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読書案内の本。

毎日新聞に連載された書評欄より。新刊書の書評じゃなく、選者の思い出の一冊を紹介している。まず読みやすい。上質な紙。藍色だけ使った文字と挿絵。字体も、誰もが手に取れる読みやすさ。センスがいいが、何よりも。池澤夏樹さんの序文からして、上手い。この方は当代一流の読み巧者のお一人だけれど、この読書案内の面白さは、そこで決まらない。

選ばれている本は硬軟取り混ぜいろいろ。とにかくまあ読んでみる。という、その行動だけを促す。そういう読書に向いている。というのも、序文で、『一度読んだ本が、今なら面白く読めるよ、と戻ってくる事がある』旨を書かれているのだけど、こういうことって本当にあるからだ。

権威的な名作主義はつまらないけど、スタンダードな本には、やはり長い時間を生き抜いてきたチカラがある。
難しいのかと思っていた本も、こんなの読まないよと思っていた本も、読んだ人から『こんな本なんだけど」と取っ掛かりを付けてもらえば、あとは作品が面白いので、ぐいぐい読めたりする。

選者の方のご経歴は錚々たる顔ぶれだけど、ご経歴は巻末にまとまっていて、主役は本そのもの。そして読書体験の共有そのものなんだという編集方針も心憎い。そういう意味で、まあ、良いから実際に読んでみるか。という気にさせる読書案内なのだ。

スタンダードは、難しいんじゃないかという思い込みを外すこと。それさえ叶えば、むしろ自分で選ばない本が多かったので、まず立って本を手にしにゆこう。読めば人間の綴ったものだもの。先に読んだ人もいるのだし、私が読んだって絶対面白い。

昔読んだきりの、あの本も。名前だけうろ覚えのあの本も。出会える。藍色の文字に導かれて、やあ、と手に取ろう。ダメだったら?時期見てまた会いに来たら良い。
読書ってそういうものだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 読書案内
感想投稿日 : 2022年1月29日
読了日 : 2022年1月29日
本棚登録日 : 2021年10月2日

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