- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163751900
感想・レビュー・書評
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世界中の耳目を集める金正男氏への単独インタビュー本。
今、このタイミングで読むことに大変な意味があります。
金正日氏の後任である正恩氏は4月15日の金日成生誕日辺りに正統な三代目党首として就任するであろうと言われています。
しかし、彼が就任したとしても本当の意味での後継者争いは未だ渦中なのだということを思い知らされる内容があらゆる文面から読み取ることができます。
正男氏を取り巻く中国、正恩氏、北朝鮮軍部、韓国、朝鮮総連、アメリカなどの色々な状況が今まさに現在進行形で歴史として動いているのです。
正男氏は現在、北京と澳門を本拠地としているため、やり取りしたメールは様々な検閲を受けているに違いありませんが、それでもなお正男氏本人からメールをそのまま翻訳しているというだけあり、彼の人物像を描くのに苦労はしません。
経済に明るく中国式民主化の改革・開放推進派である彼は父正日と政治的な意味合いでは袂を分かったとあり、それ以降、北朝鮮の政治に発言する立場にないともあります。
この彼の言動からは政治への野心が弱くない事が伺えます。
もしかすると父正日氏は正男氏の野心が他国によって利用される=北朝鮮が利用されるという事態を危惧し、それを原因に政治的に袂を分かったのかもしれません。
五味氏は危険な状態にいる正男氏の了解半分に半ば強行で、同本を出版したかの様な記載をしていますが、それは正男氏の立場を守るための小説(嘘)でしょう。
三代目が絶対的カリスマ性を(国内に)持つ前のこのタイミグでの発行を正男氏自身が望んだと思う方が自然だと思います。
また、五味氏はテレビ番組にてオンレコの中でも比較的安全な部分を書きだした本だと言っていましたが、隣国として第二弾もタイミング、内容を共に期待せざるを得ません。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
金正男こそ北朝鮮の唯一の良心であり希望だったと改めて痛感するし、悔しさすら覚える。
あのトチ狂ったロイヤルファミリーの中にいて、これだけ真っ当な思考を持てるのは、海外留学経験の影響も大きいだろうが、本人の人柄に拠るところも多分にあると思う。
金正男が殺害されてしまったことが本当に悲しい。
彼は北朝鮮のヤバさを誰よりも理解していながらも、それでも祖国や父、国民を愛し、最後まで弟のことも信じようとしていたはず。本当に、悲しい。
見た目通り、可愛げのあるとても魅力的な人だったんだろうな…。
※追記
読後、ウィキペディアで改めて事実関係を整理して愕然とした。
結局、本書の著者 五味洋治氏は、金正男からの要望を裏切る形で本書を世に出してしまった。それが直接の原因となったかは定かではないが、少なくとも金正恩の逆鱗に触れて金正男への暗殺確度がグッと上がったことはほぼ間違いないと思う。五味氏は色々弁明の言葉を口にしているが、取り返しのつかないことをしてしまったのだと私は思う。五味氏のウィキペディアのページに 金正男を殺した男とも称される とセンセーショナルな記載があり胸が痛む(五味氏の選択は同じ人間として軽蔑するし許し難いが、金正男にここまで近く交流があったがゆえに本人も相当心を痛めて自分の行為に後悔や罪悪感、良心の呵責を感じたことだろう…)
五味氏の行いを個人的に受け容れがたいため、高評価を撤回。 -
読み進めて最後には、え、、、あかんやん、これ。何とも言えない気分になりました。メディア、新聞記者って、こー言うもんですかね。人が亡くなりましたけど。ダメだと思います。フレンドリーな人柄が仇になってしまった。残念です。
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なかなか興味深い内容だった。ニュースは所詮ニュース。北朝鮮についてさまざまなデマや憶測があるなか、何が事実で何が小説なのか、そのあたりを今までとは別の角度(つまり、正男氏)から知ることができる。正男氏の人柄や考えなども印象的で、イメージがやや変わったかもしれないな(笑)
ただ、おそらく歴史的にも貴重なやり取りであったとして、結局そういう内容なんだな…という感じがする。互いのメールなどは事実であって、それ以上の余計な期待はしない方がいいのかもしれない。謎は謎のままだし。
あと、内容とは関係なくて個人的な好みなんだけど、注意書きは章末にまとめると見づらいので、できれば脚注に記して欲しかった。 そういや、この本を出すのに正男氏はOKだったのだろうか?
