不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881494

感想・レビュー・書評

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  • 孫崎享さんに対しては、最近、著書『戦後史の正体』が「陰謀史観に過ぎる」というような批判も少なくないようだが、少なくともこの本で書かれていることは至極真っ当な指摘であり論であると感じる。

    曰く「不愉快な現実」とは、

    1. 日本の隣国中国は、経済・軍事両面で米国と肩を並べる大国になる。

    2. この中、米国は中国を東アジアで最も重要な国と位置づける。

    3. 日中の国防費支出の差は拡大し、日本が中国に軍事的に対抗することは出来ない。

    4. 軍事力が米中接近した中で、米国が日本を守るために中国と軍事的に対決することはない。

    という「現実」である。
    (「来るべき現実」という意味も含めて)

    この現実の中で日本はどういう道を取るべきか?を論じたのが本書であるが、リアリズムに基づいた論だけに、根拠の無い単に威勢のいいだけの論とは異なり、非常に傾聴に値すると思う。

    中でも白眉は第8章の「戦略論で東アジアを考える」だ。紛争解決とは「ゼロサムゲームではなく、非ゼロサムの思考が必要だ」という指摘はまさにその通りであり、著者が引用されているラムズボサムの「紛争への5つのアプローチ」のフレームワークは大変に参考になる。曰く、「自身への関心」が高く「他者への関心」が低い場合は「競争・対立」的アプローチをとりやすくなる。(上に書いた、単に威勢のいい論者はこのパターンが多い) 賢者のアプローチは「自身への関心」だけでなく「他者への関心」も高い、「問題解決」の姿勢だ。

    「不愉快な現実」を前にして日本人は「米国に追従していれば安心」という"思考停止"状態から抜け出す必要があるという筆者の主張の根底にある姿勢に強く共感する。

  • 我々日本人は「アメリカは日本の同盟国として中国に対峙してくれる」と、無邪気に信じ込んでいないだろうか。「アメリカが中国とのパートナーシップを選ぶ」という可能性について、真面目に考えたことがないのではないだろうか。そもそも歴史的に見てアメリカは中国寄りだった時期も多いわけで、いつまでも東西冷戦の枠組みの中でしか考えようとしない我々は非常に危うい。ロシア、北朝鮮、そして韓国といった「決して穏やかでない」隣国に囲まれた我が国は、どのように生きのびていくべきなのかを真剣に考える必要がある。60年前には殺し合っていた独仏に、多様な宗教、政治体制を乗り越えて連帯するASEANに学ぶべきところは多い。

  • 最近、出版物が多い元外務官僚で、戦略論の著書もある孫崎氏の本。

    これまでの著書は、日米同盟や日本の領土問題などの問題を扱ってきたが、この本では中国の経済的・軍事的な台頭、中国に対してアメリカはどのような関係を今、築こうとしているか、またロシアなどの国々はどのような意図を持ってきているのかなどを取り上げながら、感情論やナショナリズムではない、現実的な対処法の検討を行っている。

    ドイツとフランスの戦争後の関係の築き方など、まだまだ歴史に学ぶ点は多い。脱亜論を説いた福沢諭吉の考えに私たちは非常に多く染まっているが、中国の新の狙いや国益を考えながら、来るべき時代(新しいパラダイム)でどのように振る舞うべきかを考えるべきかを強く思った。

  • この手の本を読むと、提言は分かったけど、個人としてどうすりゃいいの?と思ったりするわけで、この本も例外に漏れなかったりします。
    ただ、この本の価値は、「ゼロサムの結果と非ゼロサムの結果」の図に尽きると思う。
    あの島は我が国の領土的な白黒はっきりさせるのではなく、こっちの主張に加え、相手の主張もよく聞くことで、対立を避け、妥協や問題解決に導くことができる、という考え方は広く応用できると思う。
    まあね、領土問題とか、そんな冷静に話せることじゃないんだろうけどね。

  • 尖閣諸島の防衛に関する第5章は様々な論点が議論されている.「棚上げ」という一見不可解な政策の重要性が認識できた.

