家庭の医学 (朝日文庫 ふ 25-1)

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022643605

感想・レビュー・書評

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  • 目次だけでわくわくしていた1冊。しかしながら想像よりもずっとずっと悲しい作品だった。作者レベッカ・ブラウンの母が病(癌)に倒れ亡くなるまでの闘病記のノンフィクションなのだ。身内を癌で亡くしているものとしては章が進むごとに悪化していく病状に胸が痛かった。確かに数百人の患者の一人で世の中からしたらたいした問題ではないのかもしれないけれど当事者たちにとっては一大事なのだ。ノンフィクションなのだけれど、小説のような雰囲気。あとがきを読むまで創作だと思っていた。大切な人を病気で亡くしている人にとってはとても胸が締め付けられる作品だがとてもよい。

  • 母親が癌に侵されてから見送るまでの日々を客観的に描いているからこそ読み手が抱く感情の自由度が広い作品。
    家庭の医学というタイトルも一見普遍的なものであるがその奥には一人一人のストーリーがあることを伝えているのだと思う。

  • いつか迎えるであろう死と向き合う準備をするためには、こういう文学がもっとあってもいいと思う。
    近しい人物の衰退と死はいつか訪れるもの。
    個人的な部分の語りをうまく調節していて、誰もが共感できるようにつくりになっている。
    そしてどう考えたってきれいな死に方ではないはずなのに、最後の最後まで母は美しい。

  • 図書館で。書店ガールにこの作家さんが出てきたので借りてみようかな、と借りてみました。このタイトルはあまり合わないんじゃないかなあ…。あとがきでも書いてありましたが原題は家庭医学書からって意味だしなんか思ってたのと全然違う本でちょっとびっくりです。

    簡単に言うと作者さんの母上の病気の発見から亡くなられるまでの本なのですが。大腸がんかなあ。ご母堂がおいくつだったのかは分かりませんが末期ならばそれほど辛い抗がん剤を使わなくても、化学療法をしなくても良かったのではないかなあなんてぼんやり思いました。最初の手術は出血を止めるために必要だったとしても。2001年の本という事なのでそれほど昔の本でもないし…もう少し家族側でも情報収集出来なかったのかな。抗がん剤の副作用でものを食べられなかったり吐いたり、という描写は読んでいて辛いですね。自分が食いしん坊な所為もありますが。

    とは言え何をどう選択しても悔いは残るしこの本は医学や介護に対する啓蒙書なわけではなく作者自身はこのように母を看取った、という日記のような本なのでそれでよいのかな、と思いました。100人居れば100通りのお別れがあるわけでその過程が正しいとか間違っているとかそういう話ではないのだと思います。自分がいかに肉親と決別したのか。必ず訪れる別れをどのように迎えるのか。他人事じゃないなあ、と読みながら思いました。
    寂しい本です。人間、生きているうちに思いを伝えなくてはいけませんね。
    それでも別れの時は辛いだろうから楽しめるうちは楽しまなくては。

  • 生きること、死ぬこと、いたわることについて、生々しくも美しく描かれ、息が詰まるほどの緊張を保っている作品。
    衝撃を受けたし、最も好きな本のひとつ。

  • 面白い構成。ガツンと感動系で泣かされるかと思ったけどそうではなかった。あくまでもサラッとしていて、シンプルに描写されてる。『幻視』の、「母のどこかほかの部分は、何か別のものによって助けられていたと思いたい。何か優しいものによって母が助けられていたと私は信じたい。」という文章は印象的。2011.3.24

  • 癌で死にゆく母を看取るまでを淡々と書き付けた記録。原題は “Excerpts from a Family Medical dictionary”、すなわち「『家庭の医学』からの抜粋」。その名のとおり、各章のタイトルは『家庭の医学』の見出しのような、病気の症状から死にまつわる単語の事典的な定義になっている。
    よくある闘病記のような感傷的・感情的な表現はどこにもなく、ただ静かに「死んでいくプロセス」を見守る著者。その筆致は静謐で美しくさえある。だがその背後にあったであろう個人的な苦しみ、動揺の体験を思うと (それらは本書には書かれていない) 喉の奥が痛むような感覚を覚えた。

  • 母が癌だとわかり、看取るまでのノンフィクション。タイトルにあるように「家庭の医学」的キーワードを軸として語られていきます。それが愛する母の死に臨んでの、精一杯の著者の科学的理性的であろうとする抵抗なのでしょう。

    ▼母が死んだとき、それは安らかでも楽でもなかった。辛い死に方だった。母が死を押し戻そうとしているあいだずっと、支度はできたよとあのとき母に言いはしたけれど、私たちは支度なんかできていなかった。▼

    2010/1/29 読了

  • 怖いけど目をそらしちゃいけないんだなと思いながら読みました。いつ何時、自分やその周りの人がこうなるか分からないです。安楽死や尊厳死の問題と絡めて考えたい、勉強したいな。
    それにしても自分の母親のことを書いてるとは思えない程冷静な第三者の視点からのお話でした。