(過去の読書記録登録のため評価なし) -
故・金正日総書記の長男、金正男氏。
2001年に東京ディズニーランド観光を目的に、日本に不正入国しようとして話題になりました。
その独特の風貌も相俟ってドラ息子的イメージで世間に捉えられていますが、本書を読むと全く印象が変わります。
2004年に北京国際空港で偶然に正男氏と出会った著者。
渡した名刺のメールアドレスに正男氏からのeメールが届いたことを契機に、途中数年間の中断を挟みながら、150通のメール交換と二度の独占インタビューが実現します。
メール交換もインタビューも、ほぼ一方的に著者が質問を投げかけ、正男氏が慎重に答えるという形式で繰り返されます。
そのやり取りの中で、若い頃から欧州へ留学し国際感覚を身に付けた正男氏の理知的で良識的なパーソナリティが浮かび上がってきます。
母国北朝鮮の人民を救うためには中国式の改革・開放政策が必要だというのが持論の正男氏は、父・金正日総書記にそれを進言したがために疎まれ、後継の座を弟・金正恩に譲ることになったと語る本書。
正男氏自身は世襲に反対なんですけどね。
で、その点については金正日総書記も同じ考えであったが、政権の安定のために止むを得ず正恩氏への世襲をせざるを得なかった、と正男氏は見解を述べています。
著者は、本書の最後に、北朝鮮の混乱を最も恐れる中国政府が、正恩政権が不安定化した場合の「切り札」として正男氏をバックアップしているのではないかとの仮説を語っています。
が、その点についての論拠は弱いかな、というか殆ど論拠は挙げられていません。
正男氏がバランス感覚のある理性的な人物であることは本書によりたいへんよく理解できるのですが、果たしてあの異形の国家をまとめていけるだけの大人物であるのかどうかはやや疑問な気がします。
正直、単調なメールのやり取りが延々と収録されているので、読み物としてはやや退屈で途中で飽きがくるかも。 -
何故か東京新聞の記者か繋いだ細い関係。正男氏とのメールのやり取りと北京でのインタビューによる金正男氏の人物像に迫る。当初は他の記者ともメールをしていたが続いたのは著者だけだったようだ。稀に見るスクープを前にかなり冷静なメールのやり取りは著者のその筋の経験値の高さを感じさせるw
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2017年2月13日、金正男がマレーシアの空港で暗殺された。現時点でこの事件は決着がついていないが、北朝鮮が背後にいるのはほぼ確実だろう。
このような状況にある今、同書が暗殺の契機になったのではないか、との話もでているため手に取ってみた。
著者と正男が多くのメールをやりとりするきっかけが、たまたま中国の空港で取材をしていた著者が正男を見かけて話しかけ、名刺を渡したところ正男からメールが届いた、ということは同書で初めて知った。
空港で少し追い掛けられ、名刺を渡されただけの外国人記者にわざわざメールを送る・・・。
そんな正男の行動に、最高指導者の息子として生まれ、なにごとも好き勝手にできるという自信と、であるにも関わらず親元も国も離れて外国を放浪せざるを得ない孤独感がうかがえるではないか。
私は正男が「金正恩のかわりに北朝鮮のトップに立つべきだった人」だというような意見にはまったく賛同しない。
が、後継者を外れて海外を放浪していたからこそ深められた彼の国際感覚や人懐っこさについては親近感を抱くし、とてもクレバーな人だったんだろうな、と思った。
しかし、何をしても許される、最高指導者の息子だった彼も祖国の意図を読み違えたのだろう。
著者が正男とのインタビューを新聞に掲載した後、彼は国から警告を受けた、として一切のやり取りを公開することを拒み始める。だがそれは、一冊の本として公開されてしまった・・・。
この本が、暗殺の契機の少なくとも一因になったんだろうな、という感想を私も否定することはできない。しかし、かといって著者を責めるのもなにか違う。
自分の意見を公開しても命を脅かされない、そんな国、そんな環境を作ることが大切なのだ。しかし、そのような「環境」がないのは北朝鮮だけだろうか。われわれもきっと、その「環境」を維持する努力を続けていかないといけないのだ。 -
「改革しなければ経済の破綻は目に見えていますが、改革すれば体制崩壊の危機もまねく。ジレンマに落ち入っていると思います。」
「経済は数字の科学です。ごまかせません。」
「三代世襲は社会主義理念と合わず、父も反対だった。毛沢東でさえ世襲はしなかった。」
「国家体制安定のためだったと理解している。北朝鮮の不安定は周辺の不安定に繋がる」
「今も昔も、弟に対しては父上の偉業を継承して、住民がもっと豊かに暮らせるようにして欲しいというのが願いです。そういう能力を持っているので、後継者として選出されたと信じたい」
「弟に対する純粋な思いで、弟に対して挑戦しようとか批判する意味ではない。」
「かなり寒くなりました。日本でなら東京、新橋駅前鉄橋下のおでん屋が思い出される季節です。」 -
北朝鮮というなぞの多い国で、これだけ常識的な考えを持った人が後をついでいたらどうなっていただろうか。
正男氏がなぜ後継者となれず、今のような生活をしているかは不明だが、父である正日氏の体調が良くないと思われる時期にこれだけのことをメールや、話をするときの心中はどのようなものだったのだろうか。
今後、北朝鮮がどのようになっていくかは不明であるが、正男氏が他国との何かしらの架け橋となる日が来ないだろうかと微かに期待している。 -
読み物としてはけっこぅ楽しめた。なるほどこの金正男という人はいまこのような境遇にいるのだということが。
ただし、本当にやり取りした相手が本人なのかは不明だが・・・
以上