嘘の木

  • 東京創元社
3.80
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感想 : 117
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010737

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀のイギリスは、世の中が今とはだいぶ違う。宗教、科学、女性のあり方など、私の常識とはかけ離れていて、人々がどう考えるかを想像するのが難しい。
    だから化石の捏造疑惑の真意には驚いた。それほどの苦悩なのかと思うと、やっと少しその時代のことが分かった気がした。
    フェイスの不自由さにも、それが当たり前とはいえ結構モヤモヤする。そんな中行動し、言葉にして、視野が広がり、堂々と人と接するように変わったのがとてもよかった。

  • ものすごくスケールの大きな作品。

    メインのプロットはビクトリア時代を生きる主人公フェイスの父が自殺と疑われるような不審死を遂げて、その疑いを晴らすためにフェイスが立ち上がるというもの。そのためにフェイスはが父が秘密裏に育てていた「嘘の木」を利用しようと考える。この木は養分として「嘘」を与えると実をつけ、それを食べると催眠状態に陥って真実が見えるという。次々と嘘の情報を流して、木を育むフェイス。物語半ばでフェイスは「わたしはうそがうまい」とほくそえむ。ーーYAにこんなヒロイン、かつていたかな?

    フェイスだけでなく誰一人として純粋無垢な人は出てこないんだけど、だからこそこのダークな物語にぐんぐん引きずり込まれる。ビクトリア朝の典型的な婦人として描かれている母マートルでさえもしだいにそのしたたかさがあらわになって、かえって魅力を増す。そして彼女らがとにかくもう終盤たたみかけてくることといったら! ビクトリア時代に自分の人生を生きられなかった女性たちの、あるいは秘めた、あるいはあらわな強さ、ずるさ、サバイバルテク。むしろ、秘密が明るみに出てからの展開が面白かったくらい。最後、進化論に対するフェイスの思いを読んで、ポロポロと涙がこぼれた。かっこいいよ! フェイス。

  • ファンタジーで、嘘を養分に育ち、食べた者に真実を見せる実のなる不思議な木、というのが気になり読んでみました。
    牧師と博物学者である父、女であるが故に知識を持つことも賢くあることも許されない娘のフェイス。
    まだ女性差別のひどかった時代のイギリスが舞台という事で、特に前半はなかなか感情移入しにくい。
    父の死の真相をフェイスが追い始めてから、物語の勢いは加速していき面白くなった。
    嘘の木が見せるものは本当に真実なのか。
    木との出会いによって、退屈でいい子の幼いフェイスは、行動する少し大人の少女へと変化していく。
    アダムとイブの林檎をイメージしているのだろうか。

  • 嘘の木は人間のウソを取り込んで大きくなり、実をつけて、それを食べた人間に真実のビジョンを見せてくれるというものだが、それが本当なのか登場人物たちの思い込みなのかは結局怪しい。光に当たると発火するあたりも、マジカルで不思議な生態。

    前半は時代背景と相まって、女子が学問できなかったり、軽んじられたりするシーンにムカつくことも多かったけれど、後半に行くにつれ、どんな状況であってもしたたかに計算する知恵を女性はもっているということに気づかされる。

  • 大きな「起承転結」の「起」にあたる部分までに130ページ近くかかり、主人公フェイスの周りの人間が全員嫌な奴すぎるのと、いわゆる「フェミくさい」みたいな感想を持つ人がいそうで脱落者が多そうだと感じた。
    私は大好き。
    フェイス(恐らくfaith、信仰という意味?向こうの人はすごい名前をつけるな)は賢すぎる女の子だから苦労の連続。母親も父親もそんな彼女を邪険に扱いがちで、父親は一見味方のように見えてとんでもない傷を彼女につけていく。父親の激した瞬間は苛烈でつらい。やってきた島の医者は学者でもあるくせに「女は頭蓋骨が小さいから脳も小さくて劣ってる」なんてことを平気で言う。たまたま出会った同じ年頃の男の子はいきなり凄惨な場面の写真を見せたりする。新しい使用人もどこかいけすかない。
    読み切って良かった。すべてがきれいにひっくり返りました。母親も考えなしなわけではなく強かに女の戦いをしていたし、ミス・ハンターやミセス・ヴェレの違う一面をフェイスはもう知っている。ポールとくっつくラストにならなくて本当に良かった。くっついてたら絶望した。
    誰も彼も「Aさんには見せてる顔をBさんにも見せるとは限らない」わけだなあと思いました。
    「この時代にありがちな時代にそぐわない女性蔑視」という感想が見えたりするけど、現代でも割と見かける言葉が多いです。男脳女脳とかいまだにあるじゃないですか。
    ミセス・ランバントやミセス・ヴェレ、ミス・ハンターなとが「自分の固有の名前で呼ばれず、姓で呼ばれる」のとかもねー。まさにって感じがします。
    キリスト教のお葬式を知らないので黒い聖書とやらにワクワクしました。

    • しずくさん

      いいねをありがとうございました!
      『嘘の木』は本当に引き込まれました。まるもっちーさんの感想を拝読して、自分が書いたレビューをもう一度...

