「我妻栄」
名前だけは知っている民法学者であり、私が行政書士の学習をしていたときにもしばしば目にする人物であった。
一通り民法の学習はしてはいたが、我妻栄の本は読んだことがなく、この度読んでみた。
まず驚いたのが、民法は一般的には「総則」「物権」「債権」「親族」「相続」というように解説がなされるのだが、我妻栄はその方式を取らず、「序論」「財産法」「家族法」と解説しており、初学者にわかりやすく個別具体的な現象に留意しながらの解説となっている。
かつ我妻栄が「泰斗」と呼ばれるのは、その「話の旨さ」とでも言うべき記述である。詳細は省くが、法律論のみに終始せず、歴史や経済、道徳の要素も交えながらの法律の解説は目を見張るものがあった。「ここでこの話がほしい」ときに見事に文章を綴っている。
もう我妻栄は世を去って50年になろうとしているが、その我妻栄の民法の精神はどこまで受け継がれていくだろうか。2017年に120年ぶりともいわれるの民法の大改正があったが、彼もそろそろお役御免となるのだろうか。この本を読む限りは、まだそうなるとは思えなかった。
2022年9月19日
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日本の私鉄 西武鉄道
- 広岡友紀
- 毎日新聞出版 / -
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少し古い内容ではあるが、西武鉄道に関するあらまし、過去の形式などについては良い本だと思えた。
それなりに著者の主観や感想もあれど、西武鉄道の歴史や過去の形式について知りたい人にはおすすめしたい。
文章の書き方も上手だと思えた。
2022年3月30日
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緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」
- 解説上西充子
- 扶桑社 / 2018年8月9日発売
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この本の内容は議事録から追える内容ではある。しかし注釈が付されており、読みやすい内容となっている。
もちろん野党の「あがき」であろう。しかし単なるフィリバスターに留まらず、今の与党の欠点を指摘し、かつ野党も提案を同時に行なっている。詭弁めいたところもあるが、痛快に「そうかもな」と思えるような内容になっている。
彼は「私は保守」という。奈良時代に賭博禁止令が出されたことを引き合いに、「明治からしか考えない政治家」に疑問を呈する。考えてみれば、女性の天皇、武士は頻繁に改姓していたなど、今からすれば時代背景は異なれど、「日本の伝統」はそこにも見いだせる。
また枝野代表の教養の高さ、論旨の明確さには驚かされる。いたずらに世論の味方ぶるのではなく、彼の矜持とうまく使い分けながら彼の政治観を語る。まさに反軍演説を行った、斎藤隆夫を思わせる。
でもフィリバスターだ!という意見はもちろんあろうが、こんなフィリバスターなら、大歓迎だ。
2018年9月25日
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電車が好きな子はかしこくなる - 鉄道で育児・教育のすすめ (交通新聞社新書117)
- 弘田陽介
- 交通新聞社 / 2017年12月15日発売
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2018年5月3日
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神津式労働問題のレッスン
- 神津里季生
- 毎日新聞出版 / 2018年2月21日発売
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何かと叩かれがちな連合であるが、神津会長の言も聴いてみたいとの一心で買ってみた。
希望・民進騒動の箇所は、要は前原前代表の下策であったとしか思えない。
もちろん彼らなりの心情はある。共産党に関してはあまり了解があるとは思えないが、彼の「労組に入ると職場横断的な知り合いができる」など、労組の有用性は語っている。
しかし、かなり急いで書いた感は否めない。このような本が流行るのではあろうが、誤植や誤字もあるし、もう少し編集して欲しかった本であった。
2018年3月8日
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遊戯哲学博物誌 なにもかも遊び戯れている
- 木村洋平
- はるかぜ書房 / 2017年8月30日発売
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筆者とは一度会ったことがあり、それを踏まえてのレビューとなることをご容赦願いたい。
彼は世の中の事象を「遊び戯れている」という前提に立ち、これもだね、あれもだね、というように考え方を紹介してゆく。なるほどそうか、そういう見方もあるか、と思わせる。どんな本かと訊かれれば、デカルトやヴィトゲンシュタインを連想すれば、わかりやすいだろうか?
何かと哲学は「○○はどうおもうか?」「××とはなんだろうか?」と凝り固まった印象を受けるが、この本はそうではなく、むしろ逆の立ち位置である。言葉の意味や概念を整理してゆく。とても読みやすい本となっている。知らないこともたくさん書いてあった。哲学入門としても良い書籍ではないかとおもう。著者のこれからを期待したい。
2017年12月4日
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野村證券第2事業法人部
- 横尾宣政
- 講談社 / 2017年2月22日発売
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証券マンを目指す人には、ある意味必読の書かもしれない。
とりあえず言えることは、後輩をいじめたり恫喝するのはいただけない、というその思いである。
著者はそのような壮絶な会社にいながらも、なんとか証券をよいものにしようと奔走する姿が垣間見えた。
全体としては、ところどころ専門用語が出て来るものの自分の経験の補説としてにとどまるので、「いま証券市場がどうなっているのか」「これからは証券市場はこうなっているだろう」といった概略・未来が見えてきづらいものがあった。本人としてはデータベースに基づくマーケティングを行いたいという信念に基づいて、会社を設立したようである。彼には証券に関するビジネス書を書いてほしいと思えた。
途中から彼はオリンパス巨額粉飾事件に関与したとし、私もどこまで把握しているかどうかはわからないものの、組織犯罪処罰法および金融商品取引法で逮捕された。しかし彼は冤罪を主張している。理由は金融商品への署名が偽りであったかどうかということである。
著者は有罪になってしまったようだ。獄中でのことを読むと、検察の「何が何でも有罪にしてやる」という執念さえ見て取れ、なんだかいたたまれない気持ちになった。
2017年10月22日
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人工知能と経済の未来 (文春新書)
- 井上智洋
- 文藝春秋 / 2016年7月19日発売
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ところどころ「?」なところがあるものの、極かいつまんでAIの脅威を解説できていると思う。
特に後半のイノヴェーションやBIについては興味深く読んだ。イノベーションは仕事を奪う側面、それに伴う新しい雇用需要を生み出すこともある、ということであった。
しかしすべての仕事をAIが行うようになれば、どうなるであろうか。著者は1割しか社会で働かない社会がそう遠くない将来来るであろうとする。著者はBIというか、負の所得税を算出している。財源的にも問題ないであろうと考える。
資本主義が始まってまだ300年経っていない。延命措置を行いながらも、だましだまし続けている。あともう早くて50年、遅くとも100年以内にAIが経済の屋台骨を支え、BIが配られる世の中になるかもしれない。それはかのシュンペーターが説いた、「安楽死された資本主義社会≒社会主義」へと至るであろう。しかしそれでも、人類は技術革新を続けるであろうか。
2017年9月30日
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中東の絶望、そのリアル
- リチャード・エンゲル
- 朝日新聞出版 / 2016年11月18日発売
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もちろん今はISILに注目されがちだが、それにいたるアルカイダ、アフガン戦争、イラク戦争・・・などに至ることが綴られている。
主に印象的であったのは、イスラム教徒の自らが辿ってきた歴史に対する想いである。ムハンマドによって開祖され、その後のカリフが広げたが、モンゴル勢力によって蹂躙され、その後トルコによって再興されたが、それはどうしても歪んだものになってしまった、という認識である。「イスラームのあるべき姿に戻る」というのがイスラム原理主義である。彼らはとても平和的である。まよえるものに手を差し伸べ、優しく語りかける。「原理主義過激派」というのは、手段が暴力一辺倒ということだ。
著者はブッシュ大統領の外交姿勢にはもちろん批判的であるが、同じくらいオバマ大統領にも批判的だ。結局、中東の考え方、価値観をまったく把握できていないからであろう。後手後手になって当然である。選挙などをやっても落ち着かないのは当然だ。
またISILの狂気を垣間見ることができた。看過できるものではないが、彼等の辿ってきた歴史、外交の結果踏みつけられてしまった「何か」が鬱積してしまったのだろうと思う。これは、ただ「いなくさせればいい」というものではない。
2017年9月5日
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発達障害 (文春新書 1123)
- 岩波明
- 文藝春秋 / 2017年3月17日発売
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数々の症例や事例を引用しつつ、論を進めている。ADHD(注意欠如多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム障害)の共通点と相違点はとても参考になった。
同じ症状でも、ASDに由来するのかADHDに由来するのかで、対応も治療法も大きく違ってくる。場の空気がよめないのはASDであるが、対人関係に不得手なADHDの場合もある。人間との距離の取り方が下手な場合も存在する。
また単純にうつ病として診断されても、障害に由来することもあるので、また一概に語れないのが歯がゆい。
また後半ではサヴァン症候群や、いわゆる「アスペルガー障害」の報道のあり方、それのもとになった犯罪などがつづられている。この辺は「他人の気持ちが分からない」だけでアスペルガー障害であるという風評があるが、そうではない、などが主張されていた。
筆者はADHDやASDの治療として投薬を行っている。これが少し気がかりであった。内容はとてもよいのに、すこしこれで残念に思えた。投薬の副作用がやや問題になっていたはずである。
2017年8月30日
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社会科学入門: 現代の社会システムとアソシエ-ション
- 長島誠一
- 桜井書店 / 2010年9月1日発売
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基本的には、社会科学的なものの見方、考え方を教授する本である。著者がマルクス経済学者ということもあり、マルクス・エンゲルスが随所に引用されている。しかしそれにとどまらず著者の碩学さが伝わる作品である。ところどころあまり確かでない部分はあるが…
またいままでのマルクス・レーニン主義の批判を皮切りに、いままでの経済発展至上主義、開発主義を批判し、環境と社会科学をどう調和させるかの大胆な試みも感じられる。最終的には社会主義に落ち着くが、いまは著者はどう思っているだろうか?と気になる。
2017年7月22日
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自民党ひとり良識派 (講談社現代新書)
- 村上誠一郎
- 講談社 / 2016年6月15日発売
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書いてあることはしごくまっとうなのだが、これが行われていないなら自民党は大問題ということになる。
いまの二回生議員や、そもそも自民党の議員の「職に対するモラルのなさ」は大問題である。たしかにだましだましではあるが公害対策や男女平等、憲法を変えずに来た(これは3分の2という大きな壁があるが)、その他の功罪双方あるとはいえ政治を担ってきたのは自民党であった。当時の政治家は政策の勉強をし、忌憚ない議論がなされてきたそうだ。
その自民党の「よさ」なるものが、「政治改革」の名のもとにすべて吹っ飛ばされてしまったと嘆いているのだろう。角を矯めて牛を殺すと言いたいのだろう。しかし次第に世論の支持を失ってしまった、そのことについて、どう思っているのだろう・・・?
2017年7月20日
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サイコパス (文春新書)
- 中野信子
- 文藝春秋 / 2016年11月18日発売
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ところどころ ? な箇所もあるが、平易な解説としてはよくできていると思えた。
「やはりそうだよね」と思うところも多く、一般的な「サイコパス」の認識は誤っていないようでである。しかし脳の構造や遺伝まで言及している本や、各国で行われている実験結果まで織り交ぜ解説している。本文もですます調であり、読みやすい。
100人に1人と、決して少なくない人数がサイコパスになるようだ。人間関係をアメとムチで使い分けたり、人倫を厭わず冷徹な決断を平気で下せる。ある面では非常に優秀だが、一方では禍根を残すことをする、それがサイコパスである。
2017年7月18日
普段こういったビジネス書は買わないのだが、内容に惹かれて買ってみた。
銀行の今おかれている状況を俯瞰することが出来た。
マイナス金利は必ずしも好景気には結びつかず、無借金経営(与信が成り立たなければ金融の介在する余地がなくなる)ばかり、営業もろくにやっていない中、銀行のおかれる位置は微妙だ。一時期「商社不要論」が言われてしまったが、「銀行不要論」も言われてしまう時代が遠くないだろう。バブルの頃の「不良債権」もまだ終わっていないようだ。事実、地銀は統合が進んでいる。案の定、マイナス金利は銀行の死蔵を進め、各種手数料商売に走り出している。そうすると預金者は敬遠しタンス預金に走る、それの打開策を見いだせていない(後半のAI云々の箇所は専門知識がないので、理解は難しかった)。
基本ビジネス書であるので、営業や経営の示唆もあったが、そこは斜め読みであった。各々の人材の営業力やAIの投入でいなくなってしまう人材の示唆が記されていた。
全体として、専門書のようでもあった。あまり普段を手を出さない分野でもあるので、最近の経済系の動向をしるよいきっかけにもなった。
2017年7月4日
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「オルグ」の鬼 労働組合は誰のためのものか (講談社+α文庫)
- 二宮誠
- 講談社 / 2017年3月17日発売
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大半は、二宮誠氏の体験してきた労働運動の自伝。しかし今では考えられないようなことをたくさんしており、凄まじいものがあった。いまでこそ労組への失望感は尋常ではないが、昔も労組に対する不信感は同様にあったようだ。
しかしそれは直接交渉できるとは思えないからそうなるのであって、行動すれば人はついてくる、と二宮氏は言う。それに異論はないが、実行するのは難しい。
「ケンカは一番強いやつを落とせば勝てる」を二宮氏は実行してきた。武闘のところは読み甲斐がある。それは彼らだから出来たのか、それとも・・・・?
