読みごたえ抜群な短編小説 後編 ~「深さ」を重視した読書タイム~

こんにちは、ブクログ通信です。

今回は、数ある短編小説のなかでもとくに、短い時間でも濃密な読書体験ができるものを10作品集めました。読みやすさと読みごたえの両方を兼ね備えた上質な短編小説で、「長さ」より「深さ」を重視した読書タイムをお過ごしください。

6.川上弘美『神様』物語の世界には不思議が棲みついている

神様 (中公文庫)
川上弘美『神様 (中公文庫)
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あらすじ

「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである」。3つ隣の305号室に引っ越してきたくまとの散歩。しばしば野原に現れる亡き叔父。300年連れ添った恋人との恋に悩む河童の相談ごと。時おり訪ねてくるえび男くん。おりおりに現れる不思議たちとの触れあいと別れに心がぽかぽかし、そしてきゅうっと切なくなる。日常と幻想を織り交ぜた「空気感」のある9つの物語は、読者を夢想の世界へと旅立たせる。

おすすめのポイント!

『蛇を踏む』で芥川賞を受賞し、『真鶴』など多数の代表作を創り続ける川上さんのデビュー作「神様」を収録しているのが本作です。不思議を愛し、不思議とともに生きていた幼いころの、本を旅する楽しみを思い出させてくれる短編集になっています。「神様」はパスカル短編文学賞を受賞。『神様』全体として、第9回紫式部文学賞、第9回bunkamuraドゥマゴ賞受賞。しゃぼん玉のように脆い世界観をお楽しみください。

川上弘美さんの作品一覧

神様って、もっと崇高で近寄りがたいイメージを持っていたのに、この本に出てくる不思議たちは、決して見た目ではなく、優しくて暖かいものばかり。現実に起こってほしいような、ほしくないような。どのお話も、童話のような気軽さで楽しめました。

m.cafeさんのレビュー

7.乙一『失はれる物語』胸がざらつくほどの、切なさの真骨頂

失はれる物語 (角川文庫)
乙一『失はれる物語 (角川文庫)
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あらすじ

交通事故で植物状態となった私は、闇の中にいた。音も、視覚も、五感をことごとく奪われた私に残されていたのは、右腕の皮膚感覚のみ。未来永劫、囚われの身となった私の救いは、ピアニストの妻が、私の右腕を鍵盤に見立てて想いを伝える演奏をしてくれることだった。だが、その時間も長くなるにつれ、苦しみの時間となる。時間だけがありあまる私は、ある日ついに自殺の方法を見つけ、実行に移す——。表題作ほか、7編。

おすすめのポイント!

猟奇的な殺人などをモチーフに残酷な物語を紡ぐ「黒乙一」に対し本作は、極限の切なさを描く「白乙一」が全開の短編集となっています。収録された短編の中には、映画・漫画・ドラマCDといったメディアミックス作品の原作となるものも多数含まれています。「Calling You」では成海璃子さんと小出恵介さんが、「傷」では小池徹平さん、玉木宏さんらが出演されました。洗練された切なさを浴びたい方におすすめです。

乙一さんの作品一覧

失っていたものを満たされていくのかと思えば、また失う。絶望させられるかのようで、しかし今の自分は以前とは違う。そういうところに光を見いだせる作品たち。

はるじんさんのレビュー

8.青山美智子『木曜日にはココアを』心にはいろんな「色」がある

木曜日にはココアを (宝島社文庫)
青山美智子『木曜日にはココアを (宝島社文庫)
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あらすじ

川沿いの小さな喫茶店「マーブルカフェ」には、木曜日の午後になるとかならず訪れる女性客がいた。彼女はいつも同じ席に着き、いつもココアを頼み、いつもトリコロール柄の便せんに何かしたためている。散歩をする。卵を焼く。ネイルを落とし忘れる。日常の何気ないできごとが繋がり、最後は一人の命を救う。悩みのつきない「今」だからこそ読みたい、居心地の良い12の短編集。青山美智子デビュー作。

おすすめのポイント!

