4

33人のラーメン愛。多くは文学関係者。雑誌や本で過去に発表したものを集めている。年齢はかなり幅がある。

千葉雅也氏のがあったので読んでみた。
「タナトスのラーメン きじょっぱいということ」群像2014.4月号
これは、題名を読んだだけでピンときた。千葉氏と同郷・北関東人なので、その”きじょっぱい”味が体でわかる。・・しょっぱい味への憧憬が哲学的表現で書かれている。ラーメンだけで、これだけ生地に対する思考を吐き出す、恐れ入りました。

 旨みのハーモニーはどうでもよい。きじょっぱいだけであるもの、きじょっぱさによる痛打。きじょっぱさの海に、たおし落とされたいのだ。・・きじょっぱさという質は、ぼくの生地である北関東に連合されている。単純に鋭角なるきじょっぱさは、僕の十八歳までの日々を、まさしく塩漬けにしている。
 ・・帰省する新幹線で・・大宮から乗ってきた中年男性が、満員の車内を見るや否や「だーめだ」と尻上がりに吐き捨てる。鼻をかんだティッシュでも放り投げるようなその「だ」の諦念は、深さにおいて東北の地霊に完敗しており、速度において首都を羨望するしかない北関東の中途半端さ、それゆえの消極性が、僕においても塩漬けになっていることをただちに意識させたのだった。
 きじょっぱいラーメンのスープを舌頭でループさせて僕は、塩漬けにされた「あの頃の理想の破片」を、僕自身のなかに吐き捨てるーーや否や、啜り直すのでありそしてふたたび、塩漬けにするのだ。

千葉雅也:1978年 宇都宮生まれ

2014.6.30初版 図書館

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・小説・エッセイ 日本
感想投稿日 : 2022年9月10日
読了日 : 2022年9月10日
本棚登録日 : 2022年9月10日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする