- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062175234
作品紹介・あらすじ
あの忘れられない日を心に刻む、胸に迫るアンソロジー。作家・詩人17人は、3.11後の世界に何を見たのか。
感想・レビュー・書評
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何もかも失って
言葉まで失ったが
言葉は壊れなかった
流されなかった
ひとりひとりの心の底で
三月が来たら辛くて読めないかもと思い、二月の末に読んでみた。
作家・詩人17人による、3.11を心に刻むアンソロジー。
2012年2月24日初版。大震災から一年も経たないうちに編まれた本ということだ。
上に載せたのは、最初に現れる谷川俊太郎さんの詩。
この本を開くたびにこの詩が真っ先に目に入る。これはいい。
というのは、二番手に現れるのが多和田葉子さんのディストピアもので、これがなかなかのインパクト。鋼のメンタルは持ち合わせていないため、とてもじゃないが娯楽として読めない。
いや、娯楽ではなく人間の所業は恐ろしいという怒りの警告か。
ベースのモチーフが3.11なだけに、軽々しいものは一切ない。
それでもその先にあるものを、作家なりの言葉で紡いでほしいと願うのは、読み手の驕りだろうか。
直接被災したひと、遠隔地で被害のニュースを聞いたひと、それ以外にも何かしら3.11を内包して話は進む。
重松清さんの「おまじない」には、心が揺れた。
寓話的味わいのある川上弘美さんの「神様2011」が印象に残る。
池澤夏樹さんの「美しい祖母の聖書」は、映像が目に浮かぶよう。
ひとの手に余るものをコントロール可能と慢心していた私たちも、知らずに加担していたということか。そう思うと、怒りは自分に向かう。
湯水のごとくとはいかないまでも、確かに電力を使い放題だったのだから。
言葉は発芽する
瓦礫の下の大地から
昔ながらの訛り
走り書きの文字
途切れがちな意味
不明な点がひとつ。この本には序文も後書もないということ。
ほぼすべての作品が、初出か書き下ろしなのにこれはどういうことか。
10年後として第二弾を出し、どんな思いを込めたのか編集者に語ってほしい。
まぁこれも読み手の驕りかもしれないが。
それでも三月は、またやって来る。
谷川さんの詩があって、良かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東日本大震災を題材にしたアンソロジー。それぞれの作家が「詩」「短編小説」「エッセイ」などの形で表現している。この本が出版されたときはまだ、震災後1年もたたないうちだったので、作品にする方々も大変な思いの中で書かれたのではないかと察する。直接的に震災を扱った作品もあれば、全くそれには触れない作品もある。しかしすべての作品はあの震災を内包しており、読むものの心にずしりとくるものを感じさせる。震災を実際に体験した人も、直接的な影響のなかった人も「今」この時期の心を知るために是非読むべき作品集だろう。これから時が経て、数年、数十年後にこのような作品集ができるとすると、作家たちはどのような作品を発表するだろうか。またそれを読む我々はこの頃よりも少しでも精神的にも実質的な面でも前に進んでいるだろうか。
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何もかも失って
言葉まで失ったが
言葉は壊れなかった
流されなかった
ひとりひとりの心の底で
言葉は発芽する
瓦礫の下の大地から
昔ながらの訛り
走り書きの文字
途切れがちな意味
言い古された言葉が
苦しいゆえに甦る
哀しみゆえに深まる
新たな意味へと
沈黙に裏打ちされて -
正面から向かったり、一見無関係なことを書いているようだったり。
でも、みんな東日本大震災を心のどこかに納めたいという気持ちは同じ。
震災直後には文学は役に立たなかったかもしれないけれど、前に進まなければいけない今、物語が必要だと思う。-
「物語が必要だと思う」
この一冊は始まりの一冊だと思う。忘れないようにするために、毎年一冊出るくらいが望ましいかも、、、バトンを受け取って書...「物語が必要だと思う」
この一冊は始まりの一冊だと思う。忘れないようにするために、毎年一冊出るくらいが望ましいかも、、、バトンを受け取って書き始める人が出てきますように。。。2012/10/17
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どれも読み応えがあった。
読んでどうして表紙が毛糸なのかわかった。
震災から一年足らずの刊行。多くの作家がこんな大変なときに何を書くべきか悩み考え抜いたと思う。その結果滲み出した言葉も物語も真摯だった。かつ、それぞれのカラーが出ているのはさすがだった。
やさしい鎮魂の話、原発への静かな怒りを伝える作品。自分に跳ね返る怒り。そして未来への祈り。それでも人生は続いていくという希望の話があり、粛々と非日常な日常を続けていく話がある。舞台となった土地柄かな、現代の民話のような雰囲気のものもあって、また何十年後かに読み返して「あの時はこうだった」と意味を持ってくるアンソロジーじゃないかと思う。 -
“暮らしのなかの、そうしたちいさなことどもは、喪失を埋めることはなかったけれど、でも、その喪失は、ちいさなことどもを奪うことはできなかった。”(p.172 角田光代『ピース』)
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3.11をモチーフにしたアンソロジー。
直接的に地震を題材にしている話もあれば、間接的に話の中に織り込んでいるものもあった。
特に心に残ったのは、
「不死の鳥」多和田葉子
「神様2011」川上弘美
「三月の毛糸」川上未映子
「美しい祖母の聖書」池澤夏樹
このアンソロジーは傷ついた人を勇気づけるということを目的にしているわけではないんだと思う。
なす術もなく立ち尽くしている人間たち、まだ立ち尽くすような状況に至っていない人間たちの姿が、作家それぞれの手腕によって描かれている。
自分自身は被害を受けたわけではないが、それでも3.11とそれ以降の日本を生きている者としては、読後感が他の小説と比べてちょっと特別だった。 -
<閲覧スタッフより>
谷川俊太郎や多和田葉子、重松清、小川洋子といった現代の作家・詩人17名によるアンソロジーです。3.11という大きな失意・焦燥感をそれぞれの方法で昇華させた作品群をぜひ一読ください。
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所在記号:918.6||ソレ
資料番号:10212500
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『原子炉はまだそこに立っている 暖めるもの、殺せるものが、まだあるというのか』『幸福が得ることではないと同様、不幸は失うことと同義ではない。』…この日本で起きたこと、今起きていることに関心を寄せ、向き合わなくては。あらためて日本人であることを強烈に意識しました。感じることは読み手によって全然違うでしょう。これ読んだ人の会やりたいくらいです。