  • ☆3.5って感じです。

  • 各章の題名となっているのは、貧血とか、転移とか、病気の症状や療法など、そして最後は「remains」死体という意味らしい。作者の母親のガンが発見され末期であることがわかり家族による介護と葬儀までが淡々とした感じで(これは翻訳者の文章のせいかもしれないが)べったりとした感情を排除した感じで書かれている。病気が発見されたときから患者本人も家族もそのときが来ることを覚悟する。一つ一つ治療や症状が出たとき、それぞれがそのときが確実であることを理解する。そうやってみんな確実にそのときに向かいながら残された時間を過ごしていく。淡々と介護する側から見た患者の様子、それを読みながら以前読んだ「35歳ガン漂流」という本を思い出す。末期がん患者が自分自身の経験する治療や副作用のことをつづったものだ。おなじガンという病気の進行状況からそこで起こっている苦痛の様子が思い出される。彼は若かった。彼はひとりで戦っていた。だんだん症状が進むにつれ医師から「死んでいくプロセス」が語られ踏ん切りをつける。少しでも苦痛を取り除くことが最優先となり、家族は安らかに過ごせるように介護する。そして死が訪れる。「死んでいくプロセス」その言葉にいろんなことを思い出す。友人の場合、そのお舅さんは手術のため入院した病院で感染症を併発し医師から「いつ何があってもおかしくないので家族の方は誰かそばについていてください」といわれたという。知り合いのおばあさんは100歳になるが、80歳くらいから危篤といわれ介護施設から病院に移り、回復し老人病院に転院し、また危篤といわれ病院を替わり家族が「危篤」という言葉になんだか慣れて来てしまったという。私の父は、何も言われなかった。それが「死」に向かっていることは確かなのだろうが、体が動かなくなり「寝たきり老人」になっていく過程なのか「死」が近い過程なのか、医師の説明は何もなかった。「だんだん体の機能は低下していますね」という言葉からどんな覚悟をすればいいのか判断しかねた。親戚や親しい人に何か連絡すべきなのか判断しかねているうちになくなってしまった。心の準備は看取るものにとって必要だ。最後の瞬間までにしてあげたいこともある。その時々にどう対応すればいいのか、患者にとって何が必要なのか、そのときが来たとき受け入れるためのこころの準備もしなくてはならない。ある程度の年齢ならそれはいつ怒っても不思議ではないことなのだから普段からしておくことなのか。これから、何度かこういった場面があるのだろうなと思う。それぞれケースは多少違うかもしれないが、誰かを看取るという事は、こんなふうに静かに確かに受け止めなければならないと思う。

  • レベッカ・ブラウンの作品を読み終えると、言い切れない切なさと満足感と脱力感が同時に押し寄せる・・・・・・。
    彼女はそう、画家・エドワードホッパーのような、静かで柔らかく切ないタッチで物語を描く。

    本作は、癌に侵された母親の死に至るまでの過程を、客観的に綴っている。まさに家庭の医学書のように一章ごと、「貧血」「転移」「化学療法」「モルヒネ」「幻覚」「火葬」などの注釈が入り、時系列に話が進んでいく。癌が進行して行くなかで、それを見守るものの想い、願い、行いを繊細に描いており、それゆえに、美しく深い真実の話であった。
    父を癌で亡くした者として、本当にリアルで辛くもありながら、救いのあるノンフィクションであると言いたい。そして同じ想いをした人にいつか、読んで欲しいと思う。

  • お母さんを看取るまで。介護文学というジャンルをはじめて知ったよ。すごく面白かった・・・というかリアルな世界なので他人事じゃないし。自分はどうするだろう。日本も介護に適した社会にならなきゃ。

  • 淡々と書いてるのが、「自分にはここまでしか出来なかった」という自戒も込められているようで逆に痛々しい。でも「看取るこっちも苦しい」みたいな安易な話に持っていかない強さも感じられる。

  • 介護文学。
    看護や介護の道を目指す人は専門書だけでなく、こういう本をよんで何かを考えて欲しいと思う。

  • とてもうすっぺらい、そして字も大きな本ですが、中身はひどく大きなもの。一つの掌編を読むのに大変な時間がかかります。普段のように流して読むのは簡単ですが、この人の文章にはそれをさせない何かがあり私を消耗させます。でも、その消耗が厭なものでないから、私はレベッカ・ブラウンの本を読み続けるのです。

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著者プロフィール

1956年ワシントン州生まれ、シアトル在住。作家。翻訳されている著書に『体の贈り物』『私たちがやったこと』『若かった日々』『家庭の医学』『犬たち』がある。『体の贈り物』でラムダ文学賞、ボストン書評家賞、太平洋岸北西地区書店連合賞受賞。

「2017年 『かつらの合っていない女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

レベッカ・ブラウンの作品

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