      いいねをありがとうございました!
      『嘘の木』は本当に引き込まれました。まるもっちーさんの感想を拝読して、自分が書いたレビューをもう一度読み返しました。台風が上陸した3年前の深夜、停電にならないようにと祈りながら明け方まで読み続けたのを憶えています。大型台風だったのに怖さを全然感じさせなかった『嘘の木』でした。
      2023/07/23
    • まるもっちーさん
      コメント気づかず返信遅れてすみません!しずくさんの感想本当に頷きながら読みました。とてもいい本ですよね。私にとっても大切な一冊です。
      コメント気づかず返信遅れてすみません!しずくさんの感想本当に頷きながら読みました。とてもいい本ですよね。私にとっても大切な一冊です。
      2023/10/21
    • しずくさん
      まるもっちーさん、おはようございます!
      全然OKよ。
      お気になさらずに、私も気づかずに半年遅れで返信したことがありますもの(*'ω'*)...
      まるもっちーさん、おはようございます!
      全然OKよ。
      お気になさらずに、私も気づかずに半年遅れで返信したことがありますもの(*'ω'*)
      私にとっても印象深い一冊だったのでついコメントしたくなったの。
      2023/10/23
  • この作品の主人公である知識に飢えたフェイスに深く共感した。

    父は“世紀の発見”と讃えられる化石の発見をした。しかし、新聞では捏造と書かれてしまい、そのため、ヴェイン島に逃げるように引っ越すことになった一家だった。

    引っ越しの際中、フェイスは父の貴重品箱からこっそり「化石がまったくの偽物」と言うことが書かれた手紙を読み、手紙に指の跡をつけてしまう。
    そのことを隠しながら、新しい家での生活が始まる。

    父の謎の死を不審に思ったフェイスは父が秘密にしていた嘘の木の真実の秘密を解き明かす為、不思議な実を口にし、巧妙な嘘を重ね、本当の真実にたどり着く事が出来るか!?


    フェイスの女性として求められているものにうんざりし、頭でっかちであることを悪いと思いながらも、もっと知識欲を満たしたい気持ちが凄くよくわかり、いつの間にかフェイスという大人になりきれない娘になりきり、物語の中で勇敢に冒険をした。

  • 植物が重要なモチーフになっているダーク・ファンタジー。
    主人公の少女が、一見するとか弱そうな立場でありながら、『嘘』を上手く使って『加害者』の立場でもあるというのが面白い。また、『嘘を養分とする木』というモチーフも良かった。実を食べた時の幻覚の描写はもう少しねちっこい方が好みだったか。
    著者の作品が邦訳されるのはこれが最初ということだが、本国では有名な児童文学作家のようだ。他の作品も邦訳して欲しい。

  • この本が児童書のカテゴリーにあることが信じられない。ものすごく重厚なミステリーファンタジーとも言うべき読み応えのある内容だった。
    ダーウィンの『種の起源』が発表され、創造主である主の存在を否定するかのような恐怖に震えた時代。女性が自我に目覚め始める時代。科学とキリスト教。一家と島民。嘘と真実。そして娘と母親。
    いくつもの対立が描かれるなか、父の死を追求する主人公フェイスが自分の中のいろんな面を曝け出していく姿に力強さとともに恐怖も感じる。
    嘘を栄養とする木をめぐるファンタジーな面と、ミステリー要素が見事に融合してページをめくる手が止まらない。
    本当にすごい話しだった。(図)

  •  ファンタジーは滅多に読まないのだけれど、たまたま図書館の新着図書コーナーに置いてあったので。

     有名な博物学者で牧師の父の大発見が捏造であるという報道を受け、逃げるように人里離れた島へ移り住んできたヴェイン一家。しかし到着後まもなく、父が謎の死を遂げる。父に憧れ、密かに博物学者になることを夢見ていた長女のフェイスは、ある日、父が島で極秘に研究を続けていた「嘘の木」を発見する。その木は人間の嘘を養分にして育ち、食べた者に真実を見せる実をつけるという。フェイスはその力を利用し、父の死の真相究明に乗り出す。

     女性が勉強なんて!という時代。母親や周囲の人間たちの、聡明だけれどもまだ幼さの残るフェイスへの仕打ちがなかなか辛辣で、ところどころ読んでいてげんなりした。けれども、孤立無援の中で次々に計画を練って、ときには大人たちを利用しながら真実に迫っていくフェイスの姿は、読んでいるだけで勇気をもらえるような気がした。

     フランシス・ハーディング氏の「カッコーの歌」も機会があれば読んでみたい。

  • ファンタジーとして読んでも、サスペンスとして読んでも、ヴィクトリア朝の時代ものとして読んでも、14才の少女の成長物語として読んでも、楽しく読みごたえがあります。現在まで続く女性問題をヴィクトリア朝社会に生きる女性を通して冷静に描いていること、現在まで続く宗教と科学の問題、すなわち「創造論」と「進化論」を軸に据えていること、などテーマの選び方も野心的ですね。暑さを忘れて、読む楽しさに浸れるおすすめの一冊です。

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