こんにちは、ブクログ通信です。
子供の頃の夏を思い出させる作品。学生時代のキラキラした夏を閉じ込めた作品。そして、大人になったからこそ楽しめる夏を描いた作品。今回は、さまざまなシチュエーションで夏の開放感を味わえる、とっておきの10作を集めました。今回は後編5作品をご紹介!今年の夏は、ぜひ読書でも夏を楽しんでみてはいかがでしょうか。
6.レイ・ブラッドベリ『たんぽぽのお酒』 SFの巨匠が贈る、懐かしい夏を閉じ込めた物語
あらすじ
1928年の夏。12歳の少年・ダグラスの住む町にも、夏がやって来た。夏の始めには、いつもおばあちゃんが「タンポポのお酒」を仕込む。出来上がったお酒は、1瓶1瓶、どこか違う味になるから不思議だ。輝く陽射しの中、ダグラスが過ごす夏の日々には光と影、命と死の気配が満ちている……。「SFの抒情詩人」とも謳われるブラッドベリの、半自伝的ファンタジー小説。
オススメのポイント!
「古き良きアメリカ」を感じられる、詩的な作品です。SFの大家であるレイ・ブラッドベリの、代表作の1つでもあります。ダグラスという少年を主人公に据え、ひと夏の輝かしくも穏やかな日々を、芸術的な文章でつづった小説です。アメリカの田舎町で過ごす夏の風景をのどかに描きつつも、どこか不穏で、幻想的な雰囲気が漂います。浮遊感、非日常感、郷愁……そういった感情を目覚めさせる、独特な魅力を持つ作品です。夏の開放感を味わいたいとき、特別な夏を体験してみたいときに、読んでみてはいかがでしょうか。
読み始めは、散文詩調の表現の字面を追うだけで一向に頭に入ってこず、なんと読みづらい小説だろうと読み進める意欲を挫かれそうになったんですが、そのうちにそれが心地よく響くようになってくるから不思議なもの。峡谷に向ったまま帰ってこないダグラスを母と弟が探しに行くエピソードや、自分にも若く美しい頃があったことを少女たちに信じてもらえない老婆のエピソード、また、通り魔に遭う危険を顧みず深夜歩きをする若い女性たちのエピソードなど、サスペンスある魅力的な挿話もあり。人生で唯一度しかない、十二歳の夏という刹那への郷愁。そして、身の回りで死や別離の香りを嗅ぎ、少年は人生を識る。人の生命の有限、そして無限を感じさせられる、心地よい読後感。
7.みうらじゅん『色即ぜねれいしょん』 忙しい毎日を忘れ、自由でおバカな夏休みを楽しもう!
あらすじ
「僕」こと乾純は、仏教系男子校に通う高校1年生だ。彼女はいない。もちろん、経験もなし。憧れの人はボブ・ディランで、作曲に燃えているけれど、平凡な毎日を過ごしている。ある日、友人からの一言で「僕」の夏休みは特別なものになった。友人2人と一緒に訪れたのは、隠岐島。そこで待っていたものは……。
オススメのポイント!
イラストレーター、ミュージシャン、エッセイストなど、多才な活躍をみせるみうらじゅんさんの自伝的小説です。冴えない奥手男子高校生の、おバカで真っ直ぐで、単純明快な夏の日々を描いています。かつて男子高校生だった人は、感情移入しすぎて身悶えすることでしょう。かつて女子高校生だった人は、「男子ってバカだな~」と笑ってしまいながらも、共感できる部分が多くあるはずです。高校生ならではの自由さ、無鉄砲さ、無邪気さが見事に凝縮された1冊となっています。
最高です。とにかく最高です。最近読んだ本(真面目な本もそうでもない本も全部ひっくるめて)の中でも、ダントツの一等賞です!自分の青春時代が一気に思い出され、赤面しながらも一心不乱に読んでしまいました。男なら誰でも共感できます。馬鹿だったなぁ・・・俺
8.森見登美彦『宵山万華鏡』 現実世界のしがらみを絶ち、夏の異界へ誘う幻想小説
あらすじ
「俺」は、変わり者の友人と共に祇園祭に出かけた。突如、屈強な男たちに囲まれ、「宵山法度違反」を犯したとして捕らわれてしまう。にぎやかな祭りの夜に現れる異形の者たち。彼らが崇める「宵山様」とは——。美しく艶やかで、妖しくも恐ろしい幻想小説。
オススメのポイント!