労働組合の再建を期待したい。
2017年6月19日
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鉄道会社はややこしい (光文社新書)
- 所澤秀樹
- 光文社 / 2012年5月17日発売
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知らないこともたくさんあった。相互乗り入れについて、著者の見識が高いことはよく知ることが出来た。都営浅草線は京浜急行電鉄、都営浅草線、京成線、芝山鉄道、北総鉄道が乗り入れるおもしろい路線であることに触れつつ、それ以外のJRの境界駅、神戸高速鉄道、都営浅草線以外の東京の地下鉄を例示しながら論を進めていた。
内容については非常に豊富で含蓄に富み、とても勉強になった。しかし語法や文章の書き方について、違和感と幼稚さが垣間見えた。話し言葉がそのまま本になっている印象を受けた。これはあまりいただけないと思えた。
2017年2月23日
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珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 岡崎琢磨
- 宝島社 / 2016年11月8日発売
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今回は、家庭と離婚の内容に終始した巻であった。内容もなかなか面白かったが、主人公のアオヤマ氏の「初恋の相手」が、紫式部の「源氏物語」に仮託されていることが、とても印象的だった。切間美星バリスタも、相変わらずの冴えわたりである。魅力的な女性だ。アオヤマ氏の話を聞きながら、脳がフル回転していることが、とてもよく伝わってくる。かつ最後に柄にもなく厭世的なことを話すのが、推理小説ならではである。
私は源氏物語をよく知らない。しかし、光源氏が作中、父親の再婚相手の「藤壺」と恋に落ち、姉としては歳が上だが母としては若すぎる年齢であり、結局男女の仲になるというエピソードがあることは知っている。主人公とその「初恋の相手」は十一歳離れており、そのエピソードを思い出した。重ね合わせているのか、と思わせる内容であった。
2017年2月13日
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バーニー・サンダース自伝
- バーニー・サンダース
- 大月書店 / 2016年6月24日発売
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もっと早くに読んでおけばよかった、と思った本である。ただ内容自体は彼がバーリントン市長からヴァーモント州選出の上院議員になるまでの、当選と落選を繰り返した自伝である。
彼は上院議員で民主党と統一会派を組んでいたのはかなり前から知っていたが、組む前の下院議員や市長選では、民共双方とも敵であったのには、ただ驚かされた。二大政党のろくでもなさを、まざまざと痛感させられた。彼の政治家時代は、ビル・クリントン大統領であったが、まさか彼を手放しで称賛するはずもなく、極めて批判的であった。
彼は極めて「思いやりがあり」、「現実的」であり、本当に「弱者の味方」であると痛感した。反戦思想家ではあるが、退役軍人にも敬意を払い、支持を求める。また弱者を救うために、弱者に寄り添い、時には粘り強く個別訪問を行う。経済的に困窮を極めている人は、政治に絶望している場合が多い。しかし彼はそれを変え、市長選で勝利し、バーリントン市を「バーリントン人民共和国」といわしめるまで、彼は支持を固めた。
また反対派の執拗な攻撃も、時には反論し、時には受け流した。相手の論理を逆手に取り、相手をぎゃふんと言わしめる能力さえ、彼は持っていた。
今回の大統領選で、彼は民主党の候補としてヒラリー・クリントンと大接戦を演じた。特別代議員票で彼は負けてしまったが、一般党員票では勝った州さえある。大統領選の本選では、どうなってしまったであろうか。アメリカ民主党は、「今何が必要か」を真に考えなければならないであろう。
2017年1月28日
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日本会議の研究 (扶桑社新書)
- 菅野完
- 扶桑社 / 2016年4月30日発売
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「どこまで本当なのだろう?」と思いながら、ページを繰った本である。しかし著者の文献の渉猟度合いや、取材のやり方などから、それなりの信憑性はあるであろうと推察される。
著者は新左翼と対比しながら日本会議を検討している。いわゆる「左派・インテリ」は署名運動や政治家への働きかけを「ばかばかしい」として唾棄してしまった、と著者は論ずる。しかし日本会議に伍している活動家は、その署名運動や政治家への働きかけを必死にやっている。皮肉なことにそれは、極めて「民主主義的」なやり方である。地方議会や議員に、国政に関わるような質問状や陳情を送っているのは、日本会議が関わっていると彼は断ずる。たしかに地元の市議会でも、そのような請願があるように思えるのも、事実だ。彼らに反対したい勢力が何をすべきかは、答えは出ていよう。
2017年1月23日
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自然発生説の検討 (1970年) (岩波文庫)
- パストゥール
- 岩波書店 / 1970年4月16日発売
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「自然発生説」とは、「動物がどこからともなく湧いてくる」という今からすれば荒唐無稽な論であるが、パスツールが生きた時代では、まだ完全に払拭されてはいなかった。多細胞生物(ネズミなどの小動物)では否定されてはいたものの、微生物では「まだそうなのではないか」と考えられていた(ウィキペディアを参照する限り、自然発生説はアリストテレスが発端のようである)。
パスツールは微生物についても枝付きフラスコを用いて、「そんなことはない」と必死に否定した。空気を遮断さえすれば、微生物のモトは入ってこないことを示した。
しかし、「蛆が湧く」「ボウフラが湧く」「カビが生える」のように、我々は何もないはずのところから何かが出てくるような表現をしがちである。実際、カビやコケ、キノコに関しては漂っている胞子が着床して生えてくる。古代人の直観も、決してバカにできない。
蛆はハエの子であり、ボウフラは蚊の子である。それは人の見ぬ間にたかっているだけの話である。
2017年1月7日
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共産主義批判の常識 (講談社学術文庫 44)
- 小泉信三
- 講談社 / 1976年6月1日発売
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まず思ったのは「彼はよくわかっているし、マルクス主義者としても遜色ないであろうし、そもそもそうでなければ批判ができない」というごく当たり前の感想を抱いた。彼はマルクスの理論をよく学んでいるし、マルクスとエンゲルスのみならず、カウツキー、レーニン、トロツキーやスターリンなどもよく読み込んだ上でこの本をしたためたのであろうと推察した。とりあえずマルクスを批判したいだけなら、この本を読めばよいであろう。革新政党の矛盾性や、マルクスの価値学説に関しては、よく承知している。
しかし、この本に対する批判も、マルクスを奉ずる側からも当然出ているであろうし、出ていなくとも可能であろうと考える。特にレーニンやスターリンの著作は厖大で、小泉信三氏がどこまでそれを読み込んだのであろうか、それは私は知りえない。
結論としては、マルクスとエンゲルスの理論とその影響力は極めて大きいということに尽きる。保守・革新問わず、読まれるべきであると考える。
2016年12月25日
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改訂版 なぜ意識は実在しないのか (岩波現代文庫)
- 永井均
- 岩波書店 / 2016年6月17日発売
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この本は永井先生が集中講座として開いた内容を、まとめ直したものである。
彼なりにわかりやすくまとめたのであろうが、いかんせん話が行ったり来たりした印象を受けた。結論として、「脳と体の関係と心のあり方とは無関係」「他者は哲学的ゾンビ」であろうという結論に至っている。ただしそれはあくまでも「心の哲学」の範疇の話であり、一般的な感覚とは極めて異なるであろうということだ。哲学的ゾンビとは「見た目は人間であるものの、痛みや嗅覚などその他五感を感じることができない存在」を想定している。それはもちろんのことで、自分は自分の五感でしか感じることができず、他者の五感は知ることができない。それと永井先生の特性なのか、議論を煙に巻くような話しぶりが多かった。
「心の哲学」の入門としては良いであろうが、疑問を提起することに終始しており、「なるほどこんなことを考えているのか」という程度の理解でよいのではないかと思う。
2016年10月3日