ブラックボックス

著者 :
  • 講談社
3.10
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本棚登録 : 2843
感想 : 293
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065273654

作品紹介・あらすじ

第166回芥川賞受賞作。

ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。

自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。
自衛隊を辞め、いまは自転車便メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。

昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。

気鋭の実力派作家、新境地の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞受賞作とは知らずに読みました。

    主人公サクマが抱えるザラザラとしたイラつきが終始まとわりつき こちらまで鬱鬱としてきます。

    こういう常にイライラして いつスイッチ入るか分からないひと居るよなぁ。こわすぎる。



  • “ちゃんとしなきゃ“と焦りつつも、そこを突き詰めずに先延ばしにしてしまう。少なからず、私にも覚えはあります。
    世渡り術を持つ人を羨ましく思いつつも、(サクマは羨ましくないと言っているが、本当は羨ましいのだと思う)同じようには振る舞えない自分。
    自分に欠けているものがはっきり分かっているのに、その先、どう動いていいか分からない。
    そんなサクマの頭の中(決して心の中ではない)がずっと書かれています。もう、ずっとサクマの頭の中なのです。深く深く潜り込んでしまって時々息苦しくなるほど。
    読みながら、サクマに必要なのは教育だろうか?忍耐だろうか?経験だろうか?とどんどんどんどん私自身も深みに嵌まっていってしまいました。
    でも最後は“心の中“が覗けたような気がしたかな。血が通った温かさを感じることができて良かった。

  • 芥川賞
    なんだよね?
    にもかかわらず
    この小説、めちゃくちゃおもしろいです(笑)

    最後まで、ロードバイクの爆走の如く一気読み。

    タイトルの「ブラックボックス」という言葉は、作中で「昼間走る街並みやそこかしこにあるであろうオフィスや倉庫、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようでいて見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。」と説明されている。

    そしてそのわからなさは、
    「帰路についているなかで、どこからともなく漂ってくるカレーとか煮物のにおい」のようだと。

    そうなんだよね。
    見えそうで、見えない。

    他人の生活、心の中、全てはブラックボックスで、覗けるのは(もしくは、覗けた気になっているのは)ほんの一部だけだ。
    世界は、ブラックボックスの積み重ねだ。
    誤解を重ねた上に成り立っている。
    さらに言えば自分も自分のブラックボックスを持て余しており、制御できない。

    だから不安だらけだ。
    だけど、この不確かさこそ、生きる本質であり歓びでもある。

    だって、刑務所のような「制度」は未来を確たるものとして示すことができて安心だけど、やっぱり不愉快だもの。

    • たけさん
      naonaoさん、おはようございます!

      芥川賞っぽくない作品と話題なんですねー
      どうりで…

      読みやすいですが、しっかり芯はある、そんな作...
      naonaoさん、おはようございます!

      芥川賞っぽくない作品と話題なんですねー
      どうりで…

      読みやすいですが、しっかり芯はある、そんな作品です。ぜひ。

      腹筋やって腰痛めたんですか…久々にやるときは無理しないでくださいね。応援してます笑
      2022/02/07
    • naonaonao16gさん
      おはようございます!

      そうなんです!話題です!
      取り上げられている職業も現代的で、現代の芥川賞っていう感じらしいです

      より続けるために前...
      おはようございます!

      そうなんです!話題です!
      取り上げられている職業も現代的で、現代の芥川賞っていう感じらしいです

      より続けるために前より短めのやつにしたんですが、短時間でやる分、きついです…笑
      2022/02/07
    • たけさん
      なるほど。現代の芥川賞ですか。
      自転車メッセンジャーは確かに現代的な職業ですかね。まあ、取り扱っているテーマは普遍的なものと感じました。どち...
      なるほど。現代の芥川賞ですか。
      自転車メッセンジャーは確かに現代的な職業ですかね。まあ、取り扱っているテーマは普遍的なものと感じました。どちらかと言うと肉体派小説かな。けっこうサラッとしていて、そこが現代的なのかも。遠野遥さんの「破局」をほんのちょびっと彷彿させました。