  • データを色んな角度から見て、将来の国のあり方を模索し、現実的に政策を実践していく。

    予断と偏見はなしだ。

    アメリカと中国の位置関係、そして、その狭間における日本の立ち位置。

    世界の歴史に学ぶところはいくらでもある。

    日本人だけが考える希望的観測、こんなものは何の役にも立たない。

    日本国を滅亡に導くだけだ。

    そんなことを考えさせられる、元外務官僚の国際的な視点に立った著作だ。

    冷静に読み解かなければならない。

  • 領土問題は複雑だ。
    確かに各国それぞれにその領土に対しての認識や主張は違う。
    それぞれの国の認識や歴史事実を踏まえて外交は進めないと戦争になる。
    特に日本は中国に対して、アメリカが助けてくれると信じているが、実際のアメリカがどのようなスタンスで接しているかを理解していないと放り出されることになる。
    それが、不愉快な現実なのだから。

  • 福沢諭吉が「脱亜論」において、「支韓両国は数年以内に亡国となり、諸外国に分割されることは疑いの余地がない。よって、支韓と伍するのを脱して西洋の文明国と進退を共にするべきである」と喝破して以来150年もの間、戦前は軍事力において、戦後は経済力において、日本の国力はずっと中国を上回っていた。けれども、近い将来中国の経済力は米国をも追い越し、超大国として君臨することになる。軍事的にも、もはや日本が中国に対抗するという選択肢はありえない。このような状況の中で、米国は東アジアにおいて、日本よりも中国を重視するようになってきている。一方の日本はといえば、経済は停滞したままであり、少子高齢化には歯止めがかからず、国力は衰える一方である。明るい話題はなにもない。まずはそれを認めた上で、では日本はどのような道を進むべきなのだろうか?

    ASEANは、イスラム教、仏教、キリスト教国を含み、多様な民族・価値観を内包する共同体である。それにもかかわらず、今やASEAN諸国間で軍事衝突が起きる可能性は極めて低い。著者は、ASEANの叡智に倣って、日中韓で「東アジア共同体」を形成すべきだと説く。

    中国は経済的に日本を追い越したとはいえ、それは単純に人口が多いためだ。一人あたりで考えれば、依然として貧しいままである。(一人あたりGDPがブルガリア、トルコ、メキシコ並みになれば、中国の経済力は米国を追い抜くことができる。)貧富の差・地域格差は拡大し、環境破壊は甚だしく、共産党の独裁が続く。そして国内には、政府が「核心的利益」と主張するチベット、東トルキスタンという大きな民族問題がくすぶる。そんな中国の覇権は長くは続かず、きっとどこかで破綻するに違いないと思ってしまう。

    けれども、中国では伝統的に権威を重んじ、権力は「天」から授かったものとみなす。したがって、(善政を行っている限りにおいては)民主主義体制でないことは中国民衆にとって問題ではないのかもしれない。共産党が国内の不満を抑え込むためには経済成長を続けるしかなく、そのためには外国との経済的結びつきを強めるしかない。そうすると、中国は外国に対して宥和政策を取らざるを得ない。ということは、意外に中国はずっとこのままなのかもしれない。それがまさに、「不愉快な現実」なのである。

  • 孫崎 享 (著)
    日本人が国内で「願望」を語っている間、周りの状況は刻一刻変化している。しかも我々が望まない方向に…。将来必ず起こる「中国が超大国として米国を抜く」事態を前提として、日本の生きる道を探る。

  • 台頭する中国と、それによる日米関係の変化についての本。

    タイトルになっている「不愉快な現実」とは、アメリカが日本よりも中国を重視し、日本だけが一方的に取り残されるという事態を指している。

    外交やパワーバランスについて、専門書を引用しながら書かれていて、日本を取り巻くアジア問題の入門書としてオススメ。

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著者プロフィール

1943年、旧満州生まれ。東京大学法学部を中退後、外務省に入省。
英国、ソ連、イラク、カナダに駐在。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任。現在、東アジア共同体研究所所長。
主な著書『戦後史の正体』(22万部のベストセラー。創元社)、『日本外交 現場からの証言』(山本七平賞受賞。中公新書)、『日米同盟の正体』(講談社現代新書)、『日米開戦の正体』『朝鮮戦争の正体』(祥伝社)、『アメリカに潰された政治家たち』河出書房新社)、『平和を創る道の探求』(かもがわ出版)ほか。

「2023年 『同盟は家臣ではない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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