【2020年・第18回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 (『このミス』大賞シリーズ)

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  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784299001405

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  •  触れるだけでどんな紙でも見分けられるという紙鑑定士の渡部圭が、遭遇する数々の事件の解決に奔走する姿を描くサスペンスミステリー。シリーズ第1作。
     第18回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作。
             ◇
     ある日、渡部圭の紙鑑定事務所に1人の女性が訪ねてきた。要件は彼氏の浮気調査の依頼である。どうやら「渡部紙鑑定事務所」を「渡辺神探偵事務所」と勘違いしているらしい。それでも暇を持て余していた渡部は話を聞いてやることにした。

     その女性の名は米良杏璃といい、名刺によると職業は美容師、住所は埼玉県所沢市となっている。杏璃から彼氏の浮気を疑った理由を聴いたあと、手がかりになるものを尋ねると、スマホで撮影した画像を見せてくれた。写っていたのはジオラマで、台座の上にあるのはきちんと彩色された戦車2台と兵士2人のプラモデル。最近にわかに彼氏が作り出したものだという。

     紙については造詣が深い渡部だが、プラモデルについては門外漢だ。それでも成り行きで杏璃の依頼を引き受けることにした渡部だったが……。(第1話「風変わりな依頼」) 全25話及びエピローグからなる。

         * * * * *

     紙の販売代理店を1人で営む紙鑑定士の渡部が名探偵への道を歩むきっかけが描かれる第1話。かなり軽い主人公の登場で、東直己『探偵はBARにいる』を連想してしまいましたが、〈俺〉よりもさらに軽いキャラクターでした。

     実はうっかり2作目から読んだため、同様のライトミステリーだろうと思い込んでいたのもあって気楽に読み進めたら大まちがいでした。 
     凄惨な殺人事件が起こり、大量殺人の危険を孕む本格的なサスペンスミステリーではありませんか。だから読み出したら止まらなくなるほど面白かった。

     また、このミステリーの面白さは、渡部の紙鑑定スキルだけでは事件の核心に迫ることが全くできないというところにもあります。『ガリレオ』の湯川や城塚翡翠のような神探偵にはほど遠い。それだけに思わず応援せずにはいられない。うまい設定だと思います。

     だからこそ登場するのが優れた相棒。本作では伝説のプラモデル造形家である土生井と、渡部の元カノの真理子。
     知略の土生井、行動力の真理子。どちらが欠けても大量殺戮を未然に防ぐことはできなかったでしょう。

     特に土生井の優秀さには舌を巻くばかりで、自宅や病室にいながらにして的確なアドバイスを渡部に送ります。その卓越した分析力と推理力は名探偵なみ。土生井の安楽椅子探偵小説と言った方がいいぐらいの大活躍でした。
     出番は少ないものの真理子の活躍も大きい。ランボルギーニアヴェンタドールを時速 240㌔ですっ飛ばし、ショベルカーを自在に操り殺人犯をぶっ飛ばす。
     かくして諸葛亮と関羽を得た劉備のごとく、渡部は事件を自らの掌に収めたのでした。

     さらにテーマもよかった。
     渡部の調査が進むに連れ浮き彫りになる2つの要因。東日本大震災と児童虐待嗜好を絡め、非常に緊迫感のある展開は見事でした。実によく考えられた構成だったと思います。

     先に読んだ2作目が短( 中?)編集で軽い内容だったため、この1作目の充実度の高さが余計に引き立って感じられました。
     さあ、3作目はどうなるのか。楽しみです。

  • 紙と模型の専門家コンビが細かいヒントから大量殺人を食い止める展開にハラハラさせられた。最後のカーチェイス?もおり飽きさせない展開で次回作に期待!

  • 紙鑑定士ってどうも本当にはいないようだ。製紙会社や紙問屋などには紙のことに詳しい専門家がいてもよさそうだが。
    「紙鑑定士」を「神探偵」と勘違いして、若い女性が彼氏の浮気調査を依頼してくる。まあ何だか冗談みたいだが、成り行きで引き受けてしまうというのも冗談みたいで、大丈夫かと思う。ところが、紙鑑定士の主人公渡部圭は女性がスマホに写したジオラマを調べるため、「伝説のモデラー」と呼ばれる土生井と会うことによって、意外とするすると解決してしまう。実はこれは導入みたいなもので、この女性に紹介されてやってきた女性の失踪した妹を探すというのが、この小説の本編なのだ。第2の事件でも、やはり手掛かりとなるのはジオラマで、主人公は土生井と協力しながら、妹を探していくことになる。スマホの検索やストリートヴューを大いに駆使するが、紙鑑定士の能力の方はほとんど役に立ってないのが面白いところ。それよりも趣味のトランプの技の方が結局は役に立ったかな。
    ジオラマからいろいろ読み取り、足も使って探っていくところがなかなかいい。引き込まれる。どうも妹はとんでもない事件に巻き込まれているかもしれないことが分かってくる。
    最後の方は急展開で結末へなだれ込むが、これも割と好みの展開だった。次回作は、紙鑑定が事件解決の中心になるものを期待したいが、なかなか大変かな。