      強度強めのトレーニングなんですね。
      きっとくびれがすごいことになっちゃいますね笑
      ただ、腰は気をつけて!
      2022/02/07
  • 2021下期芥川賞受賞作

    若者の閉塞感と暴力衝動について描かれている。
    清々しさ、爽やかさゼロ。どことなく暗いイメージがつきまとう物語。

    何をやっても無意味な感じ、突然の暴力への衝動など社会の片隅でもがくサクマのどうしようもない孤独と、虚しい内面がしんみりと伝わってきた。
    サクマは私の勝手な推測だが境界知能なんだろう。生きづらさは想像するしかできないがなんとなくわかる気がする。
     
    本作は前後半できっぱり分かれている。前半は20代後半のサクマが、自転車でものを急いで運ぶ仕事メッセンジャーに励みながら、悶々とする姿を描いている。後半は突然に暴力事件を犯した彼の刑務所ライフだ。

    淡々と事実がのっぺりと記されている構成が、サクマが世界とうまく心を通わせられないことを強調している。

    働く喜びは皆無。「ずっと遠くに行きたい」と思いながら、社会の歯車としてひたすらに自転車を走らせるだけだ。ただ将来への漠然とした不安。それはまるで膜がはっているような…

    サクマは私が学生時代に住んでいた近くの三鷹のはずれに住んでいるが、一緒に暮らしている女への愛情は感じられない。そんななかな暴力が噴出する。いわゆるキレて刑務所で暮らすことに。怒りをコントロールできなくて、とっさの感情を抑えられない。

    刑務暮らしで自由を奪われ、逆に自分の人生の大切なことに思いをはせる。
    この物語後のサクマはどうなるんだろうか。
    大げさにいえば、彼の将来は日本で閉塞感や孤独にもがく若者たちの将来なのではないだろうか。
    そんなことを思った。

    • Fiftyさん
      私も短気なので、自分のコントロールは一生の課題だなぁと考えさせられました(^^)フォローありがとうございます!
      私も短気なので、自分のコントロールは一生の課題だなぁと考えさせられました(^^)フォローありがとうございます!
      2022/05/28
  • どこに向かって行けばいいのだろう。
    何のために頑張るというのだろう。
    いつまでこんな日々が続くのだろう。
    主人公サクマのそんな心の声が聞こえてくるようだ。

    辛いことがあっても我慢したり頑張ったりできるのは、守るべき存在、大切な存在があるからだ。
    それがないと、我慢だってできないし頑張れない。
    主人公のサクマには、そういった存在がない。
    親や周りの人たちから十分な愛情を受けられなかったのかもしれない。

    とりあえず生きる。目先の欲望だけ満たされればそれでいい。
    しかし、本当はこのままではいけないとも思っている。
    自分自身への怒りや憤り、焦りがある。
    だから何も考えず自転車で走っているときは心地いいのだろうな。

    そして抱えていた怒りがついに爆発してしまう。
    どこか遠くに行きたかったのに、行けなくなってしまった。
    そんな刑務所での生活は、自由とは対極にあるはずなのに、サクマはやっと解放されたように感じた。
    出所というゴールが見えたから。頑張る理由ができたから。
    …なんか、せつないな。

    人生にはゴールなんてない。
    日々同じループを繰り返しながら、進んだり戻ったりしながら、少しずつ変化していく。
    みんなブラックボックスを抱えながら生きているんだ。
    サクマが新たなスタートを迎えられる日が来ますように。

  • 社会保険とか手当とか医療費とか税金とか
    私も転職するときにあまりに複雑な社会の制度が、しかも複数あって、全部一つずつ自分で手続きしなくちゃで、いろいろ気が滅入ったことがあった。

    「もっとわかりやすく言ってほしかった」。本当にそれ。相手はプロで、専門的なことを論理的に言ってるつもりかもしれないが、素人にとっては全くちんぷんかんぷんであることがたくさんある。

    不安定な仕事で起きる、理不尽なこと。人間関係のいざこざ。
    安定した、条件の良い仕事の求人を探しては、資格やら学歴やらの欄を見て自分は合致しないと諦める日々。
    それと比べると、社会から隔離されたあの場所での生活は毎日やることがあって、安定している。定まっている。皮肉なことに。

    サクマみたいな人、世の中に結構いると思う。生きるって、まともに人生を送ることって、大変だ。そして面倒だ。

  • 前半と後半で環境が全く変わるのが、今までにありそうでなく、面白かった。
    主人公に共感する人は多くはないだろうが、にもかかわらず、何ともいえない焦燥感が伝わってくるのはなぜだろう。
    砂川さん、遠野遥さん、石田夏穂さんなど、今後に期待できる作家さんが多く出てきて嬉しい限り。

  • 芥川賞受賞作。

    なかなか久しぶりに芥川賞受賞作なんて読んだ気がするなぁと、過去の受賞作リストを眺めていたら、なんだタイトルは知っているものもちらほらだが、だいぶ読んだことなかった。
    ましてや『コンビニ人間』なんて、読んでいながら芥川賞であることすら認識していなかった。

    そんなんだから、”ぽい”とか”ぽくない”とか言う程の分際ではないのだけれど、自分のイメージ的にはまさに芥川賞って感じの内容でした。

    なんとなく辿り着いた自転車便という職で、自分の未来について悶々とした思いを抱きながら、肝心の一歩を踏み出す程の真剣さも持てない主人公サクマの下り坂人生譚。

    場面転換の鋭さや、一歩間違うとすぐそこにあるレールから外れた道を進まざるを得なくなる恐怖への煽りには力を感じたものの、ぐるぐるぐるぐる回るネガティブ思考とすべり落ちていくのっぺらな思い、ときに暴発する苛立ちは救いようがなく、苦悩ばかりが色濃い展開。

    ごく限られた場面だけでここまでの苦悩を描き切ったのはさすが受賞作だが、自分的にはもう少しばかりの清々しさが欲しかった。

  • ここまで、読みやすい芥川賞受賞作に出会った事が
    ありません。純文学の良さもありつつ、社会的メッセージも含まれていて良かったです。ただ芥川賞を
    獲るとは思いませんでした。

  • この物語の中で、何度も出てくるフレーズ「ずっと遠くに行きたかった。今も行きたいと思っている」と、「ちゃんと生きると言うこと」。
    主人公は湧き上がる怒りの感情を抑えられず、それが原因での失敗を何度も繰り返す。誰かのために何かをするタイプでもなく、自分の生活を満足させるための努力をするわけでもない、今出来ることの中から無難なものを選んで、なんとなく生活しているような。本人の中ではそれで良しとは思っていないのだけれど、だからと言って変わるために何か、という風でもない。
    おそらくその微妙な、俗に言う「ちゃんと生きるということ」と自分の差が、本人の中でフラストレーションになっているのかな。
    「ずっと遠くに行きたかった」と思うのは、本当は、変わりたいと思う気持ちが底にあるからなのかなとわたしは思った。

    ずっと暗く、恨み節を聞かされているような重たい空気だったけれども、後半になり刑務所の中での場面では、考える時間が増え、毎日変わらない規律の中で自分を振り返り、終盤ではほんの僅か、明るい方へ顔を向けたように思えた。


    芥川賞受賞作、と言うのは実はあまり読まない。元々ミステリばかり読んでいると言うのもあるけれど、読後感というか、なんだかどよーんとした澱みたいなものが自分の中に生まれて、どうにも心地が良くないことが多いから。
    だけどもそれはつまり、物語に引っ張られて、普段の自分では考えなかったことについて、深く考えさせられていると言うことなのかも知れない。

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著者プロフィール

1990年、大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。他の著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある。

「2022年 『ブラックボックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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