アートセラピーの講師でもある青山さんは、本作で効果的に「色」を取り入れておられます。色にあふれた世界のはずなのに、私たちは忙しさや悲しみといった日常にかまけて、その美しさから簡単に目を逸らすことができてしまいます。実際に目に見える色だけでなく、目には見えない感情の色も含めて、再発見させてくれるような鮮やかな物語です。

青山美智子さんの作品一覧

なんて素敵な本なんだろう…。みんな、いつの間にか誰かの支えになっていて、全ての人がそっと繋がっていて、すごく優しい気持ちになれた。何度も読み返したいと思った。

gyokutoさんのレビュー

9.横山秀夫『第三の時効』渋い!F県警強行犯シリーズ第1作!


第三の時効 (集英社文庫)
横山秀夫『第三の時効 (集英社文庫)
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あらすじ

決して笑わない一班班長・朽木、公安出身の二班班長・楠見、天才型の三班班長・村瀬。個性豊かなF県警捜査第一課強行班の面々は、それぞれの嗅覚を頼りに難事件と対峙していく。第一、第二の時効を過ぎ、第三の時効に現れた逃走犯。しかし、15年前に起きた事件の真相は、予期せぬものであった。警察内部に起こる対立の緊張と、相反する「愛」のエピソードに思わずグッとくる、連作警察短編集第1作。

おすすめのポイント!

班長たちの個性の強さもさることながら、上司や部下など、周りの人物もしっかりと書きこまれています。オトコ臭さの出やすい刑事ものですが、それよりも引き立つ「人間臭さ」に、つい感情移入させられます。「沈黙のアリバイ」「密室の抜け穴」など、ミステリ好きには垂涎ものの章タイトルに、ページをめくる手が止まりません。本作は2002年から2005年にかけ、月曜ミステリー劇場でテレビドラマ化を果たしました。

横山秀夫さんの作品一覧

いやーすごい、連作とはいえ、一編一編が短編とは思えないほど、登場人物の個性がたっていてかつストーリーも読み応えがある。そんでもってとてもオトコクサい舞台なのにすんなり感情移入できる。時間がないけど読書にどっぷり浸かりたいときにおすすめ!

ring-3さんのレビュー

10.金城一紀『映画篇』物語は今日も誰かを救っている

映画篇 (集英社文庫)
金城一紀『映画篇 (集英社文庫)
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あらすじ

在日朝鮮人の僕は、デビュー作の映画化が決まり、現場に顔を出した。そこで再会したのは中学時代の同級生・永花。高校から日本の学校に通うようになったことで「裏切り者」と呼ばれていた僕は、永花と短く近況を語りあう。同級生であっても言葉を交したことのなかった永花とは、あまり会話も弾まず、何となく気まずい空気が流れる。しかし僕は、龍一の消息について、永花にどうしても聞きたいと思っていた。

おすすめのポイント!

全編を通して登場する『ローマの休日』の仕掛けがアツく、映画好きにはたまらない作品です。中学まで民族学校に通い、その後、韓国籍を経て日本に帰化したという金城さん本人の自伝的ストーリーも描かれており、考えさせられることも多い本作。読み終わったあとには映画が観たくなり、物語の魅力を改めて感じるのではないでしょうか。ライフステージが変わるたびに読み直したくなるという方も多いでしょう。

金城一紀さんの作品一覧

映画が織り成す人々の日々を綴った短編集。一番最後のおばあちゃんのために映画を上映する家族の物語が良かった。誰かのために一生懸命な姿ってのはかっこいい。読み終えたあと温かい気持ちが残る小説。

akifldcsさんのレビュー

次々と作品が読める短編集は、忙しい人や読書に慣れない人にもおすすめです。短編で気に入った作家さんの別の作品を読めば、さらに読書の幅が広がっていきます。後編もお楽しみに!