お金本

制作 : 左右社編集部  吉川英治  江戸川乱歩  金子光晴  加藤謙一  吉屋信子  宇野千代  横光利一  井伏鱒二  川端康成  壺井栄  石川淳  三好達治  稲垣足穂  草野心平  森茉莉  羽仁説子  山本周五郎  小林多喜二  堀辰雄  幸田文  平林たい子  坂口安吾  高見順  太宰治  白洲正子  森敦  織田作之助  柴田錬三郎  やなせたかし  山田風太郎  鶴見俊輔  遠藤周作  池波正太郎  吉行淳之介  立原正秋  北杜夫  羽仁進  田辺聖子  野坂昭如  小松左京  有吉佐和子  石原慎太郎  赤塚不二夫  つげ義春  赤瀬川原平  石ノ森章太郎  佐野洋子  南伸坊  北野武  橋本治  村上春樹  忌野清志郎  中島らも  魔夜峰央  有栖川有栖  山田詠美  町田康  穂村弘  角田光代  村田沙耶香 
  • 左右社 (2019年11月1日発売)
3.13
  • (2)
  • (8)
  • (15)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 348
感想 : 22
3

お金にまつわる文章(マンガも)をたくさん集めたアンソロジー。最初の方には、荷風、漱石、百間、鏡花などなど、文士たちの「カネがない」貧乏話が並んでいる。ごく短いものも多く、三分の一くらいで飽きてしまって、まん中あたりは飛ばし読み。でも、最後の三分の一くらいで、ちょっと長めのものがあったせいか、おもしろくなってきた。

文章が好きなのは町田康。リズミカルかつ破調という独特の文体で読ませる。胸を打たれるのが小林多喜二。以前梯久美子さんの本で終生の恋人タキさんとのことを読んでいたので、ここに採られた恋文にはなんともいえない切なさを感じた。なんてやさしく美しい文章なんだろう。切ないといえば、魔夜峰央のエッセイ漫画もそう。お母様との思い出話にじーんとする。

佐野洋子「死ぬ気まんまん」は好きな一冊だが、そこからも採られている。ここまでサバサバと湿り気のない文章というのはあまり知らない。癌を患い「死ぬことが間近になったら、死んだらお金はかからないということに気がついた」佐野さんは、「最後の物欲」として、「いちばん美しいとずっと表面には出さずに思っていた」イングリッシュグリーンのジャガーを買う。ジャガーを指差し「それ下さい」と言って買ったそうだ。かっこいいなあ。

いちばん「そうだよなあ」と思ったのは、意外にもビートたけしの書いたもの。いやあ、ビートたけしってあんまりいいい印象を持ってないんだけどな。でもここに載せられている一文は、長くても全部引き写したくなるくらい、納得の内容だった。「友情(愛情)は金で買えない」という言い方にどうも違和感があったのだが、たけしの言葉でそれがなぜなのか腑に落ちた。友情(愛情)とは、相手を大事におもう自分の気持ちであって、「買えるとか買えないとか言っていること自体がおかしな話なのだ」。いやごもっとも。以下は引用。
「誰だって、金は欲しいに決まっている。だけどそんなものに振り回されたら、人間はどこまでも下品になるというのが俺の母親の考えだった。貧乏人の痩せ我慢と言ったらそれまでだが、そういうプライドが、俺は嫌いじゃない」
「人間なんてものはどんなに格好をつけていても、一皮剥いたらいろんな欲望の塊みたいなものだ。でも、だからこそ、その一皮のプライドを大事にしなきゃいけない。それが文化というものだろう」
「お金がないことを、そのまま『下流社会』といってしまう下品さに、なぜ世の中の人は気づかないのだろう」

最後に。貧乏話はやはりつげ義春にとどめをさす。「無能の人」は最強だとあらためて思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アンソロジー
感想投稿日 : 2024年2月4日
読了日 : 2024年2月4日
本棚登録日 : 2024年2月4日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする