お金にまつわる文章(マンガも)をたくさん集めたアンソロジー。最初の方には、荷風、漱石、百間、鏡花などなど、文士たちの「カネがない」貧乏話が並んでいる。ごく短いものも多く、三分の一くらいで飽きてしまって、まん中あたりは飛ばし読み。でも、最後の三分の一くらいで、ちょっと長めのものがあったせいか、おもしろくなってきた。
文章が好きなのは町田康。リズミカルかつ破調という独特の文体で読ませる。胸を打たれるのが小林多喜二。以前梯久美子さんの本で終生の恋人タキさんとのことを読んでいたので、ここに採られた恋文にはなんともいえない切なさを感じた。なんてやさしく美しい文章なんだろう。切ないといえば、魔夜峰央のエッセイ漫画もそう。お母様との思い出話にじーんとする。
佐野洋子「死ぬ気まんまん」は好きな一冊だが、そこからも採られている。ここまでサバサバと湿り気のない文章というのはあまり知らない。癌を患い「死ぬことが間近になったら、死んだらお金はかからないということに気がついた」佐野さんは、「最後の物欲」として、「いちばん美しいとずっと表面には出さずに思っていた」イングリッシュグリーンのジャガーを買う。ジャガーを指差し「それ下さい」と言って買ったそうだ。かっこいいなあ。
いちばん「そうだよなあ」と思ったのは、意外にもビートたけしの書いたもの。いやあ、ビートたけしってあんまりいいい印象を持ってないんだけどな。でもここに載せられている一文は、長くても全部引き写したくなるくらい、納得の内容だった。「友情(愛情)は金で買えない」という言い方にどうも違和感があったのだが、たけしの言葉でそれがなぜなのか腑に落ちた。友情(愛情)とは、相手を大事におもう自分の気持ちであって、「買えるとか買えないとか言っていること自体がおかしな話なのだ」。いやごもっとも。以下は引用。
「誰だって、金は欲しいに決まっている。だけどそんなものに振り回されたら、人間はどこまでも下品になるというのが俺の母親の考えだった。貧乏人の痩せ我慢と言ったらそれまでだが、そういうプライドが、俺は嫌いじゃない」
「人間なんてものはどんなに格好をつけていても、一皮剥いたらいろんな欲望の塊みたいなものだ。でも、だからこそ、その一皮のプライドを大事にしなきゃいけない。それが文化というものだろう」
「お金がないことを、そのまま『下流社会』といってしまう下品さに、なぜ世の中の人は気づかないのだろう」
最後に。貧乏話はやはりつげ義春にとどめをさす。「無能の人」は最強だとあらためて思った。
- 感想投稿日 : 2024年2月4日
- 読了日 : 2024年2月4日
- 本棚登録日 : 2024年2月4日
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