」という生きる術を支えとしながらも不安を抱えている。サリマは貧しさと差別、言葉の壁、子育てに苦しみながら日々を生きている。そんな二人がお互いを意識し近づいていく。暗中模索の日々で二人共、大事なものを失くしてしまう。母国ではないところで生きる厳しさを味わいながら生きなければならない必死さ。その中で再び自分の生きる道を取り戻していく。言葉が通じないということは心が通わないこと、異国で生きていくためには当然のことではあるけど言葉を覚えなければ生きられない。生きる厳しさ、生じる差別を痛感。ハリネズミは「書く」上で母語の大切さを、かつての恩師に訴える。
これは物語であるけど、この世界この地球で生きるために必要なもの、言葉、平和、仲間、連帯・・・の大事さを教えてくれた。 -
異国の地で生きるという事、言葉を持つという事、自分の居場所、母国、外国……難民とか差別とか言語とか母親とか、複雑な問題を通して描かれているのは、人間が生きるっていうただそれだけのものすごく尊いこと。尊い、味の深い一冊でした。
ものを書く人、海外で暮らしたことのある人、家族のある人、生活しながら何かに夢中な人……そうじゃない人にもみんなおすすめ(^_^)ノ -
アフリカのどこかから難民としてオーストラリアに移住して奮闘するサリマの物語と、恩師にあてて文章をつづる苦しさをうちあける日本人女性の手紙。2つの文章を交互に読み進めるうちに、どうやらこの女性2人は、移民のための英語教室に通うクラスメート同士らしいことがわかってくる。しかし、「サリマ」らしき女性が、「ハリネズミ」(とサリマが呼んでいる日本人女性)の手紙の中で違う名前で呼ばれているのはなぜだろう?その謎が最後に明かされるとき、読者は、物語が生まれてく場所に立ち会っていたことを知る。
作者自身がモデルと思われる「ハリネズミ」の描写にあるように(つまり、作者が自身を客観的に評価しているように)、いかにも生真面目で余裕がないようにも感じられる第一作だが、なぜ自分は物語を書くのか、書かざるを得ないのか、という問いを必死につかもうとするこの作家の真摯さは感動的だ。
言葉が自由にならない異国で暮らすという体験は、まるで、皮膚をはぎとられるようなものだ。それまで意識することもなく自分という存在を包んでいた言葉が、自分の外部にある異質な物質のように思えるとき、言葉を操るということの意味を、人は初めて考えるようになるのだと思う。
もちろん、紛争に追われて難民となったシングルマザーの「サリマ」と、大学教員の夫をもち、高等教育も受けている「ハリネズミ」とでは立場が違うことは、作者もよく意識している。だが、異国で暮らすということ以上に、母語の世界から切り離されるということは、追放されること、難民になることに、どこか似ている。「○○を手に入れるために××へ」とまっすぐ進んでいく男たちに置き去りにされがちな女たちにとっては特に。近しい者にも共有されない孤独感の中で、いつまでも着心地の悪い服のようなあたらしい言語をぎごちなく操り、あたらしい関係に通じるいくつものドアを開けていくという経験がもたらす感覚を、自己の中に深く潜って突き詰めたからこそ、作者は想像力の中で「サリマ」にこれほど深く接近しえたのだろう、と思う。
最後の手紙で「ハリネズミ」は、母語とは、祖国につながれた首輪であると同時に、「祖国からたったひとつだけ持ち出すことを許されたもの、私の生きる糧を絞り出すことを許されたもの」だと書く。言葉の難民ともいえるような経験を経た場所で再発見された「母語」、そしてその母語が生まれる「祖国」とは、特定の国境で区切られた現実の地理には限定されないはずだ。日本語を母語とする語り手によって編まれたサリマの物語は、「母語」や「祖国」のあり方を開いてみせるものと言えるだろう。 -
自分かアフリカ難民の立場に立って話が綴れるだろうか。今と違う自分にいざなってくれる小説であった。
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切なくも希望の光がさす物語。周りの人に恵まれ質素ながらも希望に満ちて生きていける、そんな幸せを物が溢れて裕福な中にいる現代人は忘れかけているのかもしれない。
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その社会の言語を操れるということが、人間として認められてその社会で生きられる第一の条件。しかし女性はそれだけでは人間としては認められないのだと作者が叫んでいるのが聞こえる。
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第29回太宰治賞受賞作。
岩城けいさん、初めて読んだ。
文章がどうこうよりも、内容が面白かった。
すごくいい構成だと思った。
ずんずん読めて、あっという間に読めてしまう。
サリマ、オリーブ、ハリネズミ。
人の名前のネーミングのセンスがいい。私はキャッチコピーのセンスのないから羨ましい。
サリマはアフリカ出身、オリーブはイタリア出身、ハリネズミは日本。
サリマとハリネズミが主人公で、場所は英語圏の海沿いの小さな町。
様々な人種の人間の内面や風景景色を丁寧にしっかり描いていて、気持ちよく読めた。 -
温かい作品でした。言葉も通わない異国で生きる不安、孤独、惨めな気持ち。それに真正面から向かうサリマは強く、潔く、美しかった。こんな境遇でも希望を持ち続けるサリマの強さを眩しく感じました。表紙のとおり、オレンジ色に輝くような作品でした。