  • どんな紙でも触れば特定出来る紙商の渡部の紙鑑定個人事務所に「神探偵」と勘違いした女性が彼氏の浮気調査の依頼に訪れる。手掛かりがプラモデルの写真だった事から伝手を辿って「伝説のモデラー」土生井に相談した所綺麗に解決。その流れで模型が関わる調査を新たに依頼された所予想もしない展開へ…。安楽椅子の土生井の推理に従って渡部が証拠を足で拾っていく展開なのでせっかくの紙知識よりモデラー知識の方が主体なのがちょっと残念。後半謎が解明される展開が都合良く走り過ぎなのも残念。でも探偵二人の個性の噛み合いが面白かった。渡部の元婚約者真理子強すぎる。次に期待。

  • 紙鑑定事務所を営む渡部。職業柄、紙に関する知識は豊富。その特技を生かし、紙を手掛かりに謎を解いてゆく。ある時、「妹を探してほしい」と妹の部屋にあったジオラマを持ってある女性がやってきた。仕事で知り合いになった模型職人・土生井とともに行方不明の妹を見つけようとする。
    紙鑑定士というと専門的な紙やら何やらでどっぷり紙の世界に浸るのかと思いきや、紙鑑定だけでなく、模型職人との事件ファイルですかね。模型職人も個性的な人で楽しめましたが…まあ、紙鑑定という方が、あまり馴染みがないし、人目を引くかな。
    渡部も土生井、どちらもオタクで専門知識を駆使し、謎を解いてゆくところが、興味深かったし、その知識だけでなく、滞りなく、最後まで楽しみながら読めました。
    それにしても「紙」とは渋いね。

  • 紙鑑定事務所を〈神探偵〉と勘違いした女性の依頼は、プラモデルの鑑定だった。

    第18回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。

    タイトルから、紙鑑定士として、紙から情報を得て推理するのかと思ったら、違っていた。

    どちらも依頼自体がまず、専門外の模型。
    その調査も、伝説のモデラ―に頼ったり、植物学者に頼ったり。

    主人公の、紙鑑定士としての活躍が少なく、ものたりなかった。

    その分、伝説のモデラ―や、彼を紹介してくれる新人君などは個性的。
    模型の知識を使った推理は、おもしろかった。

    情報を絞り込んでいく過程や、物語の展開など、ややうまくいきすぎな感。

  • 本業ではあまり繁盛していない「紙鑑定士」という特殊な職業の主人公が、「神探偵」と勘違いされ、
    紙と全く関係ない「浮気調査」の依頼が舞い込む。

    訳あって業界から干された伝説のプラモデル造形家土生井(はぶい)の助けを借りて、何となく上手く解決へと導いたのがきっかけで、更なる事件の依頼が。。
    再びプラモデラーと共に、今度は「殺人事件」を解明していくことに。

    おおよそ出会うことのなさそうな「伝説のプロモデラー」と「紙鑑定士」。二人の二人三脚はリズムよく進む。
    土生井のプラモデル、ジオラマのマニアックな知識と蘊蓄を駆使して半ば強引に推理されて話が進む一方、肝心の主人公の紙蘊蓄は事件解決にはほぼ役目を果たさず。せっかくどんな紙でも見分けられるすごい技術を持ってるのに残念。
    もうちょっと紙がらみの謎解きがほしかった。。
    巻頭に「本書で使用している用紙」と趣向を凝らした装丁があって、紙がらみの期待度をがっつり上げてた。

    登場人物のキャラクターは丁寧に描かれており、感情移入するのに十分で面白かった。

    唯一、クライマックスに高級スホーツカーでド派手に登場した元カノ真理子さんが。。
    解決に向けて文字通り「スピード感」を物語に添えたが、追ってくる警察を巻き、埋められたバスをショベルカーで掘り起こす神業。。
    そんな重要な役割担うなら、もうちょい序盤からちょいちょい顔だしといて欲しかったなー。。最後良いとこ全部かっさらったね。笑

  • 紙鑑定士。
    ノート(文具)好きの私には興味あり!
    プラモデルを通してヒントを解いていく。もう少し紙に関わった場面があると良いかなと思いました。
    犯人を推理しながら探す 楽しみながら読むことが出来ました。

  • 主人公の「渡部」は、紙の種類を見極めるプロに加えて、トランプで手品師のような芸が出来る設定ながら、自然に読めて好感を持ちました。

    また紙鑑定士ながら、依頼はプラモデルの知識が必要とされる内容というのも独特ながら、渡部をサポートする登場人物によって、割と違和感なく描かれていますし、プラモデルの豆知識も面白かったです。

    事件の真相については、オーソドックスな感じで、クライマックスの場面だけが、何となく、非現実めいた漫画のような展開で、やや拍子抜けした感はありました。本格的な探偵ものというよりは、マニアックな知識が鍵になる場合が多い感じでしょうか。まあ、スマホアプリやグーグルを活用している点は、今っぽい探偵と言えるのかもしれませんが。

    それから、紙の豆知識については、思っていたよりも興味深く、実際手にしている、この本の中の紙が何種類かに分けて使われている贅沢さは、面白いと思いました。本当に色んな紙があるんですね。

  • 最初は読みづらかったが、途中から一気に読み進んだ。紙や模型のプロ、マニアの話にもグッと惹きつけられた。事件自体は途中からネタバレ感もあったけどそんなの全然いい、と思えるような話だった。シリーズ化して欲しい。

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