『夜は短し歩けよ乙女』や『ペンギン・ハイウェイ』でおなじみの人気作家・森見登美彦さんによる、夏気分を味わえるファンタジックな物語です。舞台は祇園祭りの宵山で、人と「人ならざる者」が入り交じる不思議な世界を体験できます。本書には6つの短編が収められており、タイトルにある通り、まるで万華鏡のようにクルクルと入れ替わる視点が読者を翻弄します。気が付けば、まるで異形の者たちの世界に囚われてしまったかのような感覚に陥ることでしょう。夏祭りならではの色彩と人のにぎわいが、目に浮かぶような作品です。
現実の世界と宵山様がいる別の世界とリンクしてその境界が曖昧でクルクルと万華鏡のように変化し、幻想的な世界を醸し出しているのが魅力的。あとがきで著者自ら祭りの神秘性について語られていますが、確かに祭りというのは異世界とまでは言わなくても、この世と別の世界とが何かの拍子に繋がってしまうような非日常の感覚がありますね。幼かった頃、人混みで迷子になるんじゃないかと思った怖さ、それを上回る祭りから得られる高揚感、そんな感覚を久しぶりに味わいました。
9.吉田修一『横道世之介』 愛すべき普通人・世之介と一緒に、儚い夏を噛みしめる物語
あらすじ
1980年代後半。18歳の横道世之介は、大学進学のため長崎から単身上京してきた。自動車教習所に通い、アルバイトに精を出し、ごく普通の大学生として過ごす新生活。世之介は、実は押しに弱い。しかし、隠された芯の強さも兼ね備えている。友人の結婚と出産、学園祭でやったサンバの行進、お嬢様との恋模様……さまざまな出会いと笑いを引き寄せるのが、世之介だ。
オススメのポイント!
押しに弱くておとぼけな愛すべき人物・世之介の、20年前と現代の様子を描いた小説です。2つの時代が交錯し、家族や友人たちとの関係から、世之介というごく普通の人物の魅力が鮮やかに描き出されていきます。大学生ならではの、自由と不自由が入り交じった夏の描写は、きっと多くの人の心に強い印象を残すはずです。登場人物がところどころで発する、名セリフの数々にもぜひ注目してみてください。学生時代の夏を思い出し、楽しかったことや無茶したこと、切ない思い出や黒歴史など、さまざまな感情を刺激してくれる作品です。
横道世之介の青春小説。1980年代後半、大学進学で上京した世之介。サンバ同好会でのこと、恋人とのこと。そして、現在、仲間たちが世之介のことを思い出す。世之介さんは、押しが弱いとか表面的には強さはないんだけれど、やわかさ、人柄に読んでいる自分もほんわかムードになる。そしてクスリと笑える。その辺が実にうまく表現されているなあ。世之介さんは強烈なものはなくても穏やかでも確かなる影響力を持った人だったのだあと思えるし、自分の周りでも個性それぞれで、人と人との結びつきを考え…その中で幸せを感じたのでした。そして、いくつかの言葉が私を励ましてくれて、なかなか良い読書時間を味わえた、世之介さんに感謝だ。
10.瀬尾まいこ『君が夏を走らせる』 不良男子と1歳児の、かけがえのない夏の日々
あらすじ
16歳の大田は、ろくに高校に行かず、夢中になれるものもなく、ただ毎日をやり過ごしていた。ある日、先輩から電話が入る。聞けば、一か月ほど娘・鈴香の子守をしてほしいのだという。断り切れずに引き受けてしまった大田だが、1歳の鈴香を前に、振り回されてばかりだ。泣き止まないし、ごはんを食べない。意思疎通もままならない鈴香との日々は、やがて大田にある変化をもたらして……。
オススメのポイント!
いわゆる「不良」な大田と、言葉もおぼつかない鈴香という、異色のコンビの物語です。子供の扱いに慣れていない大田が、どうやって鈴香との距離を縮めていくのか。物心つかない鈴香が、大田と一緒にどんな日々を過ごすのか。ぜひ実際に読んで確かめてみてください。読後には、きっと心の中に爽やかな夏風が吹き抜けることでしょう。家族とも友人とも違う、年齢も性別も超えた1対1の関係が、温かな文章で描き出された感動作です。この作品を知った後には、じめっと暑い日でも「なんだか、いいな」と思えてきますよ。
変わりたいのに変われない。中学生、高校生くらいって環境に流される方が生きやすいって感じてしまう。ただ、誰かのために頑張れる自分を知っていれば、真っ直ぐに進んでいくことができるんだと自分を信じる希望を感じさせてくれる本。子育てって大変だけど幸せなんだろうなぁと思える本。
暑い日には、涼しい部屋で夏ならではの物語を楽しんでみませんか?今回ご紹介した作品では、夏気分を高めてくれる冒険やスリル、感動を味わうことができます。気になった作品は、ぜひチェックしてみてくださいね!前編5作品